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冬は総括
ショックとジョーク
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「恐ろしい魔の手って?」
燈梨、良い反応だね。
車にとって、走るのと同じくらい重要な要素って何だと思う?
「止まる事……かな?」
その通り。
走り出せても止まれなかったら危険だからね。
「うん、なんとなく言ってる意味は分かるよ。北海道の冬場も歩いてて凍ったところで滑って止まれなかった事とか、あったしね」
そう、それが車でも起こり得る事なんだよ。
燈梨、コースの端から真っ直ぐ向こう端を目指して、40キロまで加速して止まってみせて。その際には、最初にどの地点で止まるかをしっかり予告してからね。
「よしっ! じゃぁ、あそこの柚月ちゃんが立ってる所で止まる」
さすが燈梨だねぇ、柚月を目がけて行って、ギリギリで見事止めて『私、失敗しないんで』とか、言うつもりなんだね。
でも、私的には失敗して柚月を轢いちゃうってのもアリだと思うなぁ。
「違うよぉ、柚月ちゃんに向かって行くんじゃなくて、立ってるライン上に止まるって事」
そういう事ね、分かったよ。距離的にはイイ感じだね、長すぎず、短すぎずで。
出発してGTEはぐんぐん加速していった。
さすが新しめのスタッドレスは、地面をしっかり掴むよね。すぐに40キロに到達したよ。
「いくよっ!」
燈梨が、ブレーキをグッと踏み込んだ……が、次の瞬間、GTEは路面を滑走していった。
「ああああっ!!」
今だ! 燈梨、ハンドル切ってみて。
「こう?」
燈梨は左に30度くらい切り込んだ。
まだまだ、Uターンするつもりで切り込んでみて。
「うんっ!」
燈梨は、切れるだけハンドルを切ってみたが、GTEはそのまま真っ直ぐ滑走して、柚月の立っている遥か先でようやく止まった。
燈梨は、ハンドルに両手でしがみついて、ハァハァと肩で息をしていた。止まれると思って自信があったって証拠だね。
燈梨ぃ、残念。これで柚月はお亡くなりになりました。
まぁ、しょうがないなぁ、柚月はすぐにパンツ脱ぐ上に、マゾヒストの変態だったけど、惜しい人を亡くしてしまったよ。
「止まれない……止まれないよぉ」
あぁ、燈梨はショックだったんだね。
せっかくジョークで場の空気を和ませようとしたんだけど、まったく効果がないみたいだね。
仕方ない、そしたらサクッと真面目に説明しちゃおう。
燈梨の今の止め方は、0点だね。
せっかく走らせる方は、マスターしたのに、止め方がこれじゃぁ、この間の涼香の二の舞になるよ。
「それじゃぁ、どうしたら良いの?」
じゃぁ、まずはABSの原理について理解してるかな?
燈梨は首を横に振ったよ。
そしたら、1回、私と運転を交代しようかぁ。
助手席から降りた私は、柚月と目が合った。
おい、そこの死人。
「誰が、死人だよぉ~!」
いいから、アンタが止まる場所の目印になってるんだから、そこから微動だにしちゃダメだからね。くしゃみもダメだから。
「場所の目印だったら~、くしゃみは良いだろ~!」
ダメに決まってるっしょ! もし、してたらお仕置きだからね。
次の瞬間、柚月の周りに悠梨とあやかんが来て、羽やティッシュを使って、柚月の鼻の周りをバタバタし始めた。
「やめろ~!」
さぁ、バカは放っておいて、行くよ~。
さっきのスタート点まで戻ると、私は燈梨に説明した。
ABSってね、4輪それぞれにセンサーがついていて、スリップを測ってるの。それで、スリップを感知したら、ブレーキを凄く細かい制御でポンピングしてるんだよ。
なんでそんな事してるかって言うと、凍ってる所で足を踏ん張ってみると、どうなるか分かる?
「ズルズルと滑っていっちゃう……かな」
そうなんだよ。車も同じで、ブレーキで踏ん張っちゃうと、滑っていっちゃうんだよ。
とは言っても、止めなくちゃいけないでしょ? だから、滑り出す寸前のところまでブレーキをかけて、放す、そしてまたブレーキをかける。
これを繰り返していくの。そうする事で、結果的に強くブレーキを踏むよりも遥かに短い距離で止めることが出来るってわけ。見ててね。
私は、燈梨と同じように走らせて60キロまで加速し、そこからブレーキを小刻みに踏んでは放すを繰り返していった。
傍から見てると、右足だけ貧乏ゆすりしてるみたいな動きに見えただろうね。でも、これこそがブレーキングの極意なんだよね。
そして、柚月たちの手前で車は止まった。
燈梨、今の動き分かった?
