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【第四部】炎上、そして爆発
見捨てないでください
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芽衣の「イグニス」アカウントが凍結されてから、数時間が過ぎていた。
出光家のリビングでは、浩一が作業デスクの前で、凍りついたように動けなくなっていた。
SNSの熱狂は、収まっていない。
彼の目の前の液晶タブレットには、無数の「まとめサイト」やSNSのスクリーンショットが映し出されている。
そこには、『検証』と称されて無断転載された、芽衣の「作品」が、称賛のコメントと共に晒され続けていた。
それは、紛れもなく自分の画風だった。
そして、それは自分と芽衣だけが知る、あの和室での「秘密のレッスン」そのものだった。
(これは、オイルマンには描けない、彼女が情熱を傾けて、彼女にしかない内面を表出化した、完全にオリジナルの作品だ)
これで確かに「パクリ疑惑」や「ゴーストライター疑惑」は、鎮火した。
だが、その代わりに自分の最も隠すべき行為が、「作品」という決定的な証拠となって、全世界に拡散されてしまったのだ。
(芽衣……いつのまに、あんなものを……)
しかも彼はあの従順な生徒に、「沈黙しろ」と指示したはずなのに、彼女はそれを無視して、自分たちの秘密を「作品」として世に放った。
浩一は自分の足元が危うくなったことに震えた。だが同時に、その「作品」から目が離せなかった。
(……スキャンダルさえなければ、僕はこの作品をどう評価しただろう。……この湿度、そして、この熱……くそっ、これは僕には描けない。あいつは教師の技術を食って、それを超えたのか……)
この底知れない大胆さと、才能の底力に、浩一は言葉を失っていた。
「ただいまー。……ねえ、浩一、見た!?」
パートから帰宅した英恵が、興奮した様子でリビングに入ってきた。
「芽衣ちゃん、すごいよね……!」
英恵の声は、予想外の展開に対する「驚嘆」に満ちていた。
「パクリ疑惑、SNS、ピタッと止まってるじゃない! まさか、あんな……あんな官能的な絵を自分で公開して、全部黙らせるなんて!」
英恵は、芽衣の常軌の逸したやり方に驚き、しかも手際を純粋に評価していた。
「『パクリ』って言われたから、オイルマンが決して描かない『イグニスだけのオリジナル』を見せつけたってことよね。……見上げる度胸だわ」
英恵は、感心したように息を吐いた。
彼女のオリジナルな作品と、判断は、結果として目の前の問題を解決した。
浩一は、彼女の顔や声色を観察して、皮肉が混ざっていないかを密かに探していた。
そして、そこには純粋な喜びしかないのを認めると、「まあ、さすがだよな。あの子のこと、僕はよく知らないけど」と言いながら、ふらりと立ち上がった。
「……あなた、顔色、悪くない? 心配ごとが消えて疲れが出ちゃった?」
英恵の素朴な気遣いの言葉が、浩一の胸に突き刺さる。
「……少し、出てくる」
「え? どこへ? もうすぐ保育園に娘を迎えに行く時間なのに……」
「炎上の件で、大橋出版のライターにオイルマンとしてのコメントを求められててね。他のところは全部断ってきたが、あそこは付き合いが長いからな」
浩一は、用意していた「嘘」を、冷静に告げた。
「……わかった。無理しないで、気をつけてね」
不安そうに見送る妻と、リビングのテーブルに置かれた娘の無邪気な絵。
浩一は、その「日常」の風景に背を向け、コートを掴むと、家を飛び出した。
向かう先は、芽衣が住むアパートだった。
チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
芽衣は浩一の顔を見るなり、泣きそうな顔になって「先生……!」と、小さな声を上げ、その胸元に顔を寄せた。
浩一は慌てて中に入り、玄関を閉めた。
通された狭い部屋の中に、ベビーベッドで眠る息子の、小さな寝息だけが響いている。
「あんな絵……どうして……」
浩一は、努めて低い声で尋ねた。
