【完結】俺はお前がいなくても。

ぽぽ

文字の大きさ
21 / 23

21

しおりを挟む


「光くん、何言ってるの。冗談はやめてよ。それとも、僕と別れた罪悪感でそんなことを言ってるの?」

朝陽の声は震えていて、冷たさと怯えが混ざっていた。

「冗談でもないし、罪悪感でもない。…これからの人生に朝陽がいないことが考えられなかった。毎日…毎日後悔した。」

その言葉に嘘はなかった。
光は朝陽へとゆっくりと距離を詰め、震える手で朝陽の手を握った。
手のひらに触れる感触が、懐かしくて、温かくて、痛かった。
そしてその手に、自分が持っていた花束をそっと握らせる。

白い薔薇が、夕暮れの光を受けて淡く輝く。
朝陽が花束を抱いた姿は、あまりにも綺麗で、光は息を呑んだ。
驚いたような、戸惑うような顔。その中に、ほんの少しの涙が光る。
光はその表情を見つめながら、息をつく。

「朝陽がどんな人と結婚したくて、どんな人と一緒にいたいと思えるのか教えて。」

静寂の中で、光の声だけがやけに響く。
街灯が少しずつ灯り始め、二人の影を長く引き伸ばしていた。

「教え…たくない。」

朝陽はかすれるように呟いた。

「だって、僕が本当の気持ちを伝えたら光くんはきっとまた離れていくから。もう光くんが求めてる理想の性格の僕じゃない。わがままだっていうし、嫉妬だってする。」

唇を噛みしめ、俯く朝陽の肩が小刻みに震えている。
気づけば光は朝陽へと一歩踏み出し、その細い身体を抱きしめていた。

顎を朝陽の頭に乗せ、震える背中を包み込む。
朝陽の髪から香る柔らかな匂いが、懐かしい記憶が蘇る。
もう思い出さないようにと封じてきた記憶、笑い声、触れた温度、二人で過ごした時間、すべてが一瞬で蘇り、抱きしめる腕に自然と力がこもった。

「…ごめん。…本当にごめん。」

光の声は掠れていた。

「ずっと辛い思いさせて。何度謝っても許してくれないことだってわかってる。だからこそ、俺に行動で示させて。朝陽がどんなことをしたとしても、俺は離れていかないってことを証明させるチャンスをちょうだい。」

「チャンス…?」

朝陽は光の胸元から顔を上げた。
その頬には涙の跡が光り、まつげに残った水滴が小さく震える。
泣いているのに、その表情はどこか安堵して見えた。

「朝陽のことを教えてほしい。」

光は静かに言葉を継いだ。

「今まで隠してた感情も、朝陽が楽しかったと思ったことも。俺に対してムカついたことも。他の女といるな、とかでもいい。好きなもの、嫌いなもの、くだらないことでもいい。…一つも隠さないで全部、俺に見せてほしい。」

「…そんなの光くんが一番嫌がることでしょ。」

「朝陽と離れてから後悔した。」

光は目を逸らさずに言った。

「条件とかつけたことを。朝陽と付き合った時、本当にただただ“恋人”ってめんどくさい存在だと思ってた。束縛されるのも嫌だったし、ちょっとしたことで文句を言われるのも、自分の自由がなくなるみたいで息が詰まった。…だから、あのときあんなことを言った。」

「だけど、光くんは悪くな」

「俺が悪い。」

光はその言葉を遮った。
朝陽がいつも言ってくれた“光くんは悪くない”という優しい言葉を、もう受け取る資格がないと思った。

「俺が悪いんだよ、朝陽。いつも朝陽は俺が悪くないって言ってくれたけど、いつだって俺が悪かった。俺が壊したんだ。俺が臆病で、俺が朝陽を傷つけた。…今まで、俺の代わりに罪悪感を背負わせてごめん。」

その言葉に、朝陽の瞳からまた一粒の涙がこぼれ落ちた。
光はその頭をそっと抱き込み、自分の肩に朝陽の頭を預けさせる。
初めは遠慮がちに、ほんの少しだけ重みが乗る程度だった。
けれど、しばらくして朝陽の体の力が抜けて、完全に光の肩へと身を預けた。

小さくすすり泣く音が耳元で響く。
その音が、かつての二人を繋ぎ止めていた最後の糸のように感じられた。

「朝陽が俺にしてきてくれたこと、全部返すから。」

光は力強く朝陽に向けて言った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった

近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。 それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。 初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

処理中です...