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第16話 それでも生きている
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午後から半休をもらって検査結果を聞きに例の病院を訪れた。今回も待ち時間なしで診察室に通される。中に入り挨拶すると医師は私の顔を見るなり難しそうな顔をした。
「脅すわけではありませんが心して聞いてください。検査結果と病状の特徴からマナ循環不全症と診断します」
「マナ循環不全症?」
「職業柄、マナが生命維持に必要なことはご存じと思います。わかりやすく言うなら、そのマナを取り込めなくなる病気です。現在、治療法は見つかっていません」
「あの、治らないということは?」
「大変申し上げにくいことですが、緩やかに死を迎えることになります」
私は凍りついた。死亡宣告である。何を言われたかわからず椅子から立ち上がり、条件反射で質問が口から洩れる。
「緩和療法とか延命は?」
「魔法薬や魔導具による進行の緩和は、残念ながら病の原因がわからず、有効な打ち手はありません。末期に仮死治療と人工マナ循環を組み合わせて延命は出来ますが、いずれ臓器不全で亡くなります」
「それって、確か相当高価な魔導装置を使うことになるのでは?」
「そうですね、王族でも躊躇する額になります。使用期間が長引けばそれはもう」
まだ実感がわかない。いずれ死ぬと漠然と理解していてもカウントダウンが始まったことを受け入れられない。立ち眩みした私を年配の看護師が後ろから支えてくれる。
震えが止まらない。
「余命は……」
「統計的には余命一年。マナを使えばそれだけ寿命は短くなります。お仕事の継続は無理でしょう」
「魔導具を使っても続けられませんか?」
「専門ではないので参考意見としてお聞きください。一般論になりますが魔導具の起動にマナを使います。生命維持に必要なマナの量よりも消費が多いことは周知の事実です」
「魔法も魔導具も使えない。ただ死を待つだけなのですか」
私は無意識に医師に縋りつく。助けてほしいからではない。私は何のために生まれてきたのかわからなくなったから。
診察が終わって数時間も経過したのに、私は待合室の椅子に腰かけ俯いていたままである。心配して訪れた看護師の顔を見て、初めて帰宅することが頭に浮かぶ。目的は帰宅すること、そう言い聞かせて執念のようにわき目も振らずにただ歩いた。
自宅に到着すると魔導灯もつけずに暗闇の中で膝をつき居間のローテーブルに突っ伏した。私は顔を上げて窓から洩れ込む魔導車の間接光を目で追う。状況を整理しなければ。
すべて納得したわけではないけれど、私は病気であることを受け入れてしまった。
医者は言っていた。余生をどう送るかは患者次第であると。不安であれば有料であるが専門医に死を迎えるカウンセリングを受けられるということだった。正直あまり前向きに考えられない。
病気のことも気がかりで、病の進行とともに病状は悪化の一途をたどり、末期になると全身に強い痛みを伴うとも。聞いた限り、穏やかに死ねそうにない。
気を紛らわすため、無理して夕食を食べたのにすべてを嘔吐してしまう。精神安定薬をもらっておけばよかった。
私は半泣きになって食べては嘔吐を繰り返す。
朝になって目覚めると、いつのまにか寝ていたようで体中が痛い。それは生きている証なので何とも言えない気持ちになる。私は集中力を欠いた状態で室長に連絡して、一方的にもう一日休暇をもらった。
食欲のない私はベッドまで移動して布団に包まった。何もやる気が起きない。
病気のことは家族と彼に報告しないといけない。頭ではわかっているが、まともに説明できる気がしない。今は情緒が不安定なので、もう少し落ち着いてから連絡しよう。
日中は音楽を垂れ流してぼんやり過ごした。食事のことは意識に上らず、何も胃に入れていない。食欲が一切ないから水で口を湿らす程度で済ませてしまう。
私は天上を見つめて涙が頬を伝うのを許した。
「脅すわけではありませんが心して聞いてください。検査結果と病状の特徴からマナ循環不全症と診断します」
「マナ循環不全症?」
「職業柄、マナが生命維持に必要なことはご存じと思います。わかりやすく言うなら、そのマナを取り込めなくなる病気です。現在、治療法は見つかっていません」
「あの、治らないということは?」
「大変申し上げにくいことですが、緩やかに死を迎えることになります」
私は凍りついた。死亡宣告である。何を言われたかわからず椅子から立ち上がり、条件反射で質問が口から洩れる。
「緩和療法とか延命は?」
「魔法薬や魔導具による進行の緩和は、残念ながら病の原因がわからず、有効な打ち手はありません。末期に仮死治療と人工マナ循環を組み合わせて延命は出来ますが、いずれ臓器不全で亡くなります」
「それって、確か相当高価な魔導装置を使うことになるのでは?」
「そうですね、王族でも躊躇する額になります。使用期間が長引けばそれはもう」
まだ実感がわかない。いずれ死ぬと漠然と理解していてもカウントダウンが始まったことを受け入れられない。立ち眩みした私を年配の看護師が後ろから支えてくれる。
震えが止まらない。
「余命は……」
「統計的には余命一年。マナを使えばそれだけ寿命は短くなります。お仕事の継続は無理でしょう」
「魔導具を使っても続けられませんか?」
「専門ではないので参考意見としてお聞きください。一般論になりますが魔導具の起動にマナを使います。生命維持に必要なマナの量よりも消費が多いことは周知の事実です」
「魔法も魔導具も使えない。ただ死を待つだけなのですか」
私は無意識に医師に縋りつく。助けてほしいからではない。私は何のために生まれてきたのかわからなくなったから。
診察が終わって数時間も経過したのに、私は待合室の椅子に腰かけ俯いていたままである。心配して訪れた看護師の顔を見て、初めて帰宅することが頭に浮かぶ。目的は帰宅すること、そう言い聞かせて執念のようにわき目も振らずにただ歩いた。
自宅に到着すると魔導灯もつけずに暗闇の中で膝をつき居間のローテーブルに突っ伏した。私は顔を上げて窓から洩れ込む魔導車の間接光を目で追う。状況を整理しなければ。
すべて納得したわけではないけれど、私は病気であることを受け入れてしまった。
医者は言っていた。余生をどう送るかは患者次第であると。不安であれば有料であるが専門医に死を迎えるカウンセリングを受けられるということだった。正直あまり前向きに考えられない。
病気のことも気がかりで、病の進行とともに病状は悪化の一途をたどり、末期になると全身に強い痛みを伴うとも。聞いた限り、穏やかに死ねそうにない。
気を紛らわすため、無理して夕食を食べたのにすべてを嘔吐してしまう。精神安定薬をもらっておけばよかった。
私は半泣きになって食べては嘔吐を繰り返す。
朝になって目覚めると、いつのまにか寝ていたようで体中が痛い。それは生きている証なので何とも言えない気持ちになる。私は集中力を欠いた状態で室長に連絡して、一方的にもう一日休暇をもらった。
食欲のない私はベッドまで移動して布団に包まった。何もやる気が起きない。
病気のことは家族と彼に報告しないといけない。頭ではわかっているが、まともに説明できる気がしない。今は情緒が不安定なので、もう少し落ち着いてから連絡しよう。
日中は音楽を垂れ流してぼんやり過ごした。食事のことは意識に上らず、何も胃に入れていない。食欲が一切ないから水で口を湿らす程度で済ませてしまう。
私は天上を見つめて涙が頬を伝うのを許した。
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