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番外編(馨)ラブなレター10
しおりを挟む「馨くん……?」
凪は馨が見つめる先に視線を移し、その眼差しが机の上の手紙に注がれていることに気づいた。
馨は抱きしめていた腕を解き、ゆっくりとそこへ歩み寄ろうとする。慌てて凪はその腕を掴んで引き留めた。だが、馨は力を緩めることはない。
「ちょっと待って!馨くん!」
「悪いけど、待てない」
短く言い切ると、馨は凪を引きずるようにして手を伸ばした。長い腕は凪の必死の抵抗をあっさりと振り切り、手紙を掴んでしまう。
そこに並ぶ文字を追う馨の瞳が、徐々に揺れていった。
「……これ、いつもらった? ていうか……普通にラブレター……??」
その声には張り詰めた硬さがあり、普段の落ち着きはなかった。
「き、昨日……貰ったやつで……」
凪は怯えたように答える。その横顔を見つめたまま、馨は額に手を当て、乱れた髪を後ろへ撫でつけた。帰国してから精悍さを増した横顔が歪んでいく。
「……俺、もしかしてバチ当たったのかもな」
力なく吐き出すように言うと、そのまましゃがみ込み、凪の指先を掴んだ。
「こんな可愛い恋人を置いて、遠い国に行くなんて無理な話だったのかな。……別の男に目をつけられるのも、いずれあるって思ってたけど。いざ直面すると……正直、結構きつい」
その声は苦い嫉妬と自嘲に滲んでいた。凪の右手の薬指を取り上げ、そこに口づけを落とす馨。唇が触れるたび、嫉妬の熱がその仕草に宿る。
「……凪、お願いだからどこにも行かないで欲しい。」
凪ははっと息を呑んだ。馨の瞳が、揺れながらも強く自分を捕らえている。
「だって俺は……凪じゃなきゃ、もう駄目なんだ」
低い声が胸に染み渡り、凪の心をぎゅっと締めつける。
「馨くん……ラブレターなんて、返事する気なかった。貰っただけで、どうしたらいいか分からなくて……置きっぱなしにしてただけ。僕の気持ちは、ずっと馨くんにあるから」
必死に言葉を重ねる凪。その真っ直ぐな瞳を見つめ、馨の指先から力が抜けていく。
「……そう言ってくれるの、ずるいくらい安心する。」
そう呟いた馨は、再び凪を強く抱きしめた。今度は嫉妬の力ではなく、失いたくないと願う切実さで。
「俺、ちゃんと守るから。離れていても、不安にさせないようにする。それにいずれは…いや、今は言わないでおく…でも凪のことを幸せにするために俺も頑張るから。」
「うん……信じてるよ」
凪は小さく頷き、馨の胸に額を預けた。重なった鼓動が、二人の距離を確かめるように同じリズムを刻んでいた。
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