冴えない女なのに美男子に言い寄られてます。

ぽぽ

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「俺さっき見たんだけど、これからイルカショーあるんだって。良かったら見に行く?」

「え! イルカショー? 行きたい!!」

思わず身を乗り出してしまう。

あの可愛いイルカを間近で見られるなんて。
それに、イルカショーなんて何年ぶりだろう。

小さい頃に家族と行った記憶はあるけど、それ以来かもしれない。

年甲斐もなく、胸の奥がわくわくしているのが自分でもわかる。

「そんなに楽しみにしてくれてるなら、誘った甲斐あるな。じゃあ行きましょうか」

伊藤くんは、はしゃぐ私を見て優しく微笑んだ。

その目が柔らかくて、少しだけくすぐったい。

「もうさすがにあいつらいないよね?」

イルカショーの入口に着くと同時に、伊藤くんは警戒するように辺りをきょろきょろと見渡す。

さっきまでの穏やかな顔とは打って変わって、真剣そのものだ。

「私は別に一緒でも大丈夫だよ?」

「俺が嫌なの。わかる?」

きっぱりと言い切られて、言葉に詰まる。

よほどさっきのことが嫌だったんだろう。

でも、あんなに仲良さそうなのに、どうしてそこまで避けようとするんだろう。

「わからないけど、わかった……」

「そこは素直に“わかった”って言ってよ。だから、あいつらには見つからないようにしようね」

「うん」

少しだけ笑いながらも、伊藤くんは釘を刺す。

「ここら辺の席でどう? 前すぎるとびしょ濡れになりそうだし」

「うん! 大丈夫!」

席に座り、期待に胸を膨らませていると、やがてショーが始まった。

軽快な音楽とともに、何頭ものイルカが登場する。

ぴたりと息を合わせた泳ぎ。
くるりと回転してからの大ジャンプ。

水しぶきがきらきら光って、歓声があがる。

……あの子たち、私より頭いいんじゃないの??

「すごい!」

「可愛い!!」

語彙力がどこかに消えてしまったみたいに、その言葉しか出てこない。

子どもみたいに拍手を送りながら、夢中でステージを見つめる。

でも。

しばらくして、ふと違和感に気づく。

隣から、何の反応もない。

不思議に思って伊藤くんの方を見ると――

なぜか、彼はイルカではなく、ずっと私を見ていた。

目が合う。

逸らそうと思ったのに、身体が動かない。

まるで時間が止まったみたいに、互いに見つめ合ってしまう。

「え、あ、あの……いるかが……」

意味のわからない言葉でごまかそうとした瞬間。

「ユイさん、あのさ」

伊藤くんが、真剣な声で私の言葉を遮った。

次の瞬間。

大きな手が、そっと私の頬を包み込む。

「へ……??」

心臓が一気に跳ね上がる。

ショーの音楽も歓声も、遠くに聞こえる。

「……ユイさん、俺やっぱ……す……」

その瞬間。

目の前でイルカが大ジャンプを決め、水面に着地する。

――バシャアッ!!

大量の水しぶきが、こちらまで飛んできた。

「びゃっ」

自分でも聞いたことのないような声が出る。

冷たい水が顔にかかり、さっきまでの甘い空気が一瞬で吹き飛んだ。

「え? 何、今の声?」

伊藤くんがぽかんとした顔でこちらを見る。

「え、えっと……今のは……叫び声……?」

「……叫び声??」

数秒の沈黙。

そして、伊藤くんは堪えきれなくなったように吹き出した。

「っははははっ!」

え、待って。

今の声、そんなに変だった?
もしかしてドン引きされた??

顔が一気に熱くなる。

「ユイさん、やっぱり面白い」

「そう? 私って面白い??」

今日だけで何回“面白い”って言われてるんだろう。

外見にこれといった自信のない私だけど、いっそプロフィール欄に
“性格:面白い”って書けるレベルかもしれない。

「うん、面白いよ……」

笑いながら、でも少しだけ目を細めて。

そして、ふっと声のトーンが落ちる。

「好き」

「す、す、す、好き?!?!」

予想外すぎる直球。

身体がびくっと跳ねる。

その反応を見た伊藤くんは、また楽しそうに笑い出す。

「反応大きすぎ」

からかわれているのか、本気なのか。

水しぶきで濡れた頬よりも、今は胸の奥のほうがずっと熱かった。
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