ソウルブライター魂を輝かせる者 〜夢現術師は魔導革命後の世界で今日も想い人の目覚めを待つ〜

楠嶺れい

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第17話 夢現術の本質

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 夕方になって室長がお見舞いに来てくれる。朝の魔導通信は音声だけだったのに何か感じるものがあったようで夕食まで買ってきてくれた。

「朝の通話、会話が成立しないから立ち寄ったのよ。連絡しても出ないし、心配したんだから」
「心配おかけして申し訳ありません」
「それにしても、ろくに寝てないようだし、何も食べてないよね?」
 室長は私の目を覗き込む。尋問と同じで落ち着かないし、嘘をついてもばれそうだ。私は覚悟して病気のこと、寝落ちしたことなどをすべて打ち明けた。

 室長はまるで声を失ったように黙り込んでしまう。

「話したことで少し気持ちの整理ができました。医師が言うには仕事は続けられないだろうと」
「昔からある病気だね。なんとなく諦めの境地にあるようだけど他の医者を受診してみない?」
「そうですね、気持ちの整理ができたら当たってみます」

 室長はマナと循環不全症に詳しかった。昔からよく知られる諺がある、すべての行いの先にはマナがあると。

 世界中に満ち溢れるマナはあらゆる生物にとって生命の源である。マナは体内に取り入れて生命活動に使われ、排出されたマナはやがて大気に戻ることになる。それは閉じた環であった。

 この世はマナの循環により生命を育んでいると考えられていて、生命維持だけでなくマナを用いて魔法を生み出すこともできる。当然魔法に使用したマナもリサイクルされる。魔導装置等も同じ原理で機能して、異なるのはバッファー効果と収集効率が違うだけだ。

 マナ循環不全症、この病気は徐々にマナの取入れができなくなる病である。
症例は少ないけれど、昔から不治の病として恐れられていた。

「我が家の先祖に何人かマナ循環不全になった者が居るの。少し調べてみるね」
「室長は確か、生まれは公爵家でしたよね」
「こうして働かないといけないくらい落ちぶれているけどね」

 室長の実家は多くの魔術士を輩出した名門で王家に近い血筋でもある。そんな血統から疑われやすいのだが、室長が今のポストに就いたのは縁故雇用ではなく実力で昇進したのは間違いない。魔導師団でも相当のやり手であり政治的手腕は貴族らしいともいえる。

「ところで、仕事は続けるの?」
「医師は否定的な見解ですが、個人的には続けたい。でも、迷惑をおかけしそうで躊躇ためらいもあります」
「そう、当面は休職扱いで考えてみたらどうかしら」
「今は何もする気力がないので、少し考える時間をください」
「当面は休暇扱いということね? 納得できたときに結論を聞かせてくださいね」
「はい。よろしくお願いします」

 室長は夕食の準備をしてくれ、食事を一緒にとってくれたのは孤独感を紛らわせるためでもあったのだろう。面倒見の良い人である。

「そろそろ帰るわね。もし食事が厳しいなら医者に相談してね」
「お見通しですか。すぐ嘔吐してしまいます」
「私も経験があるからね……。でも、そのうち楽になると思う」
「いずれにしても医者に行くことにします」
「そうね。それじゃあまたね」

 私は室長を見送ってトイレに駆け込む。緊張感が途切れるとやっぱり嘔吐してしまう。
 明日にでも医者に行こう。



 私は布団に入って考える。仕事に誇りを感じているし遣り甲斐もある。でも、依頼者の望みに叶えられているかといえば、お世辞にも役に立てているとは言えない。私のエゴで都合の良いと思われる虚像を見せてるだけ。それは罪ではないだろうか。

 人生最後のひと時を嘘で染め上げる。それに留まらず、燃え盛る魂を偽りで燃やしきってしまう。

 許される行為ではない。

 精神的に弱っていると、いつになくネガティブな思考に傾く。いつもなら、依頼だからと逃避するところなのに、今の精神状態ではそれさえも難しい。

 私の今までの行いは許されるのだろうか。

「もしかして、これは罰?」

 私は闇落ち寸前のところで魔導通信の着信で現実に戻される。室長からだった。私は止せばいいのに夢現術は罪ではないかと語っていた。普段ならそんなことしないのに。

 室長から送られてきたのは長文のメッセージ。

 それは室長が担当した亡くなった先代の王女にまつわる話だった。

 生まれたことが母の死ぬ原因になったことを知った王女は周囲に咎められ自閉症になってしまう。王女は家族からなき者として扱われていた。祖父である先王が事態に気付いたときはもう既に遅かった。彼女のために夢を見させることを遺言として書いて息を引き取る。

 後を追うように王女の体調が悪化した。

 室長の初仕事でもあり、王女の夢は歪だったという。
 それでも王女は、会ったことさえない母に愛されることを願っていた。
 理想の母親像を拝借して、無からすべてを紡ぎだす。完全創作のおとぎ話を夢として注入する。溺れる者に見せるそれは、詐欺とか宗教と何ら変わらない。

 でも、嘘で塗り固めても人生が無駄でなかったことを感じてほしい。
 それが室長を突き動かす原動力でもあると。

 笑うことのなかった王女が微笑みを浮かべて亡くなったことを後日知らさることになる。

 魂の輝き、輝かせるもの、夢は記憶の中に生き続ける。そのことこそが夢現術の本質であり、と呼ばれる所以である。

 最後に室長から無理をすることはない。
 辞めてもいいと締め括られていた。

 私は感謝の気持ちをちゃんと伝えたいのに有難うとしか返せなかった。私だけが悩んでいることではないことに今更ながら気がついてしまう。


 皆、同じように悩み、同じ罪を抱えて生きているのだ。
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