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52.噂の王太子妃〔1〕

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ソルム国からの帰りは、実は私だけこっそりと先に王城入りした。
私が単身ソルム国へジルを救出に行ったのは内緒だからだ。
ジルがいる訪問団後発組が王都入りする前に、夜中こっそりとラクス様に連れられて自分の部屋へ帰った。私1人で帰るって言うのをジルが絶対に受け入れてくれなくて、おまけにラクス様も私を部屋まで送り届けると言ってきかなかった。
ラクス様はジルと一緒にいるはずなので、そのまま蜻蛉返りでジルの宿泊してる宿に帰るというお手間なのにね。

ラクス様お疲れ様です!

勝手な行動をして国王夫妻の不況を買ったようだけど、そんなの知ったこっちゃない。
ジルの命がかかっているんだから、相談もする暇なんてなかった。実際救出した時の様子を見て、飛び出して大正解だったと胸を張って言える。

でも、トリスティン様がすごく私を庇ってくれたらしく、ジルの救出も私のおかげだとすごくアピールしてくれたから、首脳陣の評判は悪くなってはいないようだった。

ジルとソルム国との間に起こったことは、表沙汰にならないままウェントゥス国の上層部の一部しか知らない事となった。ジルの随行者達にも固く口止めされた。ソルム国との国交回復の条約を結んだばかりなのに、下手に噂にでもになって世論が反ソルム国になって、グラキエス様ともレオとも約束している支援が難航したら困るからだ。

ジルを助けに行っている間、病気で伏せっている設定になっていた私は、その間のお見舞いへの返事とか、滞っていたお茶会等々を精力的にこなす事になった。
そこでびっくり。なんと私が懐妊したのではないかと噂になっていたのである。
やんわりとそれを否定して、なんとか噂が撤廃できたかなぁ、と思っていたら、なんとなんと今度は私とジルの不仲説が浮上したのであるっ!

ソルム国から帰国後、まだまだ本調子でないジルに、閨事は体調が万全になってからだとお願いしていた。本当はもっと休んで欲しかったけど、何故か自信を無くしたと思われるジルは精力的に国務をこなしていった。ソルム国との国交回復に伴って、湖に船着場を建設して新たな輸送ルートにする予定なのだ。その方が早く物資が支援できるからね。
私も私でレオとの約束もあったから、率先してソルム国への支援案を取りまとめたり書類を整備していたりでかなり忙しかった。
国務を担うジルの負担を少しでも軽減したいのも大きかったしね。

そのため、帰国してから暫くはジルといちゃいちゃどころか一緒にいる時間がかなり減ってて、ジルも国務の次に体調回復を優先するべく、お互い仕事が終わって寝室に入ると、今日の業務報告みたいなのをしたらすぐに寝入っていたのである。
今はもうジルの体調もほとんど回復して、閨事はほぼほぼ以前通りに復活しているけど……

そんな中、ソルム国内にいる時に耳にしていた、『ソルム国の王女にジルがご執心である』という噂が遅れてウェントゥス国へと入ってきたのだ。
私が聞いた時は『第二王女』だったけど、なぜかウェントゥス国では『王女』と噂が改変されていた。噂あるあるだよね。

こうして気が付いた時には、ウェントゥス国内で『王太子夫婦は不仲である』という噂がまことしやかに流布していたのであった。




「フィーリアス様。あんな噂気にする事などありませんっ!」

素直で可愛い侍女のセリカが、ぷりぷり怒りながらお茶を注いでくれる。
今日は久しぶりに午前中の国務が休みで、ゆっくり侍女たちとお茶をしていた。午後からは令嬢たちとのお茶会の予定だけだ。体調がすっかり回復したジルは、相変わらずの陛下の無茶振りで国務を丸投げされて朝から仕事だった。
もう少し仮病でも偽って体調回復してない事にすればよかったなぁ、とか思ってしまった。

「ありがとうセリカ。でも、本当にそんな噂気にしていないのよ」

……だって。事実を知る私としては、第二王女にめちゃくちゃご執心された挙句、あんな事されたジルヴェールが、そんな噂流されて逆に可哀想で……

ーーー絶対零度の怒りを放つよね、ジル様……

ジルの怒りを想像して、ちょとだけ遠い目になる。

「うふふ。流石フィーリアス様ですわ。ーーーですが、昼からのお茶会はお気をつけくださいね。不仲説を聞いてジルヴェール様を狙っている令嬢の派閥が盛り上がっています。今日はそうした派閥の令嬢も参加しているようなので」

頼もしいエステラがアドバイスをくれる。本当、噂に疎い私をこうして皆がフォローしてくれるんだよね。ありがたや~。

さてさて、お昼からはお茶会という名の戦場に行きますが、ソルム国で結構な経験値を獲得した私は、なんだかお茶会も前より楽勝に思えてしまうのである。

……私ちょっとは成長したのかな!??


