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しおりを挟む「何、いきなりボーッとし始めてんの?お前、やっぱ疲れてるよ」
仁が光の肩に腕を回し、軽くポンポンと叩いたあと、仁は目を瞬かせた。
「…あれ?お前、タバコ吸ってたっけ?」
「ああ、タバコ?やめてたけど、また吸い始めた」
軽く答える光に、仁は何気なく視線を落とし、カバンの中を覗き込んだ。その瞬間、目を大きく見開いた。中には潰れかけのタバコの箱が無造作に放り込まれていた。
20歳になってから光はタバコを吸い始めた。
理由は仕事での交流の幅を広げるためだった。そのため、好きというわけではなく口寂しさで吸うという程度だったのだが、そのうち普段も吸うようになっていた。
光のタバコを吸う姿を朝陽は少し驚いたような表情をした後いった。
「タバコを吸う時間の代わりに僕とキスをしてくれない?僕はもっと光くんと仲良くなりたい」
初めてその言葉を聞いたとき、光は呆然とした。いつも控えめで、人の顔色ばかり伺う朝陽から出るとは思えないほどの、突拍子もない言葉だったからだ。恋愛漫画にあるような下手な言葉なのに朝陽の耳まで真っ赤にして伏せた様子があまりにも可愛かった。
不思議とその一言も気に入ってしまい、馬鹿げていると思いながらも、タバコを吸いたくなった時は代わりに朝陽にキスをした。そうすることでタバコをやめられていた。
今思えば、笑ってしまうくらい子供じみたやり取りだが同時に、あの柔らかい唇の感触や、触れるたびに頬をほんのりと染めながら嬉しそうに笑った朝陽の顔が、胸の奥をじわじわと締めつけてきて、光を苦しめた。
携帯を開いては、朝陽からの連絡が来ていないかつい確認する癖がついてしまった。もち朝陽からの連絡はない。画面が空っぽであることは最初からわかっているのに、確認せずにはいられなかった。
そのたびに、苛立ちや不安が波のように押し寄せる。
「たまにはさ、息抜きした方がいいよ、お前も。今日の夜、派手に遊びに行く?」
仁の軽い声が耳に飛び込んできた。
「…派手に?」
「そう。たまにはいいだろ?派手に遊ぼうや。この前アイドルグループの子からDMきたんだよな」
仁が口にしたのは、最近SNSを通じて一気に知名度を上げたアイドルの名前だった。光は首を傾げた。メンバーの名前も顔も曖昧で、正直ほとんど興味がない。だが、仁の表情には妙な自信が滲んでいた。
その日の夜、仁に強引に連れられるまま訪れた店は貸切状態だった。煌びやかな照明、耳にまとわりつくような音楽、鼻をつくアルコールの匂い。芸能関係者らしき人間が所狭しと集まり、光も知り合いや名前を聞いたことある人物をいくらか見つけた。何度か経験した空間だが何度経験しても慣れない苦手な空間だ。
とりあえず気を紛らわすために挨拶に行こうとした瞬間、前に立ちはだかる影があった。
「滝口光さんですよね?初めまして!実際に見ると身長すごく高くてびっくりしました!デビューの時からずっと応援してます!」
笑顔を浮かべた女が、胸元が開いた洋服をきて光の前に現れた。
「え?あ…デビューの時から、ですか。どうもありがとうございます」
おそらくデビュー作を聞いても答えられないだろう。光は直感的にそう思った。自分が関わってきた昔からのファンたちはこんな媚びたような会話をする人間は一切いなかった。それは芸能人でも一般人でもだ。
光は軽く笑みを作り、頭を下げた。仁にそっと近づき、耳元で囁く。
「だれ?この人」
「この子だよ。さっき話してたアイドル。可愛いだろ?せっかくなんだから、仲良くやっとけ」
そう言い残すと、仁は酒のグラスを片手にその場から素早く消えた。
残された光に、アイドルは興奮した様子でさらに距離を縮める。目を輝かせ、肩が触れるほど近づいてくる。
「本当にずっとファンで!!会えるなんて夢みたいです!」
言葉は嬉しそうでも、光にとってはどこか押しつけがましく感じた。愛想笑いで相槌を打ちながらも、心はどこか冷めていた。
「ちょっと知り合いに挨拶しにいきたいので失礼しますね。これからも応援してくれたら嬉しいです。」
咄嗟に視線を泳がせ、たまたま目に入った知り合いを理由に、その場を離れようとする。アイドルの顔にはあからさまな不満が浮かんだ。口角が下がり、さっきまでの熱っぽい視線が、不満を滲ませる。
光はそれを受け流しながら、グラスを片手に人混みを抜けた。
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