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【第五部】イヤリングの誘い
目の前の妻
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春が近い。
その夜、浩一がリビングのデスクで仕事を終え、寝室に入ってきた。
英恵はいつものナイトウェア姿で、すでにベッドの中にいた。薄暗いスタンドの光が、ショートカットの黒髪と、ナイトウェアから覗く肩の肌を照らしている。
「……浩一」
先に眠っているはずの妻が、名前を呼んだ。
「……どうした?」
芽衣との情事が、浩一のすべてを奪っていた。
もともと回数は減っていたが、去年の夏以来、妻との夜の営みはさらに減退して、どことなく義務的にすらなっていた。
浩一が、妻の誘いに応じる形でベッドに入る。
英恵は何も言わず、浩一の身体に、自分の肌を寄せた。
芽衣の華奢なそれとは対照的に、成熟した豊かさと、吸い付くような柔らかい弾力が、浩一の背中に伝わる。
いつものように、肌を擦り合わせ、キスをする。
いつものように、名前を呼んで、また別のところにキスを重ねていく。
だが、彼の反応は鈍く、情熱が返ってこなかった。
やがて英恵は気づいた。
(彼の身体が、わたしを求めなくなってる……?)
英恵は、あのイヤリングを握りしめた時の、震えるような冷たい感情を思い出していた。
豊かな乳房を浩一に押し当て、彼の首筋にそっと唇を寄せる。
彼がかつて喜んでいたはずの場所を、舌先でなぞった。
だが、彼の中心は、いつもほどの硬さがない。
熱を帯び、張ってはいるものの、どこか弱々しく感じられた。
浩一もまた、あまり身を乗り出してこない。
(だったら……こうする)
英恵は、浩一の身体に口付けを重ねながら、暗闇の中で彼の目を見つめる。
そして彼の手を自らの手で取り、ナイトウェアの胸元から滑り込ませ、自分の柔らかな乳房へと導いた。
「……浩一」
穏やかな声で尋ねた。
「どうしたら……あなたは、喜んでくれるんです?」
その妻からの思いもよらない他人のような丁寧な問いかけ──従順に奉仕を望むかのような言葉──が、浩一の感情を揺さぶった。
浩一のそれが、力を帯びていくのが伝わった。
彼の鈍かった中心に触れると、英恵の手のひらの中で、堰を切ったように熱を持ち、膨張していくのを確かに感じ取った。
(これは……本当にそうなんだ)
浩一が求めているのは、いつものわたしではない。
いつもと違う、刺激的な「女」なのだ。
英恵の心は、嫉妬と絶望で凍りつきそうだった。
でも、今の英恵に反応していることは、一つの希望でもあった。
「浩一、さん」
いつもの明るい彼女らしくない、どこか暗い、甘えた声で手を動かしていく。
「……っ!」
すると浩一は、英恵の身体を組み敷いた。
英恵は、確信した。
彼女は今、いつもの『自分らしさ』を捨てて、『芽衣らしさ』を演じて見せた。
もちろん、彼女が閨でどのようにするのかは、想像もできない。
しかし、自身のパーソナリティを変えるだけで、彼が一変した事実から、彼が芽衣の幻影を目の前の妻に重ねているのは間違いない、と思えた。
「浩一さん、わたし……わたし、何か……、ダメなことしてますか?」
そう言いながら、彼のそれを両手で挟みながら、擦り合わせて、彼の首に強く吸い付く。
