剣聖の使徒

一条二豆

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第一章

惨敗

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「キシャ――――――!」
「!」

 化け物は奇声を上げると前足の様なものでこちらに襲いかかってきた。
 すかさず、俺は横に避けて距離を取る。

「……! なんつーパワーだよ……!」

 俺が立っていた場所を見ると、コンクリートの床に化け物の足が深々と刺さっていた。あれを食らってしまったらひとたまりもないだろう。

 そう考えている間も化け物の攻撃は止まらなかった。

 次々とこちらをめがけて足を振るってくる。

 が、俺も負けてはいられない。

 化け物の攻撃を素早いステップで避けつつ、反撃の糸口を探していた。
 今のところ化け物の攻撃は連続的に繰り出されている。この中をくぐりぬけて一撃叩きこむってのは難しい。刀でもあれば足斬って動き封じるんだがな……。
 まあ、こいつも生物だ。たぶんそのうち体力が切れるはずだろう。そこを狙って顔面に一発入れる。
 そう作戦を立てるが、化け物の猛攻はなかなか終わらない。

「はあ、……っ……はあっ――!」

 百発目、二百発目と攻撃はとどまらない。

 だが、俺も何とか避ける。

 どれくらい時間が経ったか分からない。でも、今はただ耐えるしかなかった。

 そして、ついに時は来た。

 一瞬、化け物の猛攻が止まったのだ。
 俺はその瞬間を逃さず手に力を込めた。

「我流、九十九屋流……居合」

 俺は思いっきり地面を蹴り、縦に高速回転する。

鬼神転斬きしんてんざん!」

 化け物の顔面まで来たところで、俺はその回転を利用して、思いっきり物干し竿を顔面に叩き込んだ。

 だが、

「なっ!」

 まるで、鋼鉄を叩いたかのような感触。
 顔面にきれいに入った物干し竿は、化け物の顔面の硬度によってひしゃげてしまった。

「キシャ――――――!」

 化け物は怒ったのか、宙に浮く俺めがけて、さっきの倍の勢いで足を振るってきた。

「くっ」

 俺は何とかその攻撃を避けるために、物干し竿の曲がった部分を化け物のあごに引っかけた。
 そして、それを思いっきり引き上げるようにして力を入れ、自分の体を地面に叩きつけた。

「ぐおっ……っ……」

 多少はダメージを受けるが、あの攻撃をもろに食らうよりはマシだった。

 俺は背中の痛みを無視して素早く立ち上がる。

 くそ、あの化け物……虫っぽい姿してるくせになんつー硬さだよ!
 こんなの……チートじゃねえか!

 だが、そんなことも言っていられない。
 物干し竿が壊れてしまった以上、新たに丈夫で刀の代わりになりそうなものを探してこなければならない。

 俺は必死に辺りを探す。

 しかし、化け物はそんな俺の気持など知らず、攻撃を再開してくる。

「はあ…………っはあ……」

 正直もう体力の限界だった。
 長い道のりを全力疾走し、攻撃を休みなく避け続けたのだから当然ではあるが。

 そんなふらふらな状態の中、俺は化け物の立つ先に希望を見つけた。

 化け物の真後ろに鉄パイプが積み上がっていたのだ。なんで見つけられなかったのか。
 俺はその希望を求めて、最後の力を振り絞り、全速力で走りだした。

 走る。

 走る。

 ただ、走る。

 もう何も考えていなかった。ただ、鉄パイプまで辿り着くために走る。

 そして俺は――一本のパイプを掴んだ。

 よしっと心の中で叫んだ。
 これで戦える! そう思った。

 が、俺は完全に失念していた。

 ただ、これを取りに行きたいがために忘れてしまっていた。

 奴の存在を。

「キシャ――――――――!」

 化け物は足を大きく振るった。
 俺はとっさに鉄パイプで防御にかかるが、パイプは無残にも折れ曲がってしまった。俺の体は勢いよく吹っ飛び、謎の壁へと叩きつけられた。

「ごばっ……くぁっ」

 俺はあまりの衝撃に血を吐いた。

 一つのことに集中すると、他がおろそかになってしまうのは俺の悪い癖だ。

 俺はなんてバカなんだよ!

 鉄パイプを取りに行くのに、化け物の存在を忘れるなんて……本末転倒じゃねえか!

 だが、そんなことを考えているのもつらいほど、俺の体は悲鳴を上げていた。

 痛い。

 体全体に激痛が走っていた。
 きっと体中の骨が折れている。
 足も手も動かず、かろうじて動くのは首の骨くらいだ。

 そんな状態で俺は正面にいる化け物をにらみつける。

 こんなところで死んでたまるか! と叫びたかった。
 だが、骨が折れてしまって、もう口を動かすことすらできない。

 悔しかった。

 まだ、両親の仇を討ってない。
 見つけてすらいない。

 頑張って来た剣術もまるで歯が立たない。

 こんな気持ちの悪い化け物ですら倒すことができない。

 ……だが、俺の意思は死なねえ。

 地獄に落ちても、天国へ行っても、必ず生まれ変わってお前らを殺してやるよ。
 何度でも。何度でも何度でも――



「その必要は無いですよ」



 俺が心の中で怨嗟の言葉を吐いていると、横から少女の声が聞こえた。
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