女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺

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夏は休み

花火と湖面と移植手術

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 おっ! 始まったよ! 
 最初に1発上がり、続いて次々と上がった花火が、湖の上の空を染め、そしてそれが湖に反射する姿は、とても幻想的で、全てを忘れさせてくれると言っても過言ではなかった。

 「綺麗……だよね……」

 でしょー、結衣、来て良かったっしょー!
 いつもはやかましい柚月だって、口を押えてないのに静かなんだからさ、やっぱり夏の花火って特別なんだよね。

 そして、今回の狙いの1つはさ、みんなでさりげなく、結衣と優子を隣り合わせて、この幻想的な風景を2人で堪能してだよ、在りし日の2人の友情を思い出してもらうってやつよ。
 え? 在りし日って、2人とも生きてるって、柚月め、こういう時にまでいちいちツッコまなくていいから!

 私と柚月、悠梨の3人は、一歩引いたところから、花火に興じつつ、2人の様子を眺めていた。
 結衣と優子は、互いに言葉を忘れて、花火に見入っており、そこには、つい最近までこの2人を支配していたわだかまりのようなものは一切ないように見えた。

 これで、なんとかなるんじゃね? 正直、私たちの長年の友達の勘ってやつだよ。まぁ、もしダメでも、やるだけの事はやったんだしさ、もう仕方ないじゃん。
 それにさ、折角の花火だし、言い出しっぺは私なのにさ、私が気遣いして楽しめないなんて、ありえないっしょ、という事で、もう、あの2人の事はここまでにして、私らも楽しむよ。

 いやぁ~、ホントに感動するねぇ。
 ウチらの街って、山の中だからさ、花火大会とかって無いんだよね。どこかに旅行に行った時くらいしか、こういう打ち上げ花火自体見た事って無いからさ、こんな大きい花火が、しかも間近で見られるなんて、私はマジで初めてなんだ。
 え? 悠梨はあるんだ? 昔、土浦の花火大会見に行った事があるんだって? へぇ~、って、土浦って、関東なのは分かるんだけど、何処?
 茨城県だって? しかも、花火師向けの博覧会的な大会だから、規模が違うんだって? へぇ~。

◇◆◇◆◇

 あぁ~、感動したねぇ。
 この、近くで見られた、ってのもさることながら、水辺に反射する花火がまた印象的でさ、1発の花火で、2度楽しめたよね。私としては、一生忘れられない光景かもなぁ……。
 なんだと柚月! もう死ぬつもりなのか、だって?
 アンタには、モノの例えってのが分からない訳ぇ?
 こいつムカついたぞ、こうなったら、えいっ! このっ! 参ったか!

 「参りました~、ゴメンなさい~!」
 
 さて、じゃぁ、もう1回お風呂に入りに行って、恒例のゲームコーナーで楽しもうかぁ?
 なに? 柚月は卓球がしたいって? だったら、お風呂入る前にしようよ、汗だらけになっちゃうし、それだと風情が無いって、いっても、柚月が本気でやると、みんな汗だくになって、浴衣がビショビショになるでしょ! 普通の人の卓球だったら問題ないんだけど、柚月は異常者だから問題なの!
 なんだと? やるのか柚月? こっちはいつでも本気の臨戦態勢だぞ?

 なんだい、結衣? 急に私と柚月の勝負に割り込んでくるなんて、もしかして、コイツが可哀想だと思うなら、それは大いなる勘違いだからね。
 コイツはね、世界のどの独裁者よりも罪深い、とんでもない思想の持主なんだからね。今のうちに粛清しとく必要があるんだよ。

 「あのさ、みんなに話しておきたいことがあるんだよね」

 どしたの結衣? 何言っちゃってるの? 改まってさ。
 お風呂あがってからで良いでしょ? え? ダメなの?
 おもむろに廃墟探索人……じゃなかった、結衣は、私たちの前に座ると

