3 / 50
第03話 お慕いしておりませんわ。王子!
しおりを挟む
昔からよく貧血のような症状が出て、立ち眩みすることは多かった。でも声が聞こえたのは初めて。すこし不安になる。
何かの変化の前触れのようで、心がざわついてしょうがない。
それなのに、キノ・ナスキアは晴天だ。
私の住むキノ・ナスキア連合王国は北部5王国の避難民により建国した若い国で、国政は安定しているとはいえず民族紛争が後を絶たない。
避難民といっても実際は魔王侵攻の生き残りが興した国で、34年前に故国は海に沈んでいる。
この高台に追いやられたのも水位の上昇があったからだ。
幸いなことに魔王を異界に押し返すことができたものの、その代償に国と土地を失ったのである。
南部諸国や東部はさらに悲惨な状況で、生存者のいない魔素溢れる不毛の荒野になっていた。
この地は戦場にならなかったため、美しい景観が残っているのだ。
私の家は元弱小王国エレーンプロックスで、魔王侵攻がなければ私は王女としてチヤホヤされていた筈なのだが、落ちぶれた今では実感などまるでない。
没落の理由は言及しないけれど父が列強3王国に頭が上がらず、公爵でなく侯爵になったのは自然な流れなのかもしれない。
まあ、今の私にはいっさい関係ないことである。
「そういえば、熊伯って魔王の右腕を切り落としたのよね。魔王軍が撤退する原因になったはず」
思わず独り言を言ってしまった。
でも大丈夫、私のことなど誰も気にしていないから。
とはいえ、熊伯という名は間抜けっぽいけれど、オスカー君の父上は偉大な人物なのだ。
きっと、毛深いのかもしれない。
だって熊だもの!
英雄伝の野獣のような挿絵が脳裏に浮かんだ。
思い出し笑いしていると後ろからいきなり腕をつかまれる。
壁から引きずられて見晴らし台のような場所に連れ出された。
「探すの苦労したんだぞ! この疫病神」
「殿下、いったい何の御用でしょうか。少し痛いです」
「うるさい! 黙ってろ。地味なのにしゃべらせると煩くてしょうがない」
「いたい……」
私の婚約者のリチャード第三王子だ。
婚約者らしいことは何もしてもらったことはないし、形式上の婚約者で愛情などこれっぽっちもない。
この男、がさつで短慮ときたものだから大嫌いなのよね。
婚約解消してくれないかしら。
そんなことを思ったからか、願望が思わず口からこぼれ出てしまう。
「殿下、そんなにお嫌なら婚約解消いたしましょう。適当な冤罪でっち上げてくださいませ」
「えっ……いいのか?」
「いいも悪いもないですわ。政略的に決まったとはいえ殿下が無理されることはございません」
「俺様のこと好きではなかったのか!?」
「政略にございます。愛だの恋だの好意とかは、一切ございませんので心置きなく」
「ぐぬぬ……話が違うぞ!!! おい、メアリー。どうなってる?」
伯爵令嬢のメアリー様が殿下の背後からひょっこり顔を出す。
守護霊か何かなのかしら。ぴったりくっついてるし、中身のない見目だけの人。
「あらあら、メアリー様じゃございませんこと」
挨拶もどきで先制したものの先が思いやられる。
しかしまた、厄介なのが現れたよ。
殿下にしては強硬な対応と驚いたけど、お粗末な話の流れから想像するに、この女の筋書きなのね。
「カーラ様、そんなにみっともなく泣き叫ばなくてもよろしくてよ!」
「どう見たら泣いて見えるの? 節穴なの。ああ、おつむと視力が弱そうですね。そうですよね?」
「まあ、なんて往生際が悪いこと。カーラ様、諦めて殿下を解放してくださいませ」
「うんうん。受け賜わるわ。と言いたいけど、殿下から切り出してもらわないと無理よ?」
「まあ、みっともない恥を知りなさい!!」
「???」
この女、話が通じないから嫌なのよ。会話がかみ合わないというか、会話さえ成り立ってない。
決めた! メアリーは無視よ。
「不思議ちゃんは放置で、殿下! お二人の事情は承知していますから、婚約の解消お願いします!」
「いいのか、えっと……俺たちの……真実の愛のため婚約を解消してくれ」
「承知いたしました。後で陛下に経緯を説明していただき、正式文書を我が家までお言付ください」
「ふむ、物分かりがよすぎる……俺の覚悟は無駄だったのか。まあいい、あとでお前の家に届ける!」
なぜかメアリーが顔を真っ赤にして震えている。嫌な予感がする。
頭に藁か火薬でも詰まってるのかしら?