すると浩一は、英恵のナイトウェアを引き裂かんばかりに捲り上げ、腰を使って彼女の手のひらを振り払い、まるで「罰」を与えるかのように、その熱をその器官に貫いていった。
英恵は大きな吐息を漏らしながら、その荒々しい律動を受け入れた。
彼は沈黙したまま、リズミカルに彼女の弱いところを狙っていく。
妻の身体の秘密を隅々まで、知り尽くした夫の動きに、英恵は愛を確信して、息も絶え絶えに尋ねた。
「浩一さん……ねえ、浩一さん?」
浩一の動きが、少しだけ緩くなってくる。
「ん……先日、この寝室の隅で、これ、見つけたの」
英恵は、呻き声をあげながら、枕の下から、そっと赤い貴石の煌めくイヤリングを取り出した。
「見覚え……あるよねっ? ああっ!」
浩一は動揺を隠すかのように、さらに激しく腰を打ち付け始めた。
無言の攻撃的な否定。
彼は妻の質問を、快感で無理やりかき消そうとしていた。
だが、英恵はもう怯まなかった。
(言えないんだ。じゃあ……言わなくてもいい)
英恵は、夫の暴力的な動きを、二つの太ももで強く受け止め、逆に浩一の腰を締め上げた。
「あ……っ!」
芽衣なんて、本物の愛を結べないじゃない。
わたしは、本物ができる。
何も付けずに、このまま中で彼を受け止められる。
二人は避妊具などつけていなかった。
下から激しく腰を動かしていく。
浩一もそれに合わせるように、自分からより激しく腰を打ちつけていく。
汗で濡れた黒髪が、妻の白い肌に張り付いているのが見えた。
そして、この男のすべてを知り尽くした妻として、彼が最も喜ぶ場所を、芽衣の官能画など霞んでしまうほどの熟練した技術で、深く味わい始めた。
「めい……あ……は、英恵……っ!」
浩一は、芽衣の幻影と、目の前の妻の圧倒的な現実の快感の板挟みになり、限界が近づいていた。
英恵は甘い声を漏らしながら、彼の首を抱きしめて、耳元で叫んだ。
「ああっ、答えて……!」
彼の動きがさらに速まる。
「わたしと……あの子……! どっちがいいの……っ! 教えて……!?」
英恵も全身を揺らしながら、二人の欲望を一つにしようとした。
「あ……ああ……あああっ!」
浩一は、妻の問いに何も言うことなく、その奥深くで、すべてを放出した。
英恵は、その答えに満足の笑みを浮かべていた。
その夜、浩一がリビングのデスクで仕事を終え、寝室に入ってきた。
英恵はいつものナイトウェア姿で、すでにベッドの中にいた。薄暗いスタンドの光が、ショートカットの黒髪と、ナイトウェアから覗く肩の肌を照らしている。
「……浩一」
先に眠っているはずの妻が、名前を呼んだ。
「……どうした?」
芽衣との情事が、浩一のすべてを奪っていた。
もともと回数は減っていたが、去年の夏以来、妻との夜の営みはさらに減退して、どことなく義務的にすらなっていた。
浩一が、妻の誘いに応じる形でベッドに入る。
英恵は何も言わず、浩一の身体に、自分の肌を寄せた。
芽衣の華奢なそれとは対照的に、成熟した豊かさと、吸い付くような柔らかい弾力が、浩一の背中に伝わる。
いつものように、肌を擦り合わせ、キスをする。
いつものように、名前を呼んで、また別のところにキスを重ねていく。
だが、彼の反応は鈍く、情熱が返ってこなかった。
やがて英恵は気づいた。
(彼の身体が、わたしを求めなくなってる……?)