 「私ね、この間、車を事故で廃車にしちゃったんだ」

 と言った。

 「ええーーーーーーっ!」

 と言って驚いた私たち3人とは対照的に、優子は何故か落ち着き払って聞いていた。

 「それで?」

 優子は、それを訊いても驚くことなく、冷静に結衣の言葉を促した。
 今までの優子なら『それ見た事か』って、柚月のLINEの件とかをあげつらって、結衣を追い込んでくるはずなのに、それをしてこないね。

 結衣は、その優子の様子にクスリと笑みを浮かべると、続けた。

 「車は、解体屋さんに残して貰ってるんだ。私自身が、まだあの車に乗りたかったって事もあるし、今までいろいろやって来て、愛着もあるしね。それでさ、昨日、解体屋のおじさんから連絡があったんだ。ボディのドナーが見つかったって……」
 「ええーーーーーーっ!」

 今度は優子も含めてみんなが驚いた。
 どうやら、優子の中でも、ここまでは予想していなかったみたいだ。
 しかし、結衣は、そこに目もくれずに一気に続けた。

 「ただ、車は4ドアのオートマなんだよ。だから、勝手だとは思うけど、みんなにお願いがあるんだ」

 と言うと、その場に土下座をして

 「私の車の移植作業を手伝って欲しいんだ。お願いだよ!」

 と言った。
 普段の結衣からは想像のつかない殊勝な態度に、私たちは全員が驚いてしまって、その場に固まってしまった。
 そうか、解体屋さんのコネクションで、ボディの代わりは見つかったんだけど、それは4ドアのオートマだったのか、でもって、このご時世に4ドアのオートマでもR32が手に入る事が凄いことだよね。

 私たちが、あまりの意外な話に驚いていると、突然

 「みんな、やってあげない?」

 という言葉がして、そちらを見ると、真っ直ぐな目で、そう言い放つ優子の姿があって、私たちはまた驚いた。

 「こんなこと言っておきながら、私が一番戦力にならないのは知ってるけどさ、できる限りの事は、頑張るからさ、お願いだよ」

 この瞬間、私には分かった。結衣と優子は和解したんだと。
 そして、この旅行は成功したんだとも悟った。
 まぁ、この旅行の主目的は、高校最後の夏に、今までできなかったことをしてみよう、というもので、決してこの件は、最初からの案件ではなかったんだけど、夏前からのギスギスした感じも解決できて、ようやく私らの中にあった膿のようなものを追い出すことができたんだよ。

 2人共、お互いに素直じゃないからさ、それが大きな原因なんだけど、結衣も素直に話すことが出来たし、優子も素直に手伝いたいって意思を出すことが出来たし、これで、めでたしめでたし、だね。

 「ねぇ、良いでしょ?」

 優子が私の手を握って、顔を下から覗き込みながら言ったので、思わず頷いた。

 「でも、優子が役に立たなかったり、サボったりしたら、柚月同様、パンツ脱いでもらうからね」

 と、思わず口走ると、それを訊いていた柚月が

 「マイ~、それは良いなぁ~。優子~、覚悟しぃやぁ~!」

 と言って、優子を羽交い絞めにすると、悠梨が素早く優子の足を押さえて、パンツを抜き取ろうとしていた。

 「や~め~て~、放して~ユズ~!」

 と、珍しい取り合わせのメンバーで騒いでいる3人を見守っていた。
 そして

 「バカやってないで、お風呂行くよ!」

 と、柚月の頭を叩きながら言うと、みんなで浴衣を持って、大浴場へと向かった。


──────────────────────────────────────
 ■あとがき■
 お読み頂きありがとうございます。

 多数の評価、ブックマーク頂き、大変感謝です。
 この暑さの中でも、創作の励みになります。

 次回は
 温泉旅行も終わり、遂に2学期が始まります。
 しかし、その前に、5人はある場所に集合します。

 お楽しみに。
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