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第1章

3話 戦うのか戦わないのか

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「戦わない」
 リオンがきっぱり言ってからそのまま私の手を引いて出て行こうとする。
「おーい、ちょいちょいそこは戦うだろ」
 男は、少しだけ慌てて止めに入る。リオンは足を止め振り返った。
「なんでル……こいつにこだわる」
リオンが私の名前を呼ぼうとしてやめた。
「なんでって茶髪だからだろ、それに今年はあのルクシア様の娘がいるって噂だったからな」
その目は確信しているような強い目をしていた。
またも観客がざわめき始める。
「あの噂は本当だったのか?」
「えっ、本当に?」
「もしかしてあの子が……?」
リオンがより一層不機嫌な顔になる。一刻も早くこの場から去りたいって思ってるんだろうな。
でも、私は少し、内心ワクワクしていた。さっきの戦いぶりを見て、戦ってみたくなった。私は基本、町に降りることはなく、森でリオンと遊ぶか、魔物退治をしていたので他の人と戦ったことがないのだ。
「リオン…………」
 私は内心ワクワクしているのを悟られないように、静かに首を横に振る。……もう逃げる事はできないというふうに。
「…………そうだな」
 リオンも渋々この状況を受け入れるようだった。ただ、こんなにリオンが戦いたくないと思っているのは、私が原因なのだ。
 その時、また朝聞こえてきた声が頭の中から響いてきた。


 
 ――――人に異常だと思われる魔法を使うな


 
…………この声だ。この声が原因なのだ。この声を聞くと、急に不安になるのだ。これを無視したら大変なことになる。何がどう大変になるのか。どんな目に遭うのかわからないのに…………、これを無視する気にはなれないのだ。
 
この言葉の意味は、……たぶん無詠唱魔法のこと。無詠唱魔法が使えるか使えないかは、とても大きな違いが生まれる。基本、魔法は詠唱が必要で、強力な魔法は特に長くなる。それを無詠唱というのは、強力な武器となる。これは、私の母ルクシアにも注意されていたことがあった。
 
――――ルリ、無詠唱魔法は、大きな武器になる。でも同時に人々の反感をかうことになるのよ。だから、人前ではやらない方がいいわ。でもね、自分が信頼している人には思いきって話してみなさい。
 
母はそう言っていた。私が信頼している人の顔を見つめる。綺麗な水色の瞳は、ステージを見つめていた。私が見つめているのに気づいたリオンは、私の方を見る。私があの声を聞いて、不安な顔をしてしまったのかリオンが心配そうな顔をした。
「またあの声を聞いたんだな」
「うん」
リオンにはこの声のことを話してある。それを知っているからリオンは、私に戦わせるような危険はしたくなかったのだ。
「声はなんて言ってるんだ?」
「人に異常だと思われる魔法を使うな」
 リオンがその言葉の意味を考える。
「人に異常だと思われるなっていうのは、ルリにとっては難しいな」
 リオンがうーんといいながら考えている。
「あ、異常っていうのは違うぞ。そういう意味じゃなくて…………」
 リオンは急にハッとしたと思ったら、何か弁解をし始めた。
「それくらいで怒らないわよ、私」
スンとそっぽを向く。でも、さっきのリオンの慌てた様子が面白くてクスッと笑う。そしたら、リオンもつられて笑った。
「リオン、頼りにしてる」
「ああ、ルリあんまり前に出過ぎるなよ。俺が戦うから。ルリは基本魔法だけ使って欲しい」
「了解。あーあ、私も前に出て戦いたかったなー」
私ががっくり、しょんぼりしていうとリオンが苦笑した。
「ルリには、あんまり目立って欲しくないからな。そうは言っても手遅れか……」
 観客席はいまだにざわついており、ステージの男も待ってくれているようだ。
「あっ、リオン。私があんまり動けないとき用に通信魔法身につけておいたから、手出して」
こうか?と手を出すリオンに私はガシっと手を握った。通信魔法は繋がりたい相手と触れている必要があるため手を繋ぎたかったのだ。あ、そうそうともう一個やることを思い出して、手を握ったままリオンの耳元に顔を寄せる。
「リオン、通信魔法を無詠唱でやるからこの状態のままでいてくれる? ちょっと人の目が多いから、バレないようにしたくて」
こしょこしょと内緒話をする。昔は、私よりも背が小さかったリオンが今では私よりも少し背が高くなり、私が背伸びをして喋っている状態だ。リオンの様子を背伸びをしたままチラッと確認すると緊張しているのか耳が赤くなっている。
「リオン、緊張しなくていいよ。すぐ終わるから」
 私が5秒ほど目を閉じると、ジジッと音がして繋がった音がする。よしっと目を開けて、リオンの手を放し、普通に立つ。リオンはまだ体をこわばらせて、目を合わせようとしない。
「(もう終わったよ)」
 私は直接喋らないで、通信の方で話しかける。これは、心の中で喋るだけで、そのまま相手に聞こえるようになっている。
 私が通信で話しかけるとリオンは目を見張る。
「(すごいなこれ……)」
「じゃあ、行くよリオン」
「おう」
 私たちは、目線をステージの方へと動かした。


 
 

 
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