剣聖の使徒

一条二豆

文字の大きさ
20 / 62
第二章

三世界のバランス

しおりを挟む
「以上で三世界の説明を終わりたいと思います。次に、本題である三世界の現状と、そこに至った経緯について話をさせていただきたいと思います」

 そう言ってシーナはペンを構えた。

「〝天界〟と〝魔界〟は長年戦争をしてきました。始まりがいつなのかは分かりませんし、なぜ戦い始めたのかも上の者たちしか知りませんが……」

そう言いながらシーナは上と下の円を線でつなげ、VSと書いた。

「長らく続いていた戦争の中、ある時〝魔界〟は〝天界〟を困らせる策を思いつきました」

 シーナは続ける。

「先ほども言った通り、私たち〝天界〟は〝人間界〟を守る義務があります。〝魔界〟はそこに着目し、〝人間界〟へと進出することで〝天界〟の気を引こうとしたのです」

 下の円から中心の円へと←が引っ張られる。

「〝人間界〟へと進出した〝魔界〟のものたちは悪逆非道なことを始めました。殺人、支配、窃盗……ありとあらゆる悪事を」

 それを聞き、俺は少し眉を顰めた。
 今の話を聞いていると、怒りがわいてくる。

「しかし、〝魔界〟のものたちは大々的に目立つことはできませんでした。なぜなら……『三世界のバランス』という法則が存在したからです」

 ここでまた、聞いたことの無い言葉が出てきた。俺はシーナの説明を静かに待った。

「『三世界のバランス』とは、そのままの意味で三世界がお互いに支え合っていることを意味しています。三世界のうち、どれか一つでも世界が崩壊してしまうと、他の二世界は支えを失ってしまい、徐々に崩壊を始めてしまうのです」
「ん? じゃあ、〝天界〟と〝魔界〟が戦争してるって言うけど……どっちかが勝ったらそれは、片方の世界が崩壊するってことにならないのか?」
「いえ……そうはならないんです」

 シーナは少し考え込み、俺に返答するべく口を開いた。

「〝魔界〟のものたちが恐れているのは、自分たちのことを知った人間たちが大混乱を起こすことによって生じる、歪みからなる崩壊です」

 この言葉を聞いても、俺はあまり理解できなかった。
 そんな俺の様子に気付いたのか、シーナが説明し直してくれた。

「人間たちから見て悪魔みたいな、本来存在するはずの無いものが突然現れたら、きっと人間の皆さんは大混乱に陥ってしまうでしょう。その時に発生する負の感情――エネルギーは、世界そのものを崩壊まで追いやってしまうのです……分かりましたか?」
「ああ、なんとなくだけど……」

 負のエネルギーとやらがなんなのかは良く分からないが、とにかく俺たちが原因でこの世界を壊してしまうということは分かった……と思う

「では、先ほどの続きですが……〝人間界〟とは違い、〝天界〟と〝魔界〟は三世界があるということを知っています。そのため、お互いの世界を潰し合っているというよりは、国と国とが争いあっていると考えた方がいいと思います。国自体が自ら消えてしまうのと、国そのものは残るが他国に支配されてしまうかという違いですね」

 かなり難しいことを言われたが……まあ、ニュアンスは分かった。
 その代償として、頭痛薬が欲しくなったが……。

 疑問も解けたので、俺はシーナに続きを促した。

「本題に戻らせていただくと……〝魔界〟は目立とうとせず、暗部で非道を繰り返していました。ですが、次第にそれが戦争のためではなく、自分の欲を満たすためのものになってきてしまったのです」

 シーナは少し怒りを含んだ声音になっていた。
 確かに、これは許されざることだ。悪魔っていうのはつくづく最低なやつらららしい。

「目的と手段が逆になってしまった〝魔界〟からは、欲を満たすためにたくさんの悪魔が〝人間界〟へと渡ってきました」

下の円から中心の円へと、もう一本←が引かれた。

「この時点で〝天界〟には二つ危惧することが生まれてしまっていました。一つ目は、〝天界〟の義務である〝人間界〟の守護が完全ではなくなってしまうこと。二つ目は、異界のものが増加したことによってもたらされる〝人間界〟崩壊の可能性です。……残念なことに、結果的に〝魔界〟の目論見は成功してしまったのです」

 俺は少し額に少し汗を滲ませた。何も知らずにこの世界に生きていられたことに、驚きを隠せなかった。

「この事態を何とかして止めたかった天界ですが、さっきの理由がある以上むやみやたらに、〝天界〟から人材を送るわけにはいきませんでした。このとき、〝天界〟に残された道は強いものを〝人間界〟にいるものたちから生み出す他に無かったのです」

 少数しか送れないのであれば強いものを、それも〝天界〟のものではない人間でということなのだろうか……。

「〝天界〟にも強い神とかいるんだろ? そいつらじゃだめだったのかよ?」

 と俺はシーナに質問した。
 とびきり強いやつらは、〝天界〟に最低でも一人や二人はいるはずだ。少数しか送れないのであれば、その強いやつらを送れば良かったんじゃないかと思ったのだが……。

 俺は言葉に対して、シーナは首を横に振った。

「そいうわけにもいかなかったんです。一つは、〝魔界〟自体との戦いのために、強いものたちを残さなければならなかったこと。もう一つは、強大な神のエネルギーは〝人間界〟では支えきれない可能性があったからです」
「あー…………つまり、強い神が来ちゃったら〝人間界〟がぶっ壊れるってことか?」
「そういうことです。これは〝魔界〟にもいえるんです。そういう理由もあって、〝人間界〟に来ているのは、あくまで私たちのような、訪れても世界に影響を与えないものたちなんです」

 そう言い終えて、シーナは自分のお茶に口につけた。
 その様子見ながら、俺は改めて世界の複雑さについて考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...