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第1章 青年と少年
青年と少年 7
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「おや、おはよう。昨日はよく眠れたかい」
「ええ!それはもうとても!」
良かった良かったと微笑んでいるのは、ホテルのロビー係の人だった。人の良さそうな、ウィルより少し年上に見える男性である。おそらく三十そこそこだろう。
「いや。君に何もなくてよかったよ。今、来てもらって嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、失踪事件があって、若い子のここでの滞在はあんまりおすすめできないから」
「えっ。子供だけじゃないんですか!」
「うん。セオ君もばっちり対象年齢だね」
そういえば、先生も『児童失踪』じゃなくて『若者失踪』なんて言ってたっけ。
これはひどい勘違いをしていたようだ。
そんな会話をしている最中にタイミングがいいのか悪いのか、ウィル先生がロビーに降りてきた。
「おはようございます。……セオ、なんかあったのか」
「えっ。いや何も」
「ああ、おはようウィル君。セオ君に気を付けなって言ってたのさ」
「なるほど。ありがとうございます」
「ウィル君もセオ君のこと、見張っておきな。何かあってからでは遅いからね」
「ええ。そうしますよ。生徒に失踪されたとあっては教師として立つ瀬がありませんからね」
まぁ実際は、気を付けるも何も、僕達はそれを行っている張本人の住む場所に行くのだが。
本人の目的がいまいちわからないのに不安を覚える。何故、そこまでして人を集める必要があった?なんらかの実験というのなら納得だが、そんな気配はない。
まず、人を損なう魔術といえば、原始魔術だ。それか、生贄を必要とする呪術。だけれど、あの人は確か黒魔術の使い手だったはず。原始魔術にしろ呪術にしろ、あの人にとってはさほど重要でもないし研究対象ですらないのに、何故。
「セオ、早く行くぞ。遅くなっては行動範囲が限られてきてしまう」
「はい!今行きます!」
ウィル先生は、クライストの目的がわかっているのだろうか。わかっていたとして、なぜ僕に教えてくれないのか。
謎は深まるばかりである。
あぁ!僕はつくづく頭を使うことに向いていない!
そんな事を悶々と考えながらウィル先生と共に現地調査に入る。
「術式は随分と単純だな。嫌な予感がする。まるで見つけてくれとでも言わんばかりじゃないか」
そうウィル先生は言ったが、確かにその通りだった。
先生が持っていた情報と魔力針の向きを照らし合わせつつその場所に向かえば、大歓迎と言わんばかりにバレバレな結界が張られていたのだ。
しかも、これでは先生が張る普通の結界よりも質が悪い。一流魔術師にあるまじき行動だ。
「先生。これ、どうします?破壊しちゃいます?」
「……いや、いい。今はやめておこう。ここが分かっただけでもかなりの進歩だ。明日……違うな。明後日まで何も無ければ強行突破に出よう。それでいいな」
「了解っす。じゃあ、それで」
僕にはチンプンカンプンな出来事ばかり起こるから仕方ない。なんでこうも罠だとわかってしまうような術式を組んでいるのだろうか。
でも、罠が何かを悟らせないのは上手いかもしれない。いや、僕が気がついてないだけ、なんてこともありうるけれど。
「セオ、なんか食いたいものあるか。ドイツ料理で」
「いや、特にないっすけど、どうしたんすか」
「昼飯を食いに行こうかと思って」
「先生の奢りですか!」
「口にされるとする気が失せるが、まあいい。そうだよ、奢りだ。好きなだけたべたまえ」
ウィル先生、以外と気風がいい。今日は特にいいことが起こったわけでもないから、案外そういう人だったということだろう。
思い返してみれば、自分は先生のことを殆ど知らなかった。知りたければ、先生本人に聞くか、内弟子のラピスちゃんに聞くのが一番なんだろうけれど何故か怖い。聞いてしまったら、先生の心臓を除くようなことになってしまう気がしたから。
「先生、人間って複雑ですね」
「お前はひどく単純だけれどな」
「あっ、また反論しづらいところを!」
