剣聖の使徒

一条二豆

文字の大きさ
28 / 62
第二章

再び

しおりを挟む
「やっぱりまずいよなあ……」

 だんだんと日が落ち、辺りも暗くなってきていたが、俺はまだ帰宅せずに帰り道をうろうろとしていた。
 凛音との約束を完全に忘れて、シーナとも約束をしてしまっていたことのショックと恐怖で、ずっと教室でうずくまっていたからである。

 今日のことで俺は自分のメンタルの弱さを感じた。俺はガラスのハートを持つ男……。

 それはともかく、約束を破ることは、人間として最低のことである。
 これは父さんが生前よく言っていた言葉である。当時まだまだ幼かった俺だが、この言葉は良く覚えている。
 俺は父さんの言いつけを守り、今までそれを破ったことは無かった。今回もなるべく破らないようにしたい。

 そう考えていると、俺の目の前に突風が吹いた。

 急に吹いてきた風に対して俺は反射的に目を瞑ってしまった。
 風がやみ、目を開くと、そこにはシーナが立っていた。

 だが、この程度では俺は驚かない。術がどういう物かは昨日知ったし、こんなことでいちいち驚いていたら、きっと身が持たないだろう。
 風と共に現れたシーナは、少し興奮気味だった。

「日向さん! 悪魔と思しき反応がありました。至急向かいましょう!」
「悪魔と思しき反応?」

 現れて突然、良く分からないことを言われたので、思わず聞き返してしまった。

「私たちは悪魔の気配を、やつらが力を使ったときに発生する負のエネルギーを察知して探しているんです」
「! つーことは、今どっかで悪魔がなんかやらかしてるってことか!」
「はい、そうです! これは『剣聖の使徒』としての初仕事ですよ! 燃えちゃいますね!」

 シーナは、むっふーと鼻息を荒くして嬉しそうに言った。
 ……本当は喜んでいては駄目なんだ。なにも起こらないのが一番良い。

 いや、こんな悠長にしている場合ではない。この街のどこかに悪魔がいるんだ!

「シーナ、案内してくれ! 一体どこにいるんだ!」
「ついてきて下さい!」

 そう言ってシーナは走り出した。
 俺もシーナの後に続くようにして走り出した。
 と、同時に思ってしまった。

「なあ、シーナ。術で俺をそこに連れていくっていう選択肢は無いのか?」
「…………それもそうでした」

 シーナは拗ねたようにそう呟いて止まった。
 やはりドジだな、この子。俺がしっかりしないと。

 シーナは首をふるふると振って俺に近づいてきた。嫌な気持ちでも振り払ったのだろう。
 その後、トテトテと俺の方へ寄ってきた……って近い! 近いよ!

 シーナはぴったりと俺にくっついてきて、俺の心はドッキドキだ。
 そうしているうちに、シーナは俺の肩に手を置き、短く呟いた。

「『流雲りゅううん』」

 すると、俺たちの体は白い雲にすっぽりと覆われて周りが見えなくなってしまった。

 そして、その雲が消えたかと思うと目の前にはいつか見た謎の壁――『魔の封陣タシタン・スクエア』が目いっぱいに張られていた。
 外側から見たこの壁は、中が全く見えなかった。内側から見た時はぼやけていただけで多少は見えていたのだが、不思議なものだ。

「この中に、悪魔がいるんだな……」

 再び訪れた戦いに緊張が走っていた。だが、ここで怖気づいていても仕方が無い。俺は心を落ち着かせ、気持ちを引き締める。

「いいですか、日向さん!」

 と、シーナは唐突に声をかけてきた。
 一瞬戸惑ったが、俺はシーナの言葉へと耳を傾ける。

「この先にどんな悪魔がいるのかは分かりませんが……日向さんはまだ、力のコントロールができない状態です。あまり無茶はせず、まずは力の解放に努めて下さい。それと、私は極力相手を倒さないようにしますから、頑張ってください」
「おう、分かった」
「では、行きましょう」

 シーナは先頭に立ち、『魔の封陣タシタン・スクエア』の中へ向かって行った。
 昨日シーナが言っていた通り、その壁は何かを防ぐわけでもなく、すんなりと通した。
 俺も一歩を踏み出し、その壁へと手を伸ばした。

 その手は難なく壁をすり抜け、俺はそのまま『魔の封陣タシタン・スクエア』の中へと身を投じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...