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【第四部】炎上、そして爆発
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あの日以来、浩一は英恵不在の時間を狙って、再び芽衣の部屋を訪れるようになっていた。
部屋の中は、ベビーベッドで眠る息子の寝息だけが響いている。
芽衣は緊張した面持ちで、浩一に自分のスマートフォンの画面を見せた。
アカウントは凍結されたが、そこに掲載していたメールアドレスから、拡散された絵を見たというアダルト系の編集部から、無数の「作品依頼」が殺到していたのだ。
「……先生。私、どうしたらいいんでしょうか」
芽衣は緊張した面持ちで、浩一に一枚の契約書案を見せた。
イグニスの「作品」を見たというある新興のエンタメ系IT企業から、独占契約に近い「作品依頼」が殺到していたのだ。
「これです……」
芽衣が指差す項目には、こう書かれていた。
「『イグニス』様の作品を、新しいAIアバター──VTuber──のベースモデルとして使用する権利。及び、そのための新作『表情・感情パターン』の描き下ろし」
「……AIアバター?」
「はい……。私の絵をAIで動かして、『官能的な配信』に使いたい、みたいで……」
浩一は自分の「画風」が、予想もしない領域でビジネスになろうとしていることに目眩を覚えそうになった。
「しかも……ここ」
芽衣がさらに別の項目を指差す。
「『新作はプロモーションの一環としてSNSでユーザーからリクエストを募り、それを発表する形で公開することを希望します』って……」
「……つまり、炎上を爆発で鎮めたあの手法を、そのまま続けろ、ということか」
浩一は、自分の育てた「最高傑作」が、ネットの欲望と企業の財力で、新しいビジネスの「コンテンツ」化されようとしている事実に、一種の高揚感を覚えていた。
「嬉しいけど、私、才能も画力も、まだ先生に追いついていないのに……」
「開花したばかりのオリジナルの才能が、高く評価されている。こんなチャンスはない。しかも依頼は作品を使い捨てに搾取するんじゃなくて、ちゃんとした収益を視野に入れる企業だ。君さえ嫌でなければ、アリだと思う」
「私……嫌、とかじゃないんです。自分でも、こういうのをもっと描いてみたいって気持ちが抑えられないんです。でも……今あるリクエストの内容が」
「まだ何も知らないユーザーが、求める内容……?」
「あ……はい、メールでまとめてあって……」
芽衣は、恥ずかしそうにメール画面を見せた。
「『目隠し』とか……『より刺激的な場所で』とか……。『違う男性と彼女で』みたいなのも……。私、こんなの、経験ないから、描けません……」
芽衣は本気で困惑し、顔を赤らめていた。
浩一は、自分の育てた「最高傑作」が自分の前で恥じらいながら、「官能絵師」として世間から求められている事実に、他では得られない高揚感を覚えていた。
「……描けないなんてない。自分と、僕を信じて」
浩一は、微笑んで彼女の肩に手を置いた。
「え……?」
「描けないのは、知らないからだろ」
その言葉に、芽衣はハッとした顔で浩一を見上げる。
浩一は、芽衣の潤んだ瞳をじっと見つめ返した。
「……教えて、くれるんですか?」
「君が望むなら」
「……望みます」
芽衣は、震える声で答えた。「絵のため」という口実は、もはや二人には不要だった。
「いい生徒だ」
浩一は芽衣の答えに満足そうに頷くと、自分が首に巻いていたスカーフを解いた。
「独立したプロに絵を教えることはできない。でも、大人の世界については教えられる。……まず、『目隠し』からやろうか」
「は、はい……!」
浩一は、芽衣の椅子の後ろに回り込み、そのスカーフで彼女の瞳を覆い隠していく。
視界が、暗闇に閉ざされていった。
「先生……っ」
芽衣の肩が、小さく震えている。
「動くな」
浩一は、目隠しをされた芽衣の耳元に、わざと熱い息を吹きかけるように囁いた。
「……ん!」
視覚を奪われたことで、芽衣の聴覚と触覚が、異常なまでに研ぎ澄まされていた。
「どうだい。音が、いつもより大きく聞こえないか?」
浩一の手が、芽衣のブラウスの肩口に触れる。
ただ触れられただけなのに、芽衣はビクッと動いた。
「あ……! や……!」
「声も、よく響くよね」
浩一は、その敏感な反応を楽しみながら、ボタンを一つ、また一つと外していく。
芽衣は、次に何が起こるのか見えない不安と、それに抗えない期待で、すでに浅い呼吸を繰り返していた。
「……これが、君が知りたかった『レッスン』の続きだ」
浩一は、暗闇の中で怯える生徒を「開発」することに、教師としての新たな愉悦を感じていた。
芽衣も「はい。身体の『レッスン』、お願いします」と、生徒らしい明瞭な声で答えた。
そして、それは始まった。
彼は、彼女のブラウスのボタンを外し終えても、彼女の敏感なところには、なかなか触れない。
その肌に触れてはいくが、気まぐれに場所や触れ方を変えていく。
しかも芽衣が、その手を取って、自分の求めるところへ導いても、彼はその通りにしなかった。
それで、彼女が何度も「さっきのところを」「今の、そこ、どうしてやめるんですかっ」「お願いします、先生、もう、早くして……」と願ってもなお、焦らし続けた。
そして、目を隠したまま、彼が自分のそれを彼女の頬に押しつけると、何も見えないはずなのに、彼女はそこに自分から恍惚とした顔で、頬を当てながら、唇にずらして、唾液を溜めていた口に含めていく。
「そろそろ、そうすると思ってました。今から先生も、耐えられなくしてあげます」
