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第27話 ピエレッテは鼻息荒い

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 熊伯は従者として二人を迎えて、それだけでなく鍛えろとおっしゃる。最弱のカーラが模範になるとは思えない。いくら他人任せの私でも、年下の双子に押し付けるのは義に反する行為よね。

 面の皮の厚い私でも無理。熊伯は察したのか続けてまくしたてる。

「なに、こいつらが死んでも文句は言わんし、本人たちも死する覚悟でいる!」
「あの……、失礼ながら、私が死地に追いやるとでも?」
「いやいや、押し付けるのだから生死は問わんということだ。ガハハハ」

 押し付けるのですか。切羽詰まるほどひどい? 相当この二人にお困りのよう。
 ならば拾わないとね。

「承知いたしました。従者のこと謹んでお受けします」
「うむ、こいつら目障りだから、直ぐに雑用でもさせてくれ」
「はい。こき使いますのでご心配なく」

 熊伯はガサツに笑っていたが、急に真剣な顔をしてぼそっと喋った。

「未熟者故、苦労をお掛けすることになろう。我が息子のことよろしく頼む」

 私は礼をして二人を連れて熊伯の執務室を後にした。変な意味で親バカだった。

 まかせる相手を選べよ。熊伯!


 あてがわれた控室に戻り、二人と会話することにした。
 オスカー君は落ち着かなそうで、赤髪の女は私を見て発情している? なぜよ!

「えっと、オスカー様、最弱のカーラを自称する、この私の従者でよろしいのですか?」
「僕はカーラ様の剣になりたいのです!」
「ああ、騎士になってお嫁さん探しだったわね」
「いえ、その、それは……」

 オスカー君はソワソワ、オドオド忙しい。
 赤髪女は何か面白いものを見つけたようにニヤニヤしている。 
 私には意味が分からないのですが。

 赤髪女が笑いながらオスカー君をつつく。

「あんたね、それでも男なの。シャキッとしなさい。まあ、あんたの気持ちわかってるけどね! 当分、ネタは尽きないわね」
「こ、これは、秘密なんだからね。カーラ様には」
「安心しな。相手も鈍そうだし、私も楽しみたいから秘密にしておくよ」

 二人は仲が好さそうだ。それはいいけど、この人何者なのよ?

「あ、カーラ様、こちらの者は僕の従妹でピエレッテです」
「はじめまして、カーラです。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ宜しく頼むよ。ピエレッテだ。あぁ、たまらん。久しぶりに✕✕成分を補充できる」

 なんだか、挨拶が終わるが早いか自分の世界に入ってしまい、私を見つめては何やらぶつぶつ言いだした。鼻息も荒いしどうしよう。ちょっと苦手なタイプかも。

 それにしても、斬新な衣装を着ている。スカーレット色の服と赤髪が強烈だ。

 ノースリーブ、レオタード風に腰はフリル付きのミニ、首周りはレースのハイネック、手袋は肘まで、靴はハイヒール。おまけに髪はミディアム、片目は髪で見えない。

 胸はあまりなく、メリハリのない体系、筋肉質なのでバレリーナのよう。

「ところで、その格好で戦うのですか? 赤い痴女のピエレッテさん」
「防具など飾りだ。魔防が高ければ裸でもいいのだからな! だ、か、ら、私はいつもお気に入りの衣装だ!」

 この人大丈夫なのだろうか。今から心配だ。


 まあ、私が腐った魂を浄化してあげようじゃないか!



 私は早速クエスト消化のため新メンバーも引き連れて魔獣の森を目指した。とりあえず、妖精の涙探しを伝えたのだが、首を傾げるばかりでまともに取り合ってくれない。

「カーラ様、妖精の涙は伝承でしか聞いたことがないですね。妖精レリア、朝露の妖精だったかな」
「その妖精は伝承ではどこに出るの。涙は別として妖精は探したいわ」
「オスカーの代わりに私が案内しよう。目的地は魔獣の森、水草の茂る湖ウリス、その湖畔」
「よろしくお願いいたします。ビエレッテさん」

 私たちは荒れた道を牛荷車で無理やり通り、前には騎乗したオスカー君とビエレッテ姐さんが先導してくれている。魔獣の森は密集した森ではなく、なんとなく木々が間延びして生え、下草が結構生えている。

 見通しは良く、木洩れ日は優しく私たちを照らしている。魔物や魔獣に先制される可能性は低そうだ。まあ、用心は怠らないけど。

「これから傾斜がきつくなり、高台に出たら休憩しようかね。カーラ様いいかい?」
「そうね。休憩しましょう」

 ビエレッテはテキパキと火をおこして湯を沸かす。魔法は温存するという。
 私はピクニック気分でお茶を楽しんでいる。
 話すときになぜか急に手を握ってくるビエレッテ、ボディタッチが激しいことを除けば侍女にいいかもしれない。

 いつも鼻息荒いけど。

「カーラ様、あの青い湖が目的地のウリス湖です。その先が霊峰ステファベット」
「まあ、綺麗な眺め!」
「霧で見えないことが多いから運がいい。オスカーとくると大抵見えないからな」

 雨男なのかしら。

「まだ、距離はありますね。どのくらいで着きますか?」
「移動速度が速いから一刻後といったところだな」

 まだ時間がかかりそう。足が疲れたので荷台に腰かけていたら方々が痛い。それはそうと敵対者のことはまだ二人には話していない。湖に付いたら説明したほうがいい。部分的にだけど。

 しかし、身体がギシギシいいだしそう。辛いな。

「ちょっとお尻が痛くなってきたので辛いですね」
「つ、着いたらマッサージをだな。わ、私がだな、してあげようじゃないか」
「遠慮しますわ」

 目に見えて落ち込んだ。
 そんなに大事なことなのマッサージ!

 雑談していると道が開けて草原になり、湖が近くに見えてきた。
 もうすぐ到着ね。
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