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第1章

2話 入学

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第1章 2話 入学式


 
私たちはおしゃれな鉄格子を通り抜けクローバー魔法学院の敷地内にいた。
「…………意外と大変だったな」
そう、道のりがけっこう大変だったのだ。魔法汽車に乗れたのはよかったが、その混み具合が異常だった。
「次からはもうすこし早く出たほうがいいかも」
「ああ、その方が良さそうだな……」
 だいぶ、リオンも疲れた顔をしている。ただ、遅刻をすることはなかったのでよしとしよう。校舎を見ると、すごく立派な白い建物だ。それに、なんと言っても敷地が広い。目の前に見えるのが校舎だと思うが、左右を見回すと他にも建物があるようだ。
「じゃあ、私は1組だから」
「ルリもか、俺も1組だ。じゃ、一緒に行くか」
私は、手を振って別れようとしたがリオンも同じクラスのようだ。私は同じクラスだったことが嬉しくて口元が緩む。
「リオンと同じクラス!」
「みたいだな」
リオンの声も弾んでいてどことなく嬉しそうだ。
教室につくとほとんどの人がもうクラス内にいた。教室は40人程度が収まるほどの広さに椅子と机が置いてあるような部屋だった。
「ここが教室かー」
 私は、初めて学校という場所に来たのであたりをぐるぐると見回す。
「ああ、ルリは初めて来たのか」
 しかし、リオンはもう見慣れた空間という感じで平然としている。まあ、リオンはここ魔法学院にお母さんが勤めているため何度か入ったことがあるようだけど…………。
もうクラス内で自己紹介をしあい交流をしているようだ。私は適当に空いてる席に座る。特に座席指定とかはないみたいだ。
「あなたの名前は?」
二人組の女子が話しかけてきた。1人は長い髪のストレートでもう1人はショートボブの子だ。
「ルリカ・マーリス。よろしくね」
「マーリスって……」
2人は私の名前に反応した。
「もしかしてルクリア・マーリスってあなたのお母さんだったりする?」
長い髪の子が話しかける。
「ええ、まあ……」
「そう、今行方不明なのよね」
「そうそう噂だともう…………」
何か言いかけたボブの子にもう一人のストレートの子がひじでボブの子をつついている。
「あ! ごめん、なんでもないの」
「ごめんね、じゃあね」
あわてたように二人組の女子はすたすたと歩いて行ってしまった。
「気にすんなよ」
そう言いながら、しれっと私の隣の席に座るリオン。
「ありがと、でももう気にしてないから」
 心配してくれるリオンにヘラっと笑って見せる。
私のお母さんは、有名人だ。なぜなら、五大魔法使いの一人だったから。五大魔法使いとは、この国の五つの領域のうち一つを任せられている実力者たちのこと。六年前までお母さんは、大樹の森とその周辺の管理者だった。管理といっても、魔物や犯罪などからの治安維持が主な仕事。あの時出て行ったのも仕事関係だと思う。しかし、それを知らない多くの人は、失踪だの行方不明だのと言われている。だから、お母さんの話は、もう慣れている。いろんな人にいろんなことを言われるのは…………。物思いにふけっているとガラガラッとドアの開く音がした。
