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冬は総括

シートとカルト

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 あぁ、また優子がぶち上げちゃったよ。
 なんで優子は、そうやって結衣に対して対抗意識を燃やすんだろうね。
 せっかくまとまりかかった話を、土足で踏み荒らさないで欲しいよね。

 優子が、自分の車のドアを開けてみんなを誘ったんだけど、別に形はタイプMのとかと同じタイプの普通のシートだし、別に革張りでもないよ。
 これのどこがレアなのさ。

 「コレが分からないの?」

 いや、分からないよ。
 誰か、分かる人いる~? ホラ、誰も手挙げないじゃん!
 良い? 優子の知識量が多いのは認めるけど、それをみんなが知ってると思う前提が間違ってるからね。
 優子の知識量は、確かに凄いんだけど、その凄いはグレイトもあるけど、クレイジーも多分に含まれてるんだからね。

 優子がヘコんじゃったよ。
 まぁ、こうやって定期的に言ってあげないとさ、すぐに優子は調子に乗るからね。
 それで、ところでこのシートはどうレアな訳?

 「コレは、特別仕様車にのみ許された。エクセーヌなんだよ」

 えくせーぬって、何?
 え? 人工皮革の一種で、アルカンターラって名前が一般的だって?
 あぁ、アルカンターラは知ってるよ。ファッションの世界にもよく出てくるよね。
 元々はエクセーヌってブランド名で展開されてたんだって?

 ちなみにR32~34までのGT-Rのシートもエクセーヌが採用されてるんだって?
 へぇ~、あれがエクセーヌって素材なのか?
 この頃の日産のこのクラスの車は、エクセーヌが大好きで、ローレルもクラブSと、特別仕様のメダリスト・セレクションSに、セフィーロにもエクセーヌ・セレクションという特別仕様車として採用してたんだって?

 言われてみないとよく分からなかったけど、そうすると兄貴の乗ってたローレルのクラブSのあの手触りの良いシートもエクセーヌって事かぁ。
 なるほどね、R32にも限定的に採用されてたんだ。

 確かに、身体が触れる真ん中のあたりの生地が、すべすべした感じで、手触りが良いもんね。
 でも、サイドサポート? ってのかな、脇腹あたりを抑えてる部分の生地も、他のR32系とちょっと違って、布は布でも、すべすべした感じのになってない? 他のってさ、結構ゴワゴワした生地なんだけどさ。へぇ~、ダブルラッセルって言うんだぁ。

 「他には、何か感じない?」

 なに勿体つけてるのさ、結衣みたいにそうやって勿体つけられてると、凄く気分悪いんだけど。
 
 「このシートは、オーテックバージョンと同じ物なんだよ」

 あぁ、オーテックバージョンね。
 この間博物館で見た……え? ミュージアムって言えだって?

 なんでも横文字にすればいいってもんじゃないよ。
 大体日本人は、横文字にすればカッコ良いと思って、日本語で良いようなことまで『コンセンサス』『プロセス』とか一般化させようとするけどさ、どこの世界に、自国の単語を外国語に変更させていってる国があるんだっての。
 そんなに日本語使うのが恥ずかしいなら、西洋に移住でもしてしまえばいいんだよ。

 ホラ、余計なこと言うから脱線しちゃったじゃん。
 オーテックバージョンって、4ドアのGTS-4にGT-RのRB26DETTからタービンを取り去ったRB26DEをチューニングしたっていう、特別なR32だよね。
 それのために作られた本来特別なシートだったんだけど、60周年特別仕様車で特別装備として再び登場したんだって?

 だから、2ドアでこの生地になるシートは、この特別仕様車だけなんだ。
 なるほどね。
 なんかドアの内張りも、ちょっと違う生地……って言うか、このドアの生地って、結衣の車でさっき触ったような気がするなぁ。

 「そう、ドアトリムの生地は、オーテック、60thアニバーサリーと、本革仕様車が同じものなんだ。ちなみにこれもエクセーヌだよ」

 なるほど、なんか、ドアの生地の方がすべすべな気がするのは、シートと違って、いつも触れられてないからってのもあるんだろうね。

 ふぅーん、なるほどね。記念の特別仕様車だから、至れり尽くせりってやつだね。

 確かに言われると、普通のと違うシートだって感じはするよねぇ。
 まぁ、このシート自体は何度も座ってるから、実際の乗った感じとかは分かるんだよね。
 まぁ、通常のタイプM用とかと同じで、言われないと分からないくらいだから、取り立てて座った感じが良いって訳でもないけど、さっきの革シートみたいにツルツル滑って困る……的な悪い訳でもないんだよ。

 なに優子、その感じ悪いこと言うなよ的な顔は。
 シートの評価ってそれが良いんだよ。普通に何の印象も持たれないシートこそが良いシートなんだからさ。
 
 え? そうなのかって? 悠梨、そりゃそうじゃん。
 悠梨さ、お洒落な形してたり、柄とか生地が良いんだけど、座ってるとお尻とか腰が痛くなったり、疲れたりする椅子ってヤじゃない?

