【完結】俺はお前がいなくても。

ぽぽ

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16 side朝陽

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光と再会する数日前。

朝陽は大きなため息をついた後、ワイングラスを持ち上げた。しなやかな手つきとは裏腹にワインを一気に飲み干した。

薄らと暗い空間に朝陽のほんのりと赤く染まった頬が目立つ。

「朝陽、飲み過ぎだぞ~」

隣の席で山村が苦笑混じりに制する。だが朝陽は軽く肩をすくめ、冗談めかして返した。

「そんなこと言ってる山村も飲み過ぎだけどね」

一体、何が面白いのかわからない。けれど、二人は小さく笑い合った。気まずさをごまかすような笑いだった。

山村は大学時代からの唯一の友人だ。同じ文学サークルに所属していた頃からの付き合いで、互いに特別おしゃべりなわけでもないのに、不思議と一緒にいて楽だった。人付き合いが苦手で、誰とでも仲良くできる性格ではなかった朝陽にとって、山村の存在は数少ない安心できるもののひとつだった。二人ともどこか不器用で、気を張らずにいられるからこそ、長く続いているのだろう。 

二人の家の中間距離にある個人経営のバーにきた。中には四、五人ほどの客しか入れない。ごじんまりとした空間だ。

「で、ところで今日の集会はなんだよ。」

山村は小鉢の中に入ったカシューナッツを一粒とると口の中に放り込んだ。

「んー、と、恋人と別れた」

呑気に答える朝陽に対して山村は目をこれでもかと見開いた。

「は?!別れた?!?お前だってずっとリア充だっただろ?」

「その“リア充”って呼び方、なんか嫌だなあ。僕たちの関係が充実してはなかったよ。特に向こうはね。」

「でも、お前そんなこと思いながらずっと付き合ってきたんだろ?“恋は盲目”って言葉はお前のためにあるんだなと思ったよ。」

朝陽は山村に対して恋人が好きだという感情を隠すことなかった。

「まあ、確かに盲目だね…」

再びグラスに口をつける。
同性同士の恋愛が珍しくなくなり、結婚さえできるこの時代。山村も朝陽が男性と付き合っていることは知っていた。けれど、その相手が光だとは一度も打ち明けたことがない。恋人の外見の特徴も伝えたことはない。

「あのさ別れた原因は?」

「…向こうに好きな人ができたっぽい」

「おいおい、“ぽい”ってなんだよ。確実じゃないのかよ」

「いや、絶対そうだと思うんだ。だって僕を見てる時の目と、その人を見てる時の目が全然違ってたから。」

朝陽は特に悲しむ表情を浮かべるわけでもなく平然と答えた。まるでそうなることを予想できていたとでもいうように。

「まあ、そっか…。でも、良かったじゃん。お前ずっと言ってたじゃん。自分が本当に愛してる人と幸せに暮らすことが夢だって」

「ありがと、山村。君にも最高の恋人ができるといいね」

朝陽はにっこりと笑みを浮かべると山村の頭をポンポンと撫でた。

「やめろ!酔っ払い!」

手を払われ、朝陽は素直に離れる。

「それにしても、なんでそこまで盲目的にその人のこと好きになったんだよ」

山村の何気ない問いかけに、朝陽は一瞬言葉を失った。そして、手元のグラスを見つめながら、記憶の底に封じ込めていた瞬間を思い出す。

高校受験の日。

話すことが苦手な朝陽にとって「面接」は地獄のような時間だった。順番を待つ間、心臓が耳元で鳴っているかのようにうるさく、手汗でプリントが湿る。深呼吸をしても落ち着かない。手に「人」という文字を書いて飲み込んでも、全然効果がない。
前日までしっかりと覚えてきた面接の返答はうろ覚えになってしまっている。

失敗したらどうしようという気持ちが頭を占めた。震える手を握りしめた。

「大丈夫?」

その時、不意に声をかけてきたのが光だった。

同い年のはずなのにどこか大人びていて、特別な何かを纏っているような雰囲気。背筋がすっと伸びていて、自信に満ちている。あまりにも眩しい存在。それが光だった。

「こういうのって緊張するよね?ここ、第一志望?」

「…う、うん」

「俺もそう。試験、結構上手くいった?」

「…えっと、それなりに…」

人見知りと緊張で、声が小さく震える。それでも、光は話しかけ続けてくれる。

「あの、ごめんなさい。僕、緊張していて上手く話せなくてっ」

思わずそう謝った瞬間、背中を“ポン”と軽く叩かれた。驚いて顔を上げると、光がにやりと笑っていた。

「どう?びっくりして緊張してたことちょっと忘れたでしょ。俺の友達がよくやってきてうざかったけど、案外効くんだよ」

その言葉に、朝陽は本当に緊張が和らいでいることに気づいた。彼に触れられた背中へと意識が向いてしまった。暖かく大きな手だった。

「この学校に落ちたとしても、それは人生のほんの数千分の一の出来事でしょ。そんな重く考えなくてもいいと思う。逆に、もし受かったら何しようかって考えた方が楽しくない?俺はそっち派。」

名前を呼ばれ、光は面接室へと歩いていった。振り返ることはなかったけれど、後ろ手でひらひらと手を振って。

その一瞬の仕草に救われて、朝陽はなんとか面接を乗り越えられた。

そして数ヶ月後。あることが起こった。
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