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しおりを挟む「光くん、何言ってるの。冗談はやめてよ。それとも、僕と別れた罪悪感でそんなことを言ってるの?」
朝陽の声は震えていて、冷たさと怯えが混ざっていた。
「冗談でもないし、罪悪感でもない。…これからの人生に朝陽がいないことが考えられなかった。毎日…毎日後悔した。」
その言葉に嘘はなかった。
光は朝陽へとゆっくりと距離を詰め、震える手で朝陽の手を握った。
手のひらに触れる感触が、懐かしくて、温かくて、痛かった。
そしてその手に、自分が持っていた花束をそっと握らせる。
白い薔薇が、夕暮れの光を受けて淡く輝く。
朝陽が花束を抱いた姿は、あまりにも綺麗で、光は息を呑んだ。
驚いたような、戸惑うような顔。その中に、ほんの少しの涙が光る。
光はその表情を見つめながら、息をつく。
「朝陽がどんな人と結婚したくて、どんな人と一緒にいたいと思えるのか教えて。」
静寂の中で、光の声だけがやけに響く。
街灯が少しずつ灯り始め、二人の影を長く引き伸ばしていた。
「教え…たくない。」
朝陽はかすれるように呟いた。
「だって、僕が本当の気持ちを伝えたら光くんはきっとまた離れていくから。もう光くんが求めてる理想の性格の僕じゃない。わがままだっていうし、嫉妬だってする。」
唇を噛みしめ、俯く朝陽の肩が小刻みに震えている。
気づけば光は朝陽へと一歩踏み出し、その細い身体を抱きしめていた。
顎を朝陽の頭に乗せ、震える背中を包み込む。
朝陽の髪から香る柔らかな匂いが、懐かしい記憶が蘇る。
もう思い出さないようにと封じてきた記憶、笑い声、触れた温度、二人で過ごした時間、すべてが一瞬で蘇り、抱きしめる腕に自然と力がこもった。
「…ごめん。…本当にごめん。」
光の声は掠れていた。
「ずっと辛い思いさせて。何度謝っても許してくれないことだってわかってる。だからこそ、俺に行動で示させて。朝陽がどんなことをしたとしても、俺は離れていかないってことを証明させるチャンスをちょうだい。」
「チャンス…?」
朝陽は光の胸元から顔を上げた。
その頬には涙の跡が光り、まつげに残った水滴が小さく震える。
泣いているのに、その表情はどこか安堵して見えた。
「朝陽のことを教えてほしい。」
光は静かに言葉を継いだ。
「今まで隠してた感情も、朝陽が楽しかったと思ったことも。俺に対してムカついたことも。他の女といるな、とかでもいい。好きなもの、嫌いなもの、くだらないことでもいい。…一つも隠さないで全部、俺に見せてほしい。」
「…そんなの光くんが一番嫌がることでしょ。」
「朝陽と離れてから後悔した。」
光は目を逸らさずに言った。
「条件とかつけたことを。朝陽と付き合った時、本当にただただ“恋人”ってめんどくさい存在だと思ってた。束縛されるのも嫌だったし、ちょっとしたことで文句を言われるのも、自分の自由がなくなるみたいで息が詰まった。…だから、あのときあんなことを言った。」
「だけど、光くんは悪くな」
「俺が悪い。」
光はその言葉を遮った。
朝陽がいつも言ってくれた“光くんは悪くない”という優しい言葉を、もう受け取る資格がないと思った。
「俺が悪いんだよ、朝陽。いつも朝陽は俺が悪くないって言ってくれたけど、いつだって俺が悪かった。俺が壊したんだ。俺が臆病で、俺が朝陽を傷つけた。…今まで、俺の代わりに罪悪感を背負わせてごめん。」
その言葉に、朝陽の瞳からまた一粒の涙がこぼれ落ちた。
光はその頭をそっと抱き込み、自分の肩に朝陽の頭を預けさせる。
初めは遠慮がちに、ほんの少しだけ重みが乗る程度だった。
けれど、しばらくして朝陽の体の力が抜けて、完全に光の肩へと身を預けた。
小さくすすり泣く音が耳元で響く。
その音が、かつての二人を繋ぎ止めていた最後の糸のように感じられた。
「朝陽が俺にしてきてくれたこと、全部返すから。」
光は力強く朝陽に向けて言った。
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