偽りに燃えて

羽翼綾人

文字の大きさ
21 / 40
【第四部】炎上、そして爆発

ガチのエロ絵師

しおりを挟む
 あの日当たりの悪い、隠微な和室の書斎。
 詩的な背景に、鮮やかな色彩で描かれる二人の淫らな接合、口淫、初めての体位。
 いずれも男の顔は見えない。
 しかし、女の顔は細微に再現されていた。
 それはあの子鹿と同じ目をしていた。
 初めての戸惑い、恥じらい、喜びが、顔や身体の動きから、絶妙に読み取れる。
 結婚指輪から二人が既婚者であることも示されているが、日中に男女が切なく交わる図に、夫婦を連想する人はいない。
 これは、芽衣が浩一への想いをそのまま作品にしたものであった。
 SNSは、爆発的に拡散された。
 浩一の指示も、英恵の善意も、企業の擁護も、すべてを置き去りにして、芽衣が投じた作品は、炎上の意味そのものを変質させた。
 生々しい情景。
>『下半身が爆発』
>『え、イグニスって、あの鹿のパクリの?』
>『イグニス炎上からイグニス爆発へ』
>『僕の下半身もイグニス爆発しそうです……』
 彼女の投稿はR-18のラインをも越えるセンシティブな内容として、アカウントは規約違反により、数時間後に凍結された。
 だが、その数時間で、作品は無数の人々に保存・拡散され尽くしていた。
 イグニスを批判していたインフルエンサーが、削除された彼女の画像を『検証』と称して、無断で再アップロードしたことで、その矛先は大きく変わった。
『こいつ、イグニス先生の作品を、勝手に投稿してるぞ』
『こんな奴が著作権を論じてたの。笑える』
 とりわけインフルエンサーのアンチが騒ぎ立てて、大きな燃え上がりが始まった。
 匿名掲示板では、昨日まで「パクリ疑惑」で燃えていたスレッドが止まり、代わりに「【速報】イグニス先生、ガチのエロ絵師だった」というスレッドが、乱立し始めた。
 世間の反応は、批難から絶賛へと変わった。
『これ、オイルマンのパクリとかどうでもいいわ。画風は似てるが、圧が違う』
『オイルマンは「光」を描く。イグニスは「熱」と「湿度」を描く』
『あの無垢な子鹿の瞳に感じた「官能的な湿度」の正体、これだったのかよ』
『パクリ絵師から、一日で『最高のエロ絵師』に転生したぞ』
 炎上は鎮火したのではない。
 私刑目的の「パクリ」の火は消え、芽衣の「才能」への称賛の聖火が、まったく別の場所で、より激しく燃え上がったのだ。
 ミネラルウォーター企業は、該当アカウントが凍結されたため、言及する責任などないように沈黙した。
 一般のネットユーザーは、イグニスの今後の活動に期待を寄せる声が増えていた。
『イグニス先生、新作お待ちしています』
『企業もこれを非難しないよね。某電力会社のキャラデザ描いていた女漫画家の作品、あれもヤバかったし』
『先生の男女、いい。この二人をモチーフにこれからも描いてほしい』
 芽衣は、この様子を無表情に見つめながら、「よかった……。これで守られた。……全部」と胸を撫で下ろした。
 しかし、ネットの空気が変わるのを見て、青ざめている人物がいた。
 出光浩一であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...