 「あぁ、あるね。妙にデザインに凝ったソファとかさ、これ、どこに座れば良いの? 的なのあるよね」

 そういう事なんだって。
 車のシートなんてさ、乗ってる間はずっと座ってなくちゃいけないんだからさ、印象に残るのって、痛かったり、座り辛かった車のが大半だと思うよ。

 「そうそう。お母さんとかは、なんか凄くフカフカなシートを指して『乗り心地が良い』って言うんだけどさ、私的にはなんか違う気がするんだよね」

 悠梨、それ正しいよ。
 フカフカすぎるシートは、身体が沈みすぎちゃって、しかも、フカフカだから、沈み切った状態でもお尻の動きに合わせて周辺のクッションが沈んでいっちゃうから、身体が固定できないんだよ。
 常に車の動きに合わせてお尻が動いていっちゃう感じで、落ち着かないし、足腰にも負担がかかるからね。

 疲れないシートってのは、適度に硬くて、適度に弾力があるもの、そして、腰やお尻を固定させるものなんだよね。

 「確かに、軽トラックのシートとかだと、固定できないもんね」

 結衣、その通りだ。
 軽トラのシートは、短距離移動に割り切ってるから、耐久性と乗り降りのしやすさを重視してるんだよね。

 「話変わるんだけどさ、R32のシートって、どれくらい種類あるんだろうね」

 結衣ったら、また波乱な展開をぶち上げちゃったね。
 優子先生がきっと目を輝かせてるんじゃないかな?
 でもって、まずはみんなで考えてみよう。

 前期型と後期型で、きっとシート地とかの見直ししてるだろうし、前に見て思ったのは、2ドアと4ドアでも生地が一部違うよね。
 それとさ、部にある教習車やGTEも、似てるようで微妙に生地の感じが違うよね。

 私思うに、2ドア用と、4ドアの上級と通常版くらいあるんじゃね? 
 あ、柚月がスマホで調べてくれたみたいだ。
 初期型のカタログによると、やっぱり、GXi、GTE用と、GTS以上用で生地が違ってて、2ドアは専用で1種だね。

 4ドアの上級用はヘリンボーン生地って、それって、紳士用の高いジャケットとかの生地だよね。

 悠梨が探してきた後期のカタログ画像によると、後期も布は3種類っぽいね。
 GXi タイプX、GTEタイプX用、ツインカムのタイプX用、それとGTS-tタイプM、GTSタイプS、GTSタイプJ用の3種に加えたオプションの本革で、計4種だね。

 それにオーテックバージョン用と、60周年記念の特別仕様も加えると、GT-R用も入れて10種類かぁ。

 「ちょっと待って!」

 しまった、優子のカルト知識大解放だぞ。

 なに? 1990年にスカイライン300万台記念の特別仕様、GTSアーバンロードってのがあって、それが専用のモケット地とドアトリム。
 1992年に、オール日産4000万台記念特別限定車GTS25 SVと、GTE SVも専用の高級モケット地。
 同じく半年後の1992年に、スカイライン生誕35周年記念特別仕様車GTEタイプX・Vにも、スカイラインマークの刺しゅう入りの高級モケットシート。
 1993年に、日産60周年記念車第2弾として登場したGTE Vセレクション60thアニバーサリーにも、高級モケットだってぇ……。

 う~ん……。
 正直、特別仕様車や限定車の類《たぐい》が多くて、把握しきれないよね。
 ぶっちゃけ、1992年~93年にかけて登場した3種類って、シートの生地は一緒なんじゃね? って思うんだけど。
 そうかぁ、X・Vには刺繡が入ってるのかぁ……じゃぁ、1種でカウントしないとなぁ……ってさ、いつの間にか、優子の術中にハマってね?

 ダメだダメだ! このまま突き詰めていったら、今日はここで夜を明かすことになるぞぉ! もう、私らの中では、14種類ってことにするよ!
 疑問があるなら各自で調べて、自分の胸の中にしまっておいてね。
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