蜜葉

夏蜜

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梅雨入り

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  ハンドルを握る手に思わず力が入る。もうすっかり辺りは暗くなったようで、激しい雨音に混じり、バックミラーに反射する白色の光だけが刻々と後ろから迫ってくるのを感じる。
 高城はさらに車を加速させ、正面に現れた寂れたプレハブ小屋と家屋の間へ無理に車体を入り込ませた。額に多量の汗を滲ませながら、車一台がやっと通せるほどの小道を無我夢中で飛ばしていく。
 すでに視界は前照灯の先になく、背後に迫る状況だけを不安定に頭の中で上下させていた。

「振り払ってくれぇ……。」

 後部座席を照らしていた光が少しずつ遠ざかっていく。
 気が付けば後ろを脅かしていた車はとうにその灯を遠隔に弱め、高城が市街地へ再び戻ろうとしていた頃には、土砂降り雨とともに闇の中へすっぽりと消えていた。 
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