「ごめんなさい……。怖くて……耐えられなくて……。みんなに心配かけるのが、辛くて……。それで私、誰にも見せられないでいた作品を公開したんです」
芽衣は、浩一の胸にすがりつくようにして、告白を始めた。
「あの絵に描いたのは……先生との『レッスン』が、私の人生で一番、心が動かされた時間だったから……。あの熱を忘れたくなくて、全てを吸収したくて、ずっと描き溜めていたんです」
浩一は、ここでやっと芽衣の意図を理解した。
あの絵は、彼女の練習用の作品だった。
それは、浩一という恋人をもっとよく理解したい、そして先生の技術をもっと身につけたいという、自分への純粋な欲求の現れだったのだ。
自分との情事への「純粋な感動」と、「デッサン」として、彼女は密かにあの官能画を描いていた。
浩一は、芽衣の「底知れない純粋さ」と、それが結果的に炎上を鎮火させてしまった「才能の底力」に、畏怖にも似た「驚嘆」を覚えていた。
「先生……芽衣は、これからも、先生だけの『イグニス』でいたいです」
芽衣が、潤んだ瞳で浩一を見上げる。
「先生のせいで……ううん、先生のおかげで、私、あんなに淫らだって知ってしまったんです……。先生が、見つけて、教えてくれたんです」
芽衣は、浩一の手を取り、自分自身の頬に押し当てた。
「だから……お願いです。見捨てないでください。……責任、取ってください。先生……」
その言葉は、浩一にとって最高の賛辞だった。
自分が「開発」した生徒が、ある意味では、自分を超えるかもしれない彼女が、彼の「所有物」であることを、心の底から望んでいるのだ。
浩一はここに、芽衣から純粋に慕われていることを実感して、強い感動と、凄まじい興奮を覚え始めていた。
「……馬鹿だな、君は」
浩一は、芽衣の細い身体を強く抱きしめた。
「責任なら、いくらでも取ってやる」
妻の英恵が、娘を保育園に迎えに行っている時間だろう。
すぐ隣の部屋では、芽衣の息子が寝息を立てている。
理性は、現実を理解している。
しかし、偽りではない真実の愛を自分に向けてくる目の前の可愛い弟子が、首に絡みつき、その薄い唇を開けて、自分の唇を求めている。
彼女の唇には、妻と娘、そして彼女の息子をも裏切ってもいいと思うほどの引力があった。
愚かな恋に取り憑かれた男と女は、何度も唇を重ねながら、服を脱ぎ捨てていく。
出光家のリビングでは、浩一が作業デスクの前で、凍りついたように動けなくなっていた。
SNSの熱狂は、収まっていない。
彼の目の前の液晶タブレットには、無数の「まとめサイト」やSNSのスクリーンショットが映し出されている。
そこには、『検証』と称されて無断転載された、芽衣の「作品」が、称賛のコメントと共に晒され続けていた。
それは、紛れもなく自分の画風だった。
そして、それは自分と芽衣だけが知る、あの和室での「秘密のレッスン」そのものだった。
(これは、オイルマンには描けない、彼女が情熱を傾けて、彼女にしかない内面を表出化した、完全にオリジナルの作品だ)
これで確かに「パクリ疑惑」や「ゴーストライター疑惑」は、鎮火した。
だが、その代わりに自分の最も隠すべき行為が、「作品」という決定的な証拠となって、全世界に拡散されてしまったのだ。
(芽衣……いつのまに、あんなものを……)
しかも彼はあの従順な生徒に、「沈黙しろ」と指示したはずなのに、彼女はそれを無視して、自分たちの秘密を「作品」として世に放った。
浩一は自分の足元が危うくなったことに震えた。だが同時に、その「作品」から目が離せなかった。
(……スキャンダルさえなければ、僕はこの作品をどう評価しただろう。……この湿度、そして、この熱……くそっ、これは僕には描けない。あいつは教師の技術を食って、それを超えたのか……)
この底知れない大胆さと、才能の底力に、浩一は言葉を失っていた。
「ただいまー。……ねえ、浩一、見た!?」
パートから帰宅した英恵が、興奮した様子でリビングに入ってきた。
「芽衣ちゃん、すごいよね……!」
英恵の声は、予想外の展開に対する「驚嘆」に満ちていた。
「パクリ疑惑、SNS、ピタッと止まってるじゃない! まさか、あんな……あんな官能的な絵を自分で公開して、全部黙らせるなんて!」
英恵は、芽衣の常軌の逸したやり方に驚き、しかも手際を純粋に評価していた。
