蜜葉

真夏の誘惑

2

「ねえ、ダメ？」
　さりげなく３席分ほどの距離を縮めてきた彼に悪戯っぽくそう言われて、篠崎は瞼をしばたたかせた。
　なにせ栗原とは学科が同じくらいのもので、ほとんど接点のない相手だ。そのうえ、大学生活が４ヶ月を過ぎようとも、一度とさえ話したことがない。そんな相手があまりにも親しげに話しかけてきたことに篠崎は驚きを隠せなかった。
「ねえ、聞いてる？」
　間合いをつめて問いかけてくる目の前に相手に、篠崎は遅ればせながら短く返答する。普段でも、どちらかといえば地味な篠崎に、率先して話しかけてくる相手など滅多にいない。だから、性格の対照的な彼の態度が意外にも思えた。
「……聞いてる、よ。で、……あ、何？」
「もう！　本当に篠崎だよね」
　どういう意味だよ、と心の中で舌打ちする。