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しおりを挟む「…光くん、これどうしたの?」
「買った。」
朝陽の視線の先に停まっていたのは、滑らかなフォルムの外車だった。
夕陽を反射して鈍く光るボディ。どこか品があり、存在感のある佇まいだった。
車に詳しくない朝陽でさえ、そのメーカーの名前を知っていた。
値段を想像した瞬間、言葉が喉に詰まる。
朝陽の婚約者候補になりたいと宣言した数日後。光は朝陽と約束を取りつけた。付き合えたというわけではないが朝陽があってくれることに少しの安心感を覚える。
待ち合わせの場所に現れた光は、朝陽を近くの駐車場まで案内した。
そして、目の前にこの車を見せた瞬間、当たり前のようにポケットからキーを取り出して見せた。
朝陽はその姿に呆然とする。
「光くん、いつ車買ったの?持ってなかったよね?」
「ついこの前買った。どんな車がいいかとかわからないから知り合いに聞いたらこの車がいいっていってたから。」
「なんか必要になったの?」
「うん。朝陽と出かけるために。海辺とか見に行きたいってたでしょ。あと、ドライブとかにも憧れるっていってた。」
さらりと言った言葉があまりにも自然で、朝陽は瞬きをした。それにそのことを話したのは何年も前で、光が覚えていたことに対しても朝陽は驚いていた。
「これでいろんな場所行こう。朝陽の好きなところ、全部。」
光ははにかんだ笑みを浮かべる。
二人が付き合っていた頃は、外でデートをすることなんてほとんどなかった。
互いの部屋で過ごす時間がほとんどで、夜のコンビニや近所の公園に出かけることさえ稀だった。
確かに高い買い物だったが、光は普段は自分のために贅沢をするようなタイプではなかった。
服も時計もブランドもそこまで興味がない。
必要なもの以外にはほとんど金を使わなかった。
だからこそ貯まった金は、朝陽と弟たちのために使うと決めていた。
光は、朝陽が喜ぶ顔を想像して胸を弾ませていた。
けれど、実際に目の前にいる朝陽は、笑うどころか固まったままだった。
その表情に、光は少し焦りを覚える。
「おーい、朝陽?」
光が目の前で手を振る。
朝陽はゆっくりと光を見上げ、まるで信じられないというように問い返した。
「僕のために…この車を買ったってこと…?」
「そう。朝陽のため。まぁ、仕事行く時とかにも使うことあるだろうけど。」
軽い口調で言ってみたが、朝陽の顔色は晴れなかった。
視線が宙を泳ぎ、唇が小さく震えている。
光が「どうしたの?」と声をかけようとしたその瞬間。
「なんで自分のためにお金を使わないの。」
朝陽の声には、静かな怒りが滲んでいた。
珍しく、感情をあらわにした。
その瞳の奥には、優しさと苛立ちが入り混じっていた。
「光くんが頑張って稼いだお金なのに…。光くんのお金は自分と弟くんたちのために使うべきでしょ。他人の僕のために使うものじゃない。」
他人
その言葉が胸に突き刺さった。
朝陽がそう言うのは、きっと自分を守るためだとわかっていた。
けれど、それでも光は笑った。
どんな言葉を浴びせられても、朝陽の心がちゃんと動いていることが嬉しかった。
「じゃあ、前に朝陽が俺に使ってくれた金は何?」
朝陽は少しの間、言葉を失った。
やがて唇の端を歪めて、小さく呟いた。
「それは…違うでしょ。だって、あの時は光くんがすごく困ってて。それに、光くんからお金のことで助けてほしいって言われたのなんて、数えるほどしかなかった。」
「じゃあ、俺のも一緒だと思うけど。」
光は静かに返した。
「朝陽に言われたわけじゃない。俺が勝手に買った。…ただ、朝陽のためにそうしたいと思っただけ。」
「それとこれとは違うよ。」
「何が違うの?」
朝陽は言葉に詰まり、唇をきゅっと結んだ。
しばらくして、開きかけた口を小さく尖らせる。
その表情は、まるで拗ねた子供のようで、光の胸をくすぐった。
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