「『パクリ』って言われたから、オイルマンが決して描かない『イグニスだけのオリジナル』を見せつけたってことよね。……見上げる度胸だわ」
英恵は、感心したように息を吐いた。
彼女のオリジナルな作品と、判断は、結果として目の前の問題を解決した。
浩一は、彼女の顔や声色を観察して、皮肉が混ざっていないかを密かに探していた。
そして、そこには純粋な喜びしかないのを認めると、「まあ、さすがだよな。あの子のこと、僕はよく知らないけど」と言いながら、ふらりと立ち上がった。
「……あなた、顔色、悪くない? 心配ごとが消えて疲れが出ちゃった?」
英恵の素朴な気遣いの言葉が、浩一の胸に突き刺さる。
「……少し、出てくる」
「え? どこへ? もうすぐ保育園に娘を迎えに行く時間なのに……」
「炎上の件で、大橋出版のライターにオイルマンとしてのコメントを求められててね。他のところは全部断ってきたが、あそこは付き合いが長いからな」
浩一は、用意していた「嘘」を、冷静に告げた。
「……わかった。無理しないで、気をつけてね」
不安そうに見送る妻と、リビングのテーブルに置かれた娘の無邪気な絵。
浩一は、その「日常」の風景に背を向け、コートを掴むと、家を飛び出した。
向かう先は、芽衣が住むアパートだった。
チャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
芽衣は浩一の顔を見るなり、泣きそうな顔になって「先生……!」と、小さな声を上げ、その胸元に顔を寄せた。
浩一は慌てて中に入り、玄関を閉めた。
通された狭い部屋の中に、ベビーベッドで眠る息子の、小さな寝息だけが響いている。
「あんな絵……どうして……」
浩一は、努めて低い声で尋ねた。
「ごめんなさい……。怖くて……耐えられなくて……。みんなに心配かけるのが、辛くて……。それで私、誰にも見せられないでいた作品を公開したんです」
芽衣は、浩一の胸にすがりつくようにして、告白を始めた。
「あの絵に描いたのは……先生との『レッスン』が、私の人生で一番、心が動かされた時間だったから……。あの熱を忘れたくなくて、全てを吸収したくて、ずっと描き溜めていたんです」
浩一は、ここでやっと芽衣の意図を理解した。
あの絵は、彼女の練習用の作品だった。
それは、浩一という恋人をもっとよく理解したい、そして先生の技術をもっと身につけたいという、自分への純粋な欲求の現れだったのだ。
自分との情事への「純粋な感動」と、「デッサン」として、彼女は密かにあの官能画を描いていた。
浩一は、芽衣の「底知れない純粋さ」と、それが結果的に炎上を鎮火させてしまった「才能の底力」に、畏怖にも似た「驚嘆」を覚えていた。
「先生……芽衣は、これからも、先生だけの『イグニス』でいたいです」
芽衣が、潤んだ瞳で浩一を見上げる。
「先生のせいで……ううん、先生のおかげで、私、あんなに淫らだって知ってしまったんです……。先生が、見つけて、教えてくれたんです」
芽衣は、浩一の手を取り、自分自身の頬に押し当てた。
「だから……お願いです。見捨てないでください。……責任、取ってください。先生……」
その言葉は、浩一にとって最高の賛辞だった。
自分が「開発」した生徒が、ある意味では、自分を超えるかもしれない彼女が、彼の「所有物」であることを、心の底から望んでいるのだ。
浩一はここに、芽衣から純粋に慕われていることを実感して、強い感動と、凄まじい興奮を覚え始めていた。
「……馬鹿だな、君は」
浩一は、芽衣の細い身体を強く抱きしめた。
「責任なら、いくらでも取ってやる」
妻の英恵が、娘を保育園に迎えに行っている時間だろう。
すぐ隣の部屋では、芽衣の息子が寝息を立てている。
理性は、現実を理解している。
しかし、偽りではない真実の愛を自分に向けてくる目の前の可愛い弟子が、首に絡みつき、その薄い唇を開けて、自分の唇を求めている。
彼女の唇には、妻と娘、そして彼女の息子をも裏切ってもいいと思うほどの引力があった。
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