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しおりを挟む「あれ? 環?」
「裕也?」
「あれ、この前の……」
その声が重なった瞬間、空気が一瞬だけ止まった気がした。
田中くんは私と伊藤くんの顔を交互に見てから、すぐに楽しそうな表情を浮かべる。
そもそも、私のことを覚えてくれていたこと自体が意外だった。
合コンでは、特別会話が弾んだわけでもないし、印象に残るようなことをした覚えもない。
「ど、どうも……」
私は小さく声を出しながら、田中くんに軽く頭を下げる。
田中くんは一瞬だけ私を見たあと、すぐに興味を失ったように伊藤くんへと視線を戻した。
「てか、裕也は何してんの?」
「俺? これからこいつと出かけようとしてたけど……環たちは――あ、もしかして~??」
田中くんは言い終わるより早く、私たち二人をじっと見比べ、口元を緩める。
その表情だけで、嫌な予感がした。
「何」
伊藤くんが短く返す。
「これからデート?
いよいよ作戦が」
作戦?
思わず眉をひそめる。何の話だろう。
「はあ、うるさ。さっさと行けよ」
伊藤くんは深いため息をつきながら、田中くんの背中を軽く押した。
その仕草には、呆れと同時に、少しだけ焦りのようなものが混じっている気がした。
「はいはい、わかってるって!
じゃあな、また連絡する。
“いい報告”待ってるから!」
田中くんは意味ありげな言葉を残し、女の子に腕を組まれながら、そのまま人混みの中へと消えていった。
彼女は一度だけこちらを振り返り、不思議そうな目で私を見てから、また田中くんの方へ視線を戻す。
二人の姿が見えなくなると、伊藤くんは小さく息を吐いた。
「……すいません。
あいつ、突然話しかけてきたくせに、態度とか失礼でしたよね」
申し訳なさそうに言われて、私は慌てて首を振る。
「い、いえ。全然大丈夫です!」
本当は少し気圧されていたけれど、それ以上に、伊藤くんが気にしてくれていることの方が胸に残った。
「じゃあ、改めて行きましょう。
あ、あと……」
一歩踏み出しかけた伊藤くんが、少しだけ言いづらそうに言葉を切る。
「ユイさんと、もう少し距離を縮めたいので……
よかったら、敬語じゃなくて、タメ口で話してくれませんか?」
そう言って、柔らかく微笑む。
その表情を正面から受け止められなくて、私は思わず視線を逸らしてしまった。
きっと、感じが悪く見えるだろう。
でも、固まって何も言えなくなるよりは、まだマシなはずだ。
「あ、わかりましっ……
じゃなくて、その……わかった……ですかね?」
自分でも驚くほど、ぎこちない返事になってしまう。
伊藤くんはそれを聞いて、くすっと小さく笑った。
「無理しなくていいですよ。
慣れたらで」
その一言で、肩の力が少し抜けた。
「……よかったら、その……
伊藤くんも、敬語じゃなくて……」
途中で声が小さくなる。
言い終わる前から、心臓がうるさい。
「え? いいんですか?」
少し目を見開いたあと、すぐに嬉しそうに笑う。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ただそれだけのやりとりなのに、胸の奥がふわっと浮く。
会話の一つひとつが、特別な意味を持ち始めている気がした。
「じゃあ、行きましょう。
……あ、じゃなくて」
少し照れたように言い直す。
「行こっか」
「……う、うん!」
並んで歩き出すと、自然と距離が近くなった。
腕が触れそうで触れない、その曖昧な間隔が、やけに意識される。
映画館までは、まだ少し時間がある。
それなのに、この瞬間だけで、胸がいっぱいになりそうだった。
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ごめんなさい!!
話の公開順を間違えるという小説書く上でとんでもないことをしてしまいました。
すでに読まれている方は話が前後してるなと感じるかもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです😭
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