「ちょっと! シナリオに沿って動いてくれないと困るのよ!!」
「へっ!?」
いきなりメアリーが私の髪につかみかかり、獣のような下品なしぐさで飛びかかってきた。
「あっ!!!」
すごい勢いで花壇のレンガが迫ってくる。
避けることはできない。
火花が散って、激痛とともに意識が飛んだ。
何かの変化の前触れのようで、心がざわついてしょうがない。
それなのに、キノ・ナスキアは晴天だ。
私の住むキノ・ナスキア連合王国は北部5王国の避難民により建国した若い国で、国政は安定しているとはいえず民族紛争が後を絶たない。
避難民といっても実際は魔王侵攻の生き残りが興した国で、34年前に故国は海に沈んでいる。
この高台に追いやられたのも水位の上昇があったからだ。
幸いなことに魔王を異界に押し返すことができたものの、その代償に国と土地を失ったのである。
南部諸国や東部はさらに悲惨な状況で、生存者のいない魔素溢れる不毛の荒野になっていた。
この地は戦場にならなかったため、美しい景観が残っているのだ。
私の家は元弱小王国エレーンプロックスで、魔王侵攻がなければ私は王女としてチヤホヤされていた筈なのだが、落ちぶれた今では実感などまるでない。
没落の理由は言及しないけれど父が列強3王国に頭が上がらず、公爵でなく侯爵になったのは自然な流れなのかもしれない。
まあ、今の私にはいっさい関係ないことである。
「そういえば、熊伯って魔王の右腕を切り落としたのよね。魔王軍が撤退する原因になったはず」
思わず独り言を言ってしまった。
でも大丈夫、私のことなど誰も気にしていないから。
とはいえ、熊伯という名は間抜けっぽいけれど、オスカー君の父上は偉大な人物なのだ。
きっと、毛深いのかもしれない。
だって熊だもの!
英雄伝の野獣のような挿絵が脳裏に浮かんだ。
思い出し笑いしていると後ろからいきなり腕をつかまれる。
壁から引きずられて見晴らし台のような場所に連れ出された。
「探すの苦労したんだぞ! この疫病神」
「殿下、いったい何の御用でしょうか。少し痛いです」
「うるさい! 黙ってろ。地味なのにしゃべらせると煩くてしょうがない」
「いたい……」
私の婚約者のリチャード第三王子だ。
婚約者らしいことは何もしてもらったことはないし、形式上の婚約者で愛情などこれっぽっちもない。
この男、がさつで短慮ときたものだから大嫌いなのよね。
婚約解消してくれないかしら。
そんなことを思ったからか、願望が思わず口からこぼれ出てしまう。
「殿下、そんなにお嫌なら婚約解消いたしましょう。適当な冤罪でっち上げてくださいませ」
「えっ……いいのか?」
「いいも悪いもないですわ。政略的に決まったとはいえ殿下が無理されることはございません」
「俺様のこと好きではなかったのか!?」
「政略にございます。愛だの恋だの好意とかは、一切ございませんので心置きなく」
「ぐぬぬ……話が違うぞ!!! おい、メアリー。どうなってる?」
伯爵令嬢のメアリー様が殿下の背後からひょっこり顔を出す。
守護霊か何かなのかしら。ぴったりくっついてるし、中身のない見目だけの人。
「あらあら、メアリー様じゃございませんこと」
挨拶もどきで先制したものの先が思いやられる。
しかしまた、厄介なのが現れたよ。
殿下にしては強硬な対応と驚いたけど、お粗末な話の流れから想像するに、この女の筋書きなのね。
「カーラ様、そんなにみっともなく泣き叫ばなくてもよろしくてよ!」
「どう見たら泣いて見えるの? 節穴なの。ああ、おつむと視力が弱そうですね。そうですよね?」
「まあ、なんて往生際が悪いこと。カーラ様、諦めて殿下を解放してくださいませ」
「うんうん。受け賜わるわ。と言いたいけど、殿下から切り出してもらわないと無理よ?」
「まあ、みっともない恥を知りなさい!!」
「???」
この女、話が通じないから嫌なのよ。会話がかみ合わないというか、会話さえ成り立ってない。
決めた! メアリーは無視よ。
「不思議ちゃんは放置で、殿下! お二人の事情は承知していますから、婚約の解消お願いします!」
「いいのか、えっと……俺たちの……真実の愛のため婚約を解消してくれ」
「承知いたしました。後で陛下に経緯を説明していただき、正式文書を我が家までお言付ください」
「ふむ、物分かりがよすぎる……俺の覚悟は無駄だったのか。まあいい、あとでお前の家に届ける!」
なぜかメアリーが顔を真っ赤にして震えている。嫌な予感がする。
頭に藁か火薬でも詰まってるのかしら?
「ちょっと! シナリオに沿って動いてくれないと困るのよ!!」
「へっ!?」
いきなりメアリーが私の髪につかみかかり、獣のような下品なしぐさで飛びかかってきた。
「あっ!!!」
すごい勢いで花壇のレンガが迫ってくる。
避けることはできない。
火花が散って、激痛とともに意識が飛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
ファンタジー
完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる