白百合のカーラは死にたくない 〜正義感だけは英雄並みの転生令嬢は守護勇者に頼った生存戦略から脱却する〜

楠嶺れい

文字の大きさ
44 / 50

第44話 ドラゲアの魔王

しおりを挟む
 半島の先には天界に届くのではと思うような山が私たちを待ち受けていた。なぜその山に名前を付けなかったのか理解できないが、切り立った崖にはまばらに植物が生えていて山頂は雲で覆われている。

 私たちが進んでいる裾野は迷路のようで広がる森は深い。

 森を抜けた先には魔王と使徒が争っている。


 この先に待つものは守護勇者では倒せないだろうし、ビエレッテは補助にしかならない。ソフィーや水龍は戦力外、私が戦うしかない。一度に魔王と使徒をしとめることが理想的。でも困難な話だ。

 だって、雁首揃えて仲良く待ってくれるとは考えられない。

 私達はドロシーを先頭にして密林と呼ぶにふさわしい場所を進んでいる。時々、クルートとドラゲアの残党というか、迷子のおバカさんたちを蹴散らすことになる。強くないのに名乗りをあげられるのは心底面倒に感じはじめていた。一度にまとめてかかってきてほしい。

 私の希望は現実のものとならず、その後も残党狩りを勤しむことになる。


 いきなり森が途切れた先には海。森を抜けると一面の海だった。深く蒼い海面に白い波、浅瀬を波が洗っていた。その先には小島とサンゴ礁が広がる。

 砂浜に出た私たちは海に面した廃墟に向かう。

 前方には砂嵐が発生して私たちの侵入を許さない。私は直感的に砂塵舞うハリケーンというスキルを使うことにした。単純に威力の強いものが勝つという考えだ。

「貴方たちさがって、スキル確認してみるから」

 全員下がったのを確認して、砂嵐めがけてスキルを発動する。

「砂塵よ! 舞い踊れ、クリスタボルッテクス!!」

 たぶん掛け声はいらない。私の好みなだけ。

 天から渦巻きが降りてきてすべてを薙ぎ払った。やばい、屋敷の近所で実験しなくて正解だった。私のスキルは廃屋も木も関係なく根こそぎ持って行って、残されたのは白い砂浜のみ。

 ヤバすぎるよ。


「ん?」

 嵐の後にこんにちは。
 待ち受ける露払いの魔王配下。

 また名乗ろうとするから、先制攻撃で別のスキルを試してみる。

「紅の百花、咲き誇れ、フラメア・デ・セーダ!!」

 大地から幾百という炎の花が天を目指して沸き上がっていく。火葬の後は遺灰さえ残らない。
 先に進みましょう……。

 発動のしかたから、召喚術に近いスキルであることは間違いない。詠唱もイメージさえ必要なく魔法ではない。突然沸いて来るし、同じスキルなのに敵に合わせて変化する。謎の仕様に私は思考停止する。

 これ魔力消費してないよね。もしかして、命削ってるとか。
 まさかね。



 しばらく砂浜を進んでいると見覚えのあるシルエットの男が立っていた。私はこっそりと岩陰から観察する。魔王なのに風雪蟲カリアドロ・ウインターだったかしら?

「風雪蟲カリアドロウアー・ウインターですね」

 ビエレッテが私の疑問に答えてくれる。なんで一人なの、使徒はどこに? 
 一度にエストフローネで片付けられない。
 スキルを試してみるかな?

「いくわよ! 勇者達!!」

 魔王を目指して走り出す。相手はやっと気がついたようで、呑気に語りかけてくる。

「探したぞ、どこに行っていたのだ」
「えっと、初対面でございますが?」
「なんと! 確かに脂が乗った肉だな。さっきのよりも旨そうだ! であれば死んでもらおう」
「魔王がくる。警戒!」

 守護勇者は私を守るように位置をとった。魔王は技名を叫んだ。

「ウインター・オブ・キノ・ナスキア!」
「この国の冬って何よ」

 冬が来る。
 手が悴んできた。
 雪?
 チラチラと風に交じってくる。
 雪は風に乗って漂い、ときに舞い上がる。

 青白く凍てついてゆく大地。
 そしてキノ・ナスキアは氷に覆われていく。
 私の息は白い。
 これは夢なのかしら。
 雪に覆われ凍てつくキノ・ナスキア。

 守護勇者もビエレッテも雪に倒れ込んで眠ってしまう。

「みんな起きて! か弱い私はすぐ死んでしまうのだから!!」

 と言ってみたものの、私がいる限りキノ・ナスキアは冬に沈まない。

「雪を割り、私のもとへ! 春の息吹オーレア」

 私の叫びは氷を割り、表面に積もった雪が吹き飛んでいった。
 心と身体が温かくなる。足元からは数知れない蕾が雪を割り、辺り一面を黄色い花が覆っていく。
 福寿草のような花は咲き乱れ、まるで早春のお花畑のように広がっていた。
 黄色い蝶も飛び冬はどこにも残らない。

 生きるために邪魔者は消え去ってもらう。
 この世には異物などいらないから。

 魔王めがけて私は距離を詰め、魔王の胸倉に手を当て新スキルを発動した。

 魔王の身体は膨張して裂け目からはプロミネンス、魔王の身体が焼けて小さな太陽が現れる。
 魔王が四散すると太陽も光を弱め、やがて消え去った。
 冬など訪れなかったかのように、空高く太陽が輝いていた。

 魔王はもうどこにもいない。


 スキルに振り回されている。制御できない力は恐ろしい。

 でもいつか使いこなして見せる。
 今はダメでも私は決してあきらめない。だって私は無駄に強がりなんだから。

 本当は怖いのに意味なく強がる……愚か者。自覚はしている。

 あぁ、マイナス思考はダメ!
 雑念は捨て余計なことを考えず前に進むしかない。


 仲間たちは目覚めて私のもとに集まってくる。なぜか私の気持ちがざわつき、警戒しろと騒ぎ出す。名前を忘れた魔王のいた場所に暗い影が残っている。何あれ?

 見つめていると黒い靄が立ち昇り人影が現れた。

「敵がまだいるわ!」

 その人物は実体感がなく影のようである。やがて男は警戒する私を指さして話し始める。

「君の正体がやっとわかったよ。エバートの再来。いや、英雄殿」
「あなたも魔王なの?」
「おっと悪い、私は餓鬼のほむらドラゲアの魔王、海神ペリペス・ボーラ。お初にお目にかかる」
「私はカーラ・エレーンプロックス」

 笑うタイミングでもないのに空気を読まず笑う海神。ちょっとイラっとする嫌いなタイプ。

「あなたは影なの。零体かしら」
「私はカリアドロウアー・ウインターと影を共有していただけ。本体はそこだ」
「えっ!」

 海から青黒いものが浮き上がり姿を現す。鎖でつながる一つ目の岩状の生物、球形の胴体には瓦礫がくっ付いていて、それらがプラズマでつながる醜い生物。

 高い奇声を発すると鎖がちぎれて、陸を目指してくる。小島ぐらいはあるのでは。
 大きい、大きすぎる。

「さて、私は本体に戻るとしよう」

 海神の影はスルスルと本体に向かっていき、一つになった。

「さあ、私と死の舞踏を踊っていただこうか。エレーンプロックス嬢」

 低い声が鼓膜を揺さぶり、平行感覚を失った。



 こんなところで死んでなるものか。
 私は決して負けない!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...