この軽い会話で、先生は何を隠そうとしているのか。僕には見当もつかないのだ。
「ええ!それはもうとても!」
良かった良かったと微笑んでいるのは、ホテルのロビー係の人だった。人の良さそうな、ウィルより少し年上に見える男性である。おそらく三十そこそこだろう。
「いや。君に何もなくてよかったよ。今、来てもらって嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、失踪事件があって、若い子のここでの滞在はあんまりおすすめできないから」
「えっ。子供だけじゃないんですか!」
「うん。セオ君もばっちり対象年齢だね」
そういえば、先生も『児童失踪』じゃなくて『若者失踪』なんて言ってたっけ。
これはひどい勘違いをしていたようだ。
そんな会話をしている最中にタイミングがいいのか悪いのか、ウィル先生がロビーに降りてきた。
「おはようございます。……セオ、なんかあったのか」
「えっ。いや何も」
「ああ、おはようウィル君。セオ君に気を付けなって言ってたのさ」
「なるほど。ありがとうございます」
「ウィル君もセオ君のこと、見張っておきな。何かあってからでは遅いからね」
「ええ。そうしますよ。生徒に失踪されたとあっては教師として立つ瀬がありませんからね」
まぁ実際は、気を付けるも何も、僕達はそれを行っている張本人の住む場所に行くのだが。
本人の目的がいまいちわからないのに不安を覚える。何故、そこまでして人を集める必要があった?なんらかの実験というのなら納得だが、そんな気配はない。
まず、人を損なう魔術といえば、原始魔術だ。それか、生贄を必要とする呪術。だけれど、あの人は確か黒魔術の使い手だったはず。原始魔術にしろ呪術にしろ、あの人にとってはさほど重要でもないし研究対象ですらないのに、何故。
「セオ、早く行くぞ。遅くなっては行動範囲が限られてきてしまう」
「はい!今行きます!」
ウィル先生は、クライストの目的がわかっているのだろうか。わかっていたとして、なぜ僕に教えてくれないのか。
謎は深まるばかりである。
あぁ!僕はつくづく頭を使うことに向いていない!
そんな事を悶々と考えながらウィル先生と共に現地調査に入る。
「術式は随分と単純だな。嫌な予感がする。まるで見つけてくれとでも言わんばかりじゃないか」
そうウィル先生は言ったが、確かにその通りだった。
先生が持っていた情報と魔力針の向きを照らし合わせつつその場所に向かえば、大歓迎と言わんばかりにバレバレな結界が張られていたのだ。
しかも、これでは先生が張る普通の結界よりも質が悪い。一流魔術師にあるまじき行動だ。
「先生。これ、どうします?破壊しちゃいます?」
「……いや、いい。今はやめておこう。ここが分かっただけでもかなりの進歩だ。明日……違うな。明後日まで何も無ければ強行突破に出よう。それでいいな」
「了解っす。じゃあ、それで」
僕にはチンプンカンプンな出来事ばかり起こるから仕方ない。なんでこうも罠だとわかってしまうような術式を組んでいるのだろうか。
でも、罠が何かを悟らせないのは上手いかもしれない。いや、僕が気がついてないだけ、なんてこともありうるけれど。
「セオ、なんか食いたいものあるか。ドイツ料理で」
「いや、特にないっすけど、どうしたんすか」
「昼飯を食いに行こうかと思って」
「先生の奢りですか!」
「口にされるとする気が失せるが、まあいい。そうだよ、奢りだ。好きなだけたべたまえ」
ウィル先生、以外と気風がいい。今日は特にいいことが起こったわけでもないから、案外そういう人だったということだろう。
思い返してみれば、自分は先生のことを殆ど知らなかった。知りたければ、先生本人に聞くか、内弟子のラピスちゃんに聞くのが一番なんだろうけれど何故か怖い。聞いてしまったら、先生の心臓を除くようなことになってしまう気がしたから。
「先生、人間って複雑ですね」
「お前はひどく単純だけれどな」
「あっ、また反論しづらいところを!」
この軽い会話で、先生は何を隠そうとしているのか。僕には見当もつかないのだ。
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