芽衣は、視覚以外の五感で味わう、未知の快感を、夢中になって楽しんでいた。
部屋の中は、ベビーベッドで眠る息子の寝息だけが響いている。
芽衣は緊張した面持ちで、浩一に自分のスマートフォンの画面を見せた。
アカウントは凍結されたが、そこに掲載していたメールアドレスから、拡散された絵を見たというアダルト系の編集部から、無数の「作品依頼」が殺到していたのだ。
「……先生。私、どうしたらいいんでしょうか」
芽衣は緊張した面持ちで、浩一に一枚の契約書案を見せた。
イグニスの「作品」を見たというある新興のエンタメ系IT企業から、独占契約に近い「作品依頼」が殺到していたのだ。
「これです……」
芽衣が指差す項目には、こう書かれていた。
「『イグニス』様の作品を、新しいAIアバター──VTuber──のベースモデルとして使用する権利。及び、そのための新作『表情・感情パターン』の描き下ろし」
「……AIアバター?」
「はい……。私の絵をAIで動かして、『官能的な配信』に使いたい、みたいで……」
浩一は自分の「画風」が、予想もしない領域でビジネスになろうとしていることに目眩を覚えそうになった。
「しかも……ここ」
芽衣がさらに別の項目を指差す。
「『新作はプロモーションの一環としてSNSでユーザーからリクエストを募り、それを発表する形で公開することを希望します』って……」
「……つまり、炎上を爆発で鎮めたあの手法を、そのまま続けろ、ということか」
浩一は、自分の育てた「最高傑作」が、ネットの欲望と企業の財力で、新しいビジネスの「コンテンツ」化されようとしている事実に、一種の高揚感を覚えていた。
「嬉しいけど、私、才能も画力も、まだ先生に追いついていないのに……」
「開花したばかりのオリジナルの才能が、高く評価されている。こんなチャンスはない。しかも依頼は作品を使い捨てに搾取するんじゃなくて、ちゃんとした収益を視野に入れる企業だ。君さえ嫌でなければ、アリだと思う」
「私……嫌、とかじゃないんです。自分でも、こういうのをもっと描いてみたいって気持ちが抑えられないんです。でも……今あるリクエストの内容が」
「まだ何も知らないユーザーが、求める内容……?」
「あ……はい、メールでまとめてあって……」
芽衣は、恥ずかしそうにメール画面を見せた。
「『目隠し』とか……『より刺激的な場所で』とか……。『違う男性と彼女で』みたいなのも……。私、こんなの、経験ないから、描けません……」
芽衣は本気で困惑し、顔を赤らめていた。
浩一は、自分の育てた「最高傑作」が自分の前で恥じらいながら、「官能絵師」として世間から求められている事実に、他では得られない高揚感を覚えていた。
「……描けないなんてない。自分と、僕を信じて」
浩一は、微笑んで彼女の肩に手を置いた。
「え……?」
「描けないのは、知らないからだろ」
その言葉に、芽衣はハッとした顔で浩一を見上げる。
浩一は、芽衣の潤んだ瞳をじっと見つめ返した。
「……教えて、くれるんですか?」
「君が望むなら」
「……望みます」
芽衣は、震える声で答えた。「絵のため」という口実は、もはや二人には不要だった。
「いい生徒だ」
浩一は芽衣の答えに満足そうに頷くと、自分が首に巻いていたスカーフを解いた。
「独立したプロに絵を教えることはできない。でも、大人の世界については教えられる。……まず、『目隠し』からやろうか」
「は、はい……!」
浩一は、芽衣の椅子の後ろに回り込み、そのスカーフで彼女の瞳を覆い隠していく。
視界が、暗闇に閉ざされていった。
「先生……っ」
芽衣の肩が、小さく震えている。
「動くな」
浩一は、目隠しをされた芽衣の耳元に、わざと熱い息を吹きかけるように囁いた。
「……ん!」
視覚を奪われたことで、芽衣の聴覚と触覚が、異常なまでに研ぎ澄まされていた。
「どうだい。音が、いつもより大きく聞こえないか?」
浩一の手が、芽衣のブラウスの肩口に触れる。
ただ触れられただけなのに、芽衣はビクッと動いた。
「あ……! や……!」
「声も、よく響くよね」
浩一は、その敏感な反応を楽しみながら、ボタンを一つ、また一つと外していく。
芽衣は、次に何が起こるのか見えない不安と、それに抗えない期待で、すでに浅い呼吸を繰り返していた。
「……これが、君が知りたかった『レッスン』の続きだ」
浩一は、暗闇の中で怯える生徒を「開発」することに、教師としての新たな愉悦を感じていた。
芽衣も「はい。身体の『レッスン』、お願いします」と、生徒らしい明瞭な声で答えた。
そして、それは始まった。
彼は、彼女のブラウスのボタンを外し終えても、彼女の敏感なところには、なかなか触れない。
その肌に触れてはいくが、気まぐれに場所や触れ方を変えていく。
しかも芽衣が、その手を取って、自分の求めるところへ導いても、彼はその通りにしなかった。
それで、彼女が何度も「さっきのところを」「今の、そこ、どうしてやめるんですかっ」「お願いします、先生、もう、早くして……」と願ってもなお、焦らし続けた。
そして、目を隠したまま、彼が自分のそれを彼女の頬に押しつけると、何も見えないはずなのに、彼女はそこに自分から恍惚とした顔で、頬を当てながら、唇にずらして、唾液を溜めていた口に含めていく。
「そろそろ、そうすると思ってました。今から先生も、耐えられなくしてあげます」
芽衣は、視覚以外の五感で味わう、未知の快感を、夢中になって楽しんでいた。
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