燈梨は口に手を当てながら黙って頷いていた。
ただただ、足をポンポン動かして、一定レベルで踏んでるように見えるだろうけど、これはね、ブレーキに伝わる感触で、車が滑り出す寸前のところで踏み放しをしてるんだよ。
私は、もう1度元の場所に戻って出発すると、同じようにブレーキをポンピングしながら、燈梨にやらせたように、ハンドルを左に切り込んだ。
すると、車は左に向かって進路を変えながら、ゆっくりと止まった。
「うそ?」
これが、凍結路のブレーキの極意なんだよ。
きちんとロックさせずに制動させてあげれば、燈梨より速い速度からでもハンドル操作もしっかりできるし、危険回避能力が上がるってわけ。
これで原理は理解できたでしょ?
「うん」
それじゃぁ、今度は燈梨がやってみよー。
早速、燈梨も止まる練習を始めてみたんだ。
最初の頃こそ、ぎこちない感じでポンピングしていて、目標点で止まれなかったり、強く踏みすぎてスピンしかかったりしてたけど、どこまでブレーキを踏めば良いのかを把握できたら、そこからの上達は早かったよ。
これで合格だね。
でも、これでなんでABSがあるのかが分かったでしょ?
「うん、このコツを掴むまでに練習しないといけないし、緊急時に対応できるとは限らないからだよね」
そういう事。
だから今の車には、ほとんど標準で装備されてるんだ。
「私たちの車の場合は?」
あぁ、あの頃の車の場合は、オプション扱いで物凄く高かったし、日本人の安全意識は今でもそうだけど低かったからさ、滅多につけてる人はいなかったよ。
「そうなんだ……」
でも、このブレーキの踏み方のコツを覚えちゃえば、この頃のABSの制御くらいなら、充分に上回ることも出来ちゃうからさ、全然問題ないよ。
これを覚え込ませておけば、もし、今の車に乗っててABSが故障しちゃったとしても、充分に対応できちゃうからね。
「うん、そうだね!」
おおっ! なんか燈梨から迷いの色が消えたよ。
そうなんだよ、愛い奴愛い奴、思わず頬をスリスリしちゃうぞ~。
「えへへへへへ……」
それからも、何回か練習を繰り返して、燈梨も完全に凍結路でGTEが乗りこなせるようになったよ。
よし、それじゃぁ、次のステップにいってみよ~!
「うんっ!」
燈梨、良い反応だね。
車にとって、走るのと同じくらい重要な要素って何だと思う?
「止まる事……かな?」
その通り。
走り出せても止まれなかったら危険だからね。
「うん、なんとなく言ってる意味は分かるよ。北海道の冬場も歩いてて凍ったところで滑って止まれなかった事とか、あったしね」
そう、それが車でも起こり得る事なんだよ。
燈梨、コースの端から真っ直ぐ向こう端を目指して、40キロまで加速して止まってみせて。その際には、最初にどの地点で止まるかをしっかり予告してからね。
「よしっ! じゃぁ、あそこの柚月ちゃんが立ってる所で止まる」
さすが燈梨だねぇ、柚月を目がけて行って、ギリギリで見事止めて『私、失敗しないんで』とか、言うつもりなんだね。
でも、私的には失敗して柚月を轢いちゃうってのもアリだと思うなぁ。
「違うよぉ、柚月ちゃんに向かって行くんじゃなくて、立ってるライン上に止まるって事」
そういう事ね、分かったよ。距離的にはイイ感じだね、長すぎず、短すぎずで。
出発してGTEはぐんぐん加速していった。
さすが新しめのスタッドレスは、地面をしっかり掴むよね。すぐに40キロに到達したよ。
「いくよっ!」
燈梨が、ブレーキをグッと踏み込んだ……が、次の瞬間、GTEは路面を滑走していった。
「ああああっ!!」
今だ! 燈梨、ハンドル切ってみて。
「こう?」
燈梨は左に30度くらい切り込んだ。
まだまだ、Uターンするつもりで切り込んでみて。
「うんっ!」
燈梨は、切れるだけハンドルを切ってみたが、GTEはそのまま真っ直ぐ滑走して、柚月の立っている遥か先でようやく止まった。
燈梨は、ハンドルに両手でしがみついて、ハァハァと肩で息をしていた。止まれると思って自信があったって証拠だね。
燈梨ぃ、残念。これで柚月はお亡くなりになりました。
まぁ、しょうがないなぁ、柚月はすぐにパンツ脱ぐ上に、マゾヒストの変態だったけど、惜しい人を亡くしてしまったよ。
「止まれない……止まれないよぉ」
あぁ、燈梨はショックだったんだね。
せっかくジョークで場の空気を和ませようとしたんだけど、まったく効果がないみたいだね。
仕方ない、そしたらサクッと真面目に説明しちゃおう。
燈梨の今の止め方は、0点だね。
せっかく走らせる方は、マスターしたのに、止め方がこれじゃぁ、この間の涼香の二の舞になるよ。
「それじゃぁ、どうしたら良いの?」
じゃぁ、まずはABSの原理について理解してるかな?
