【完結】俺はお前がいなくても。

ぽぽ

文字の大きさ
18 / 23

18

しおりを挟む


光は机の上に置かれていた教科書を、片腕でまとめて抱え込んだ。

「いや、光!それは……こいつが持っていくからいいんだって!」

慌てふためいたように男子生徒が朝陽を指差す。その声には明らかな動揺が滲んでいた。光の姿を前にして、彼らの態度が一変する様子を見て朝陽は悟った。光という存在が、この学年でどれほどの影響力を持つのか。どれほど上位のヒエラルキーにいるのか。

「いや、いいよ。俺が持って行ってあげるから」

「光、なら私も一緒に…!」

集団の中の一人の女子生徒が言うと、周りの女子はその人を睨みだした。自分だけ抜け駆けするなという気持ちが伝わってくる。
光は教科書を軽々と抱え直し、涼しい顔で言葉を続ける。

「俺が持ってくる。だって自分で持って行かないってことは、それなりに理由があるんでしょ?……同じ場所に怪我でもしてんの?お前ら全員」

淡々と告げる声に、男子生徒たちは一瞬で言葉を失った。光の鋭い眼差しが一人ひとりを正確に射抜いていく。真実を問いただし、逃げ道を塞ぐものだった。

「いや……別に怪我してるわけじゃ……」

「だとしたら、その中の誰が持ったっていいよな。この人だったらいいのに。俺が持っていこうとしたら拒否する理由がわからない」

「それは……」

ごまかしの言葉さえ出てこない。沈黙が彼らを包み、気まずそうに互いの顔を見合わせる。光はその様子を一瞥し、小さくため息を吐いた。

「お前ら……見てて気分悪いよ。普通に」

その冷淡な声は、ざわめく教室の空気を一瞬で切り裂いた。周囲の喧騒は続いているはずなのに、その場だけ音が消えたように、朝陽の耳にはっきりと届く。誰も反論できない。ただ沈黙が広がるばかりだった。

光は腕に抱えていた教科書を机にバラまいた。

光は俯いて固まる朝陽の方へと手を伸ばした。前髪に隠された表情を覗き込み、柔らかな声音で問いかける。

「……大丈夫?」

その声を聞いた瞬間、朝陽の脳裏に、数ヶ月前の記憶が鮮やかに蘇る。入試の面接の時、不安に押し潰されそうになっていた自分に、光がかけてくれた声。その時と同じ、澄んだ優しさがそこにあった。

緊張で固く強張っていた体から、少しずつ力が抜けていく。光は自然な仕草で、朝陽の背中をポンと軽く叩いた。

「どう?緊張、解けた? ……同じ学校に受かってよかったな」

光は朝陽を覚えていた。
あの時の自分のことを、光は覚えていてくれたのだ。

胸の奥に澱んでいた曇りが、一瞬で晴れていく。今まで感じたことのない胸の高鳴りが、波のように押し寄せてきた。

この人が好きだ。

はっきりと自覚した瞬間だった。入学以来ずっと胸にあった得体の知れないわだかまりが、音もなく解け落ちる。眩しすぎる存在。手を伸ばすことさえ許されない遠い存在。そのはずなのに、光の声と仕草は、あまりにも近く、あたたかかった。

だからこそ、告白を思い切ることができたのだろう。

今後、光以上の存在は決して現れない。そう確信してしまったからだ。一度でも想いを伝えなければ、きっと一生後悔する。拒絶されても構わない。気持ち悪いと言われてもいい。どれほどひどい言葉を浴びてもいい。

同じ学校に通えたというだけで、それがすでに「人生のハイライト」だったのだ。大袈裟に思われるかもしれない。だが、朝陽にとってそれは紛れもない真実だった。

そして迎えた告白の瞬間。

全身を駆け巡る緊張はかつて経験したことのないものだった。背中には滲む汗が何本もの線となって伝い落ちる。どう歩けばいいのか、どう呼吸をすればわからなくなる。

光は朝陽のことをわすれているようだった。
だが、返ってきた答えは予想外のものだった。

束縛はしないこと。
嫉妬はしないこと。
もし嫉妬しても、決して本人の前で感情をぶつけないこと。
光が他の女と一緒にいても文句を言わないこと。
そして、もし光が「付き合いたい」と思う相手が現れたなら、その瞬間に未練を残さず潔く身を引くこと。

『俺ね、今すごく金に困ってるんだ。家が大変なことになってて。だから、君が協力してくれるんだったら……いいよ』

条件は数え切れないほど提示された。普通なら到底受け入れられないものばかり。だが、誤算だった。その条件の先に「付き合う」という結果が待っているなど、想像すらしていなかったのだ。

光と一緒にいられる。それだけで十分すぎる「人生のハイライト」だったのに、さらに思いもよらぬ転機が訪れたのだ。

その日から、朝陽の人生の主役は光になった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

氷の死神αと余命宣告五年の悪役令息

ミカン
BL
悪役令息Ωと噂されているミアンが死神と呼ばれる戦狂αと噂されているダリウスに出会う

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

好きなタイプを話したら、幼なじみが寄せにきた。

さんから
BL
無愛想美形×世話焼き平凡 幼なじみに好きバレしたくない一心で、真逆の好きなタイプを言ったら……!?

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜

四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。 「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない! __と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで…… ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...