「はいはい、皆さん席についてください」
そう言って、手を叩きながら入ってきたのは細身の女の人だった。服装に乱れがなく、佇まいにも隙がない。髪の毛も肩にかからない程度に切り揃えてあり、少し厳しそうな人に見える。
「今日からここのクラスの担任になった、リセス・リディーズです。これから、校長先生からの話があるのでよく聞くように」
それから、リディーズ先生は球体の水晶のような物を出して机に置く。すると、ぽんっと水晶の上空に人の姿が現れた。しかし、人ほどの大きさではなく、だいぶ小さい。水晶から上に光が出て立体映像のように映し出している。え、なにあれすごい。だが、まわりを見ても特に反応はないことからあまり珍しいものではないらしい。校長先生だからそれなりの年かと思ったがそうでもなく50歳以下といった印象。
「えー、こほん。皆さんようこそ、このクローバー魔法学院へ。皆さんもご存知のとおりここは魔力量が多い人たちの学園です。そのため、安全に配慮して防御魔法をかけてありますが…………あまり試すようなことはしないように、それでは、良い学園生活を過ごしてください」
なぜか、変な間があったが校長先生からの話が終わった。誰かが試して、穴でも空いたのだろうか。他の国は知らないが、この国では魔力量により通う学校が決まるしくみだ。主に、小、中、大のような基準になっており入学前の魔力測定値により決まる。この学園の施設説明やこれから行うことを話して解散になった。
「これで今日は、終わりです。明日は、精霊の使役をしてもらいます。では解散!」
まだ、初日なので早く終わるようだ。みんなが一斉に動き出す。自己紹介をして交流の輪を広げていた子達はもう、新しくできた友達と帰るようだ。
「リオン、さっきの球体は何?」
私の質問は予想していなかったようでリオンはかなり驚いた。
「えっ、知らないのか!?…………ああ、そうかルリの家あんまり魔道具ないもんな。でも、あれくらいならもっているんじゃないか?」
「そうかなー? でも私、見たことない」
「おじさんの部屋にならある気がするけどな」
 まあ確かにあるかもしれないけど……。
「それで、どういう物なの?」
「ああ、あれは通信用魔道具だよ。遠くにいる人でもあれを使うことでその場にいるかのように話せるし聞こえる」
「へー、すごい!」
私は目を輝かせる。
「でも、私には魔法で手紙とか直接渡せるしー」
なんか道具に負けているようで少し対抗する。
「あのなー、道具に対抗すんなよ」
リオンが苦笑する。
「みんながみんなルリみたいに魔法使えるわけじゃないんだからな。学校も始まったし気をつけろよ」
 少し心配そうな顔をしている。私が何かをやらかさないかを気にしているようだ。
「わかってる、それよりそろそろ帰らない?」
「…………ああ、だな」
あたりを見るともうクラス内には誰もいなっかった。
屋外に出ると何やら歓声が聞こえてきた。私たちはそろって顔を見合わせる。声は学校の裏から聞こえてくる。裏に行くとドーム型の魔法防御があり、観客席がそれを囲むようになっている。
「ねえ、行ってみない?」
私は何をしているのかとても気になった。
「まあ、いいか」
リオンも少し興味があるようだ。