燈梨は首を横に振ったよ。
そしたら、1回、私と運転を交代しようかぁ。
助手席から降りた私は、柚月と目が合った。
おい、そこの死人。
「誰が、死人だよぉ~!」
いいから、アンタが止まる場所の目印になってるんだから、そこから微動だにしちゃダメだからね。くしゃみもダメだから。
「場所の目印だったら~、くしゃみは良いだろ~!」
ダメに決まってるっしょ! もし、してたらお仕置きだからね。
次の瞬間、柚月の周りに悠梨とあやかんが来て、羽やティッシュを使って、柚月の鼻の周りをバタバタし始めた。
「やめろ~!」
さぁ、バカは放っておいて、行くよ~。
さっきのスタート点まで戻ると、私は燈梨に説明した。
ABSってね、4輪それぞれにセンサーがついていて、スリップを測ってるの。それで、スリップを感知したら、ブレーキを凄く細かい制御でポンピングしてるんだよ。
なんでそんな事してるかって言うと、凍ってる所で足を踏ん張ってみると、どうなるか分かる?
「ズルズルと滑っていっちゃう……かな」
そうなんだよ。車も同じで、ブレーキで踏ん張っちゃうと、滑っていっちゃうんだよ。
とは言っても、止めなくちゃいけないでしょ? だから、滑り出す寸前のところまでブレーキをかけて、放す、そしてまたブレーキをかける。
これを繰り返していくの。そうする事で、結果的に強くブレーキを踏むよりも遥かに短い距離で止めることが出来るってわけ。見ててね。
私は、燈梨と同じように走らせて60キロまで加速し、そこからブレーキを小刻みに踏んでは放すを繰り返していった。
傍から見てると、右足だけ貧乏ゆすりしてるみたいな動きに見えただろうね。でも、これこそがブレーキングの極意なんだよね。
そして、柚月たちの手前で車は止まった。
燈梨、今の動き分かった?
燈梨は口に手を当てながら黙って頷いていた。
ただただ、足をポンポン動かして、一定レベルで踏んでるように見えるだろうけど、これはね、ブレーキに伝わる感触で、車が滑り出す寸前のところで踏み放しをしてるんだよ。
私は、もう1度元の場所に戻って出発すると、同じようにブレーキをポンピングしながら、燈梨にやらせたように、ハンドルを左に切り込んだ。
すると、車は左に向かって進路を変えながら、ゆっくりと止まった。
「うそ?」
これが、凍結路のブレーキの極意なんだよ。
きちんとロックさせずに制動させてあげれば、燈梨より速い速度からでもハンドル操作もしっかりできるし、危険回避能力が上がるってわけ。
これで原理は理解できたでしょ?
「うん」
それじゃぁ、今度は燈梨がやってみよー。
早速、燈梨も止まる練習を始めてみたんだ。
最初の頃こそ、ぎこちない感じでポンピングしていて、目標点で止まれなかったり、強く踏みすぎてスピンしかかったりしてたけど、どこまでブレーキを踏めば良いのかを把握できたら、そこからの上達は早かったよ。
これで合格だね。
でも、これでなんでABSがあるのかが分かったでしょ?
「うん、このコツを掴むまでに練習しないといけないし、緊急時に対応できるとは限らないからだよね」
そういう事。
だから今の車には、ほとんど標準で装備されてるんだ。
「私たちの車の場合は?」
あぁ、あの頃の車の場合は、オプション扱いで物凄く高かったし、日本人の安全意識は今でもそうだけど低かったからさ、滅多につけてる人はいなかったよ。
「そうなんだ……」
でも、このブレーキの踏み方のコツを覚えちゃえば、この頃のABSの制御くらいなら、充分に上回ることも出来ちゃうからさ、全然問題ないよ。
これを覚え込ませておけば、もし、今の車に乗っててABSが故障しちゃったとしても、充分に対応できちゃうからね。
「うん、そうだね!」
おおっ! なんか燈梨から迷いの色が消えたよ。
そうなんだよ、愛い奴愛い奴、思わず頬をスリスリしちゃうぞ~。
「えへへへへへ……」
それからも、何回か練習を繰り返して、燈梨も完全に凍結路でGTEが乗りこなせるようになったよ。
よし、それじゃぁ、次のステップにいってみよ~!
「うんっ!」
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