英恵は、あのイヤリングを握りしめた時の、震えるような冷たい感情を思い出していた。
豊かな乳房を浩一に押し当て、彼の首筋にそっと唇を寄せる。
彼がかつて喜んでいたはずの場所を、舌先でなぞった。
だが、彼の中心は、いつもほどの硬さがない。
熱を帯び、張ってはいるものの、どこか弱々しく感じられた。
浩一もまた、あまり身を乗り出してこない。
(だったら……こうする)
英恵は、浩一の身体に口付けを重ねながら、暗闇の中で彼の目を見つめる。
そして彼の手を自らの手で取り、ナイトウェアの胸元から滑り込ませ、自分の柔らかな乳房へと導いた。
「……浩一」
穏やかな声で尋ねた。
「どうしたら……あなたは、喜んでくれるんです?」
その妻からの思いもよらない他人のような丁寧な問いかけ──従順に奉仕を望むかのような言葉──が、浩一の感情を揺さぶった。
浩一のそれが、力を帯びていくのが伝わった。
彼の鈍かった中心に触れると、英恵の手のひらの中で、堰を切ったように熱を持ち、膨張していくのを確かに感じ取った。
(これは……本当にそうなんだ)
浩一が求めているのは、いつものわたしではない。
いつもと違う、刺激的な「女」なのだ。
英恵の心は、嫉妬と絶望で凍りつきそうだった。
でも、今の英恵に反応していることは、一つの希望でもあった。
「浩一、さん」
いつもの明るい彼女らしくない、どこか暗い、甘えた声で手を動かしていく。
「……っ!」
すると浩一は、英恵の身体を組み敷いた。
英恵は、確信した。
彼女は今、いつもの『自分らしさ』を捨てて、『芽衣らしさ』を演じて見せた。
もちろん、彼女が閨でどのようにするのかは、想像もできない。
しかし、自身のパーソナリティを変えるだけで、彼が一変した事実から、彼が芽衣の幻影を目の前の妻に重ねているのは間違いない、と思えた。
「浩一さん、わたし……わたし、何か……、ダメなことしてますか?」
そう言いながら、彼のそれを両手で挟みながら、擦り合わせて、彼の首に強く吸い付く。
すると浩一は、英恵のナイトウェアを引き裂かんばかりに捲り上げ、腰を使って彼女の手のひらを振り払い、まるで「罰」を与えるかのように、その熱をその器官に貫いていった。
英恵は大きな吐息を漏らしながら、その荒々しい律動を受け入れた。
彼は沈黙したまま、リズミカルに彼女の弱いところを狙っていく。
妻の身体の秘密を隅々まで、知り尽くした夫の動きに、英恵は愛を確信して、息も絶え絶えに尋ねた。
「浩一さん……ねえ、浩一さん?」
浩一の動きが、少しだけ緩くなってくる。
「ん……先日、この寝室の隅で、これ、見つけたの」
英恵は、呻き声をあげながら、枕の下から、そっと赤い貴石の煌めくイヤリングを取り出した。
「見覚え……あるよねっ? ああっ!」
浩一は動揺を隠すかのように、さらに激しく腰を打ち付け始めた。
無言の攻撃的な否定。
彼は妻の質問を、快感で無理やりかき消そうとしていた。
だが、英恵はもう怯まなかった。
(言えないんだ。じゃあ……言わなくてもいい)
英恵は、夫の暴力的な動きを、二つの太ももで強く受け止め、逆に浩一の腰を締め上げた。
「あ……っ!」
芽衣なんて、本物の愛を結べないじゃない。
わたしは、本物ができる。
何も付けずに、このまま中で彼を受け止められる。
二人は避妊具などつけていなかった。
下から激しく腰を動かしていく。
浩一もそれに合わせるように、自分からより激しく腰を打ちつけていく。
汗で濡れた黒髪が、妻の白い肌に張り付いているのが見えた。
そして、この男のすべてを知り尽くした妻として、彼が最も喜ぶ場所を、芽衣の官能画など霞んでしまうほどの熟練した技術で、深く味わい始めた。
「めい……あ……は、英恵……っ!」
浩一は、芽衣の幻影と、目の前の妻の圧倒的な現実の快感の板挟みになり、限界が近づいていた。
英恵は甘い声を漏らしながら、彼の首を抱きしめて、耳元で叫んだ。
「ああっ、答えて……!」
彼の動きがさらに速まる。
「わたしと……あの子……! どっちがいいの……っ! 教えて……!?」
英恵も全身を揺らしながら、二人の欲望を一つにしようとした。
「あ……ああ……あああっ!」
浩一は、妻の問いに何も言うことなく、その奥深くで、すべてを放出した。
英恵は、その答えに満足の笑みを浮かべていた。
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