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しおりを挟むルイのバイクは空港の近くまで到着していた。けれど、周囲は混雑し、駐車場の入り口手前から車がぎっしりと連なっていて、まったく進む気配がない。渋滞の中、ルイはバイクを停めると、ヘルメット越しに小さくため息をついた。
「……あんただけ先に行きな」
「え? でも、ルイさんも馨の見送りに来たんじゃないんですか?」
凪がそう言うと、ルイはちらと凪の方を見た。
「いいから、早く降りて行ってきて。多分、もうそろそろ出発の時間になる」
凪は躊躇いながらも、バイクのシートから足を下ろす。その動きには、「自分だけ行っていいのか」という迷いと、「間に合うだろうか」という焦りがにじんでいた。
「……あいつは俺が行くより、お前が来てくれたほうが何倍も喜ぶから」
ルイの声が、静かに背中から追いかけてくる。
「あと、言っとくけど……馨、あの日…文化祭の日、今まで見たことないくらいしんどい顔してたよ」
凪は驚いて振り返った。目がルイを見つめる。
「……それって、どういうことですか?」
「やっと一緒にいられるようになったのに、離れなきゃいけないとか、今までやってきたことのツケが全部まとめて回ってきたって、女々しい後悔ばかりしてて、面白かった。」
ルイは少しだけ視線を伏せ、口調を穏やかにする。
「だから、馨の気持ちは疑わないでやって。信用されないのも、あいつ自身の責任だけどそれでも、気持ちは本物だったと、俺は思ってる」
その言葉に、凪は静かに頷いた。胸の奥が、きゅっと締めつけられるようだった。今まで宗介やルイ、りりの言葉に何度も背中を押されてきた。もう迷っている暇なんてない。
「……ありがとう、ルイさん」
「馨にアメリカの飯食いすぎて、デブんなよって言っといて」
凪は一言そう告げると、走り出した。
空港の入り口をくぐり、ターミナルの構内に入ると、そこは想像以上の人混みだった。人々の声、アナウンスの音、キャリーケースの転がる音が入り混じり、頭がくらくらするほどだった。
「……馨くん……」
凪は周囲を見回しながら、バッグから携帯を取り出そうとした。しかし、ディスプレイを確認した瞬間、その小さな希望は打ち砕かれる。
バッテリー残量0%。電源が完全に落ちていた。
「うそ……」
思わず呟く。連絡すら取れない。時間も場所も、正確な情報はわからない。だけど、立ち止まっている余裕はない。
凪は空港内を必死に駆け回った。電光掲示板に出ている国際線の出発ゲートを確認し、一つ一つ見ていく。
(間に合え……どうか、間に合って……)
焦りと不安が入り混じり、呼吸が浅くなっていく。額には汗が滲み、手のひらはじっとりと湿っていた。
何度もゲートを見て回っても、馨の姿は見つからなかった。通路の向こう側、列をなして進む人々。けれどその中に、あの人はいない。
(もしかして……もう、行っちゃったのか……)
その思いがよぎった瞬間、凪の膝が軽く震えた。
ここまで来たのに。宗介にも、ルイにも、りりにも、背中を押されて。なのに、自分は何もできずに立ち尽くしてるだけ。
そのときだった。視界の先、出国ゲートのさらに奥、チェックインカウンター近くで、ひときわ目を引く後ろ姿を見つけた。
黒のキャリーケースを引き、フードを被った青年。少しうつむき気味で、周囲の喧騒にも耳を貸さず、静かに歩いていくその姿。
馨だった。
「……馨くん!!」
凪は今まで出しことないような大きな声で呼びかける。周囲の迷惑になることは分かっていたがそんなことを気にしている心の余裕は凪はなかった。出国ゲートへと駆け出した。空港の広い床をスニーカーの音が響く。人混みをかき分けながら、ただその背中に向かって走る。
(お願い……あともう少しだけ、立ち止まって……!)
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