♢♢♢


「ごきげんよう、皆様。本日は私のお茶会へ参加していただきありがとう存じます。気を楽にされて、ぜひ楽しんで下さいね」

にっこりとそう挨拶をして、お茶会が開幕となった。


最初は皆わちゃわちゃと楽しそうにしていた。イグニス国のシュテアネ様とは仲良く文通をしているので、イグニス国の流行りのお菓子なんかも教えてもらって、今日はそれを皆に振る舞っていた。
目新しいお菓子でテンションが上がっているようだ。女子の心はスイーツで鷲掴みにしないとねっ!

 前世チートで新しいお菓子の開発っ! とかがセオリーなんだろうけど、残念ながらスイーツを食する事は得意だけど、再現なんてとてもじゃないけどできない。あれだ。お菓子作りは分量が非常に大切なはずだ。私にはその記憶がなかったんだと、必死に言い訳したい。

……本当相変わらず中途半端な私~。でもここまでくると面白い。

場が暖まったところで、またしてもどこかの令嬢(切込隊長)がぶっ込んで来る。

「フィーリアス様、お加減はもうよろしいのですか?」
「えぇ。お陰様ですっかり良くなりましたわ」
「良かったですわ。もしやご懐妊かと、次代の王家を継ぐものができた喜びに、私たち配下の貴族は歓喜に溢れかえったのですが……とにかく、お加減が宜しいようで良かったですわ」
「ご心配していただいたようで……本当ありがとうございます。ですが、実はジルヴェール様とは世継ぎはもう少し後にしようと話し合っているのです」

これは本当の話で、ジルとは子供はもう少し後にしたいと、夫婦で意見を一致させている。
あれだけ毎日してたらすぐに孕みそうなものですが、授かり物だからそればかりは分からない。でも、前世の感覚がある私からすると、18歳で結婚してすぐ妊娠出産ってめちゃくちゃ早い気がしていた。

おまけに、今王太子妃としての国務を担い出してまだほんの少し。これから王妃となった時にもっとジルを支えていくためにも、今出産してしまったらどうしても子どもが優先になってしまい国務が疎かになってしまう。

貴族の女性はほとんど自分で子育てをせず、乳母や侍女に子育てを任せっぱなしなんだけど、これまた前世の感覚がある私としては絶対に任せっぱなしにはしたくなかった。

……そもそもそんな感覚だから、ジルをスペアとかあんな扱いするんだよねっ!

私は絶対にそんな王妃にも母親にもなりたくなかった。
だから、妊娠するのはもう少し後にしたいと思った私とジルの意見は一致して、今も避妊薬を飲み続けている。
これは、侍女の3人とラクス様とかほんの一握りの人間しか知らない。

「まぁぁ! お世継ぎを作られるのが王太子妃の大切なお仕事ですのに?」

おいおい、人を子ども作る機械か何かかと思っているのですか。
というか、女の仕事がそれだけって、貴方も同じ女でしょってちょっと悲しくなった。

「勿論、お世継ぎを産むことは大切な役目だと認識しております。ですが、私は民もまた自分の子どものように思っております。民がいるからこそ我々の生活は成り立っているのです。ですから、私は民を助ける王太子妃としての仕事にも誇りを持っておりますので、今はまだ国務に携わっていきたいと考えておりますの」
「……民も子どもですか……」
「えぇ。皆様にも、ぜひご自身で出来ることがありましたら、是非是非女性でも活躍していただきたいですわ」

貴族の女性って家を守ることがほとんどで、もっと出来る事あると思うんだよね~。
とりあえず、こうして若い令嬢たちから啓蒙教育していかないとね。

「……フィーリアス様のお考え、とても素敵だと思います……」

1人賛同者が現れると、次々に賛同してくれる人が増えていく。
おぉ。良かった良かった。

「……ですが、ジルヴェール殿下は本当にそのようにお考えなのでしょうか? ……お二人があまり上手く言っていない、という話を耳にしたもので……」

おぉ。切込隊長はまだぶっ込んでくるようです。なかなかタフだね。

「まぁ。そのような噂どこで耳にされたのでしょうか? ジルヴェール様との仲はとてもとても順調でして、お恥ずかしい話……いつも同じ寝室で寝ておりますの」

はい。こっちもぶっ込みました。赤裸々に告白します。本当は、非常に、ひっじょーーに恥ずかしいんですけどねっ! 何が悲しくて、他人にこんな私的も私的な部分の話をせねばならんのですかっ!?
おかげさまで、自分で言ってまたも顔が赤くなってきた。淑女の仮面どこですか~。

……これ、またも自爆……?

「っ! 凄く素敵な話ですフィーリアス様っ!」
「えぇっ! あの、よろしければもっとお二人のお話を聞いてみたいですっ!」

何故か、他の令嬢から食い気味に色々質問を重ねられる。
やっぱり女の子って恋バナが好きなのかな?


ーーーですが、自分的には惚気話になるから恥ずかしくて死ぬんですけどね……
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