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しおりを挟む数日後。
光は再び、朝陽の会社の前に姿を現した。
光は、会社の入り口から少し離れた場所で立ち止まり、ビルの出入口をじっと見つめていた。
あたりを何度か見渡し賢也という男の姿を探したが、その姿はなかった。
それだけで、胸の奥から小さく安堵の息が漏れる。
誰かに朝陽を奪われたのではないか。そんな不安に押しつぶされそうだったのだ。
朝陽の定時の時間が過ぎ、社員たちがぽつぽつと出てきては、それぞれの帰路へと消えていく。
その中に、ようやく見覚えのある姿を見つけた。
「朝陽。」
光が朝陽の元へと足早に歩き、朝陽を呼ぶ。
朝陽は下を向いたまま歩いていたが、その声に気づき、はっと顔を上げる。
「光くん……また来てくれたんだね。どうしたの?」
朝陽はどこか疲れたような笑みを浮かべた。
こう何度も尋ねられて迷惑だったのかもしれない。
だが、光は今朝陽と会話ができているチャンスを逃したくなかった。
光は、背中に隠していたものをゆっくりと前へ出した。
両手に抱えていたのは、大きな花束だった。
朝陽は花が好きだったことをふと思い出した。
花屋に入るのは生まれて初めてで、何をどう頼めばいいのかもわからなかった。
けれど、店の中に足を踏み入れた瞬間、自然と目に留まった花があった。
白い薔薇。
清らかで、どこか切ないほどに美しいその色は、まるで朝陽そのもののように思えた。
「朝陽。今まで傷つけて……本当に、ごめん。」
光の声は震えていた。
朝陽は驚いたように瞬きを繰り返し、戸惑いながら花束を見つめる。
「光くん……?」
光から贈り物をもらうことなど、今まで一度もなかった。
朝陽は状況を飲み込もうとするように、小さく息を呑む。
光は一度大きく息を吸い込み、心臓の鼓動を抑えながら、真っ直ぐな声で言葉を放った。
「朝陽と、やり直したい。もう条件も、金もいらない。
朝陽がいれば、それでいい。」
まっすぐに見つめる。これほど緊張したことは初めてだった。
けれど、朝陽の瞳はその言葉を受け止めながらも、どこか遠くを見ているように曇っていた。
「……朝陽?」
二人の間には沈黙が流れる。
「光くんは……何にもわかってないよ。」
その声には、怒りも泣き声もなかった。
ただ静かに、真実だけを伝えようとする響きがあった。
「僕がまた君と付き合ったところで、きっと同じ繰り返しになる。
君には僕なんかより、何百倍も何千倍も魅力的な人がいる。
それに……どうしてそんなに、僕に執着するのかがわからない。
僕は条件ありきじゃないと、君と一緒にいられなかった人間なんだよ。」
その言葉に、光は息をのんだ。
まるで胸の奥に鈍い刃を突き立てられたような痛み。
でも、反論する言葉が出てこない。
朝陽の自信を無くさせたのは自分だ。
嫉妬も、不安も、愛情も。全部を自分の都合で押しつけてきた。
その結果、朝陽の中に“自分は愛されるに値しない”という傷を刻んでしまったのかもしれない。
「この前、結婚相談所に登録したって言ってたけど朝陽が……結婚したいって思う相手って、どんな人?」
唐突な問いに、朝陽は目を見開いた。
「なんで、そんなこと聞くの……?光くんには関係ないよ…」
「関係ある。」
光の声は、掠れていた。
けれど、その掠れた声の奥に、強い意志が滲んでいた。
朝陽が何かを言い返そうと口を開いたが、その言葉よりも早く、光が続けた。
「俺もその候補に入れてよ。」
一瞬、時間が止まったようだった。
朝陽の目が、これでもかというほど大きく見開かれた。
光は、その表情をみて白い薔薇を握る手に力を込めた。
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