 
私たちは空いている席に座る。そこは闘技場の場所のようで、なにやら、大会のような、力試しのようなものが行われているようだった。
「おーい、こんなもんなのかよ。強いやついないのか!」
ステージの真ん中には短髪でオレンジ色の髪をした一人の男の子が腕組みをして偉そうに立っていた。あれは、私たちと同じ、新入生のようだ。校章が私たちと同じ色をしている。集まっている人の会話から察するに、この人が主に挑戦者に勝ちまくっているようだ。
「二人でもいいかしら?」
そう言って出てきたのはさっき教室で話しかけてきた2人組だった。この人だかりの前に出てきたと言うことは、それなりの自信があるということかな。とりあえず2人で見物をする。もしかしたら、面白い魔法が出てくるかもしれない。魔法防御もしてあるため私たちが座る席は安全のようだった。
「ああ、いいぞ」
男の子が承諾したことで、ステージ上にいるものの目の前にカウントダウンの数字が現れる。
 5、4、3、2、1、はじめ
はじめの文字が消えて少女2人が少年にむかって飛び出す。
「我が手に炎を宿したまえその形を矢に変えよ!」
「我が手に風の魔法を宿したまえ」
それぞれが同時に魔法を放つ。火の矢を風で添えて誘導し、なおかつ、スピードを加速しているようだ。確かに、いい攻撃だけど、少し火の攻撃力が弱まっている気がする。
「いい攻撃だが、これは防げるな」
魔法詠唱の省略で、すばやく魔法防御を発動させた。
「じゃあ、これはどうかしら!」
ボブの子は炎魔法が得意なようで炎の球をどんどんとうっていく。それに続けてもう一人が風魔法も撃っているためステージが煙で覆われていく。
煙が晴れてきたと思ったら、ストレートの子がもうすでに男の背後をとって魔法を放とうとしているところだった。男の子もそれに気づき、魔法防御の省略呪文を唱える。間一髪で魔法防御が間に合った。
その場面を見ていた観客が一気に盛り上がる。
「おっと、今のは危なかったな」
ステージ上の男の子はまだ、余裕そうに笑っていた。
「じゃ、こっからはこっちの番だな」
 ニヤリと悪魔のような微笑みを浮かべる。
男の子は、さっき少女たちが使っていた、炎と風魔法を交互に使う。炎の球と風の球を交互に……技術が高い。それに、威力が違う。少女たちとは比べ物にならないほどだ。まず、球の大きさが違う。少女たちは、魔法防御をしているようだが、あまり役に立っているようには見えなかった。防戦一方のまま時間が過ぎ、タイムアップした。
「基礎魔法の球の大きさを大きくして威力を上げるって面白いことするねー、あの子」
「え…………ルリがそれ言うのか?」
「え? なんで?」
 私はキョトンとした顔になる。
「なんでって、応用魔法が珍しく使えなかったときに、ルリも同じ方法使っただろ?」
 覚えてないのか?と聞いてくる。
「覚えてるけど…………」
 ムスっとむくれた顔をする。あのときは、調子が悪くて応用魔法が使えなかった。5歳のときに起こった私の中の黒歴史だ。あの時は、魔物と出くわして、私がリオンを守るんだって思っていたのに…………リオンに助けられた。リオンは、私を助けようとして前に出て庇ったから傷だらけで、それが悔しくて…………すごく泣いた。せっかく、綺麗な顔をしているのに、傷つけたらと思ったら悲しかった。あのときは、運よく顔に傷はつかなかったけど、腕は切り傷でいっぱいだった。それなのに、リオンは嬉しそうに笑っていた。
 リオンの腕に視線をやる。私がすぐに、治癒魔法をしたから、傷は残っていないけど…………。
リオンが私の視線に気づいて腕を見せる。
「もう、治ってるから。気にすんなよ」
「…………思い出させたの、そっちじゃん」
 また、むすっとする。
「あはは…………ごめん。でも、傷もう残ってないな…………」
 少しがっかりしたような顔で言った。
「傷が残る方が嫌よ」
「そうか? 俺は、傷があった方が名誉の傷って感じでよかったんだけどな…………。でも、傷を見るたびにルリが思い出すなら、こっちの方がいいか」
 なんてことを寂しげな顔で腕をさすっている。
「そうよ、リオンに傷は似合わないわよ」
「傷に似合うも似合わないもないだろ」
 2人で笑いながら、過去のことを語った。
 しかし、突然リオンが立ち上がった。
「え、何? どうしたの?」
「ルリ、ここ出るぞ」
 立ち上がっているリオンの顔は、少し怖かった。何かに警戒しているようなそんな顔をしていた。その瞳は、あのステージにいるオレンジ色の髪をした少年を見つめている。
「…………わかった」
 リオンは、長い付き合いなだけあって私のことを理解してくれている。私が、こういう魔法を使うような、技をより鍛えられそうな場所は私が好きな場所だと把握している。それを知っていてなお、リオンはここを出ようと言ったなら、そっちの方が危険が少ないということなのだろう。私たちが、そのまま人の流れに沿って出ようと相談して席を立ったところで、事態が変わった。


「おい、そこ。お前、茶髪じゃねーか」
ステージに立っていた男がこっちに向かって怒鳴っていた。茶髪…………そのことは、私のことだとすぐに気づいた。なぜなら、茶髪は珍しいから。この国では私とお母さんと何人かいるぐらい、というほどの珍しい色なのだから。
リオンが顔をゆがませ、チッと舌打ちをする。
「行くぞ」
私の手を掴み、人の流れにのって出て行こうとするリオンに向かって男が言葉を投げる。
「おい、そこの金髪、何出て行こうとしているんだよ。逃げんのか?」
リオンに向かって挑発しているようだ。すると、観客の方からブーイングが起こった。
「逃げるのは、卑怯だぞ!」
「そうだぞ! 俺たちの仇をとってくれ!」
ざわざわ、ざわざわと観客が批難を始める。
「おい、お前ら黙れ。今、俺はこいつらと話をしてんだ」
 キッと観客に向かって睨んで黙らせる。すると、スッとブーイングが静かになった。
「で、戦うのか? 戦わないのか?」
男は、私たちに向かって不敵な微笑みを浮かべていた。





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