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第三章
順番待ち
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最近駅前にできた、人気ケーキ専門店『ケーキショップ・アヤ』。
名前から分かると思うが、店長である綾という人が中心として作っている、とてもおいしい評判のケーキ屋である。
俺たちが付いた時にはすでに大行列ができており、一時間待ちという苦行を強いられることになってしまった。
「あー、ミスったなあ……時間配分」
「全くだ。あんなくだらない映画など見ていなければこんな、こと、に、は……!」
俺が喋っている途中で正面から腹へと一発、拳が繰り出された。
あまりの痛みに、地面に膝をつき、俺の記憶に残るもう一人の兄弟へと思いをはせた。
大聖……お前、こんなパンチを笑つつ受けてたんだな……。
俺の中で大聖ドM説が浮上したが、今は心の片隅に置いておく。
「日向さん、大丈夫ですか?」
こんな時に優しく声をかけてくれるシーナさん、あなたは天使に違いない。
「いいのよ椎名ちゃん。それは放っておいて」
そして、俺をものみたいに扱う妹さんは悪魔ですね。それでも俺の中に現れた天使りんたんか! ちくしょう!
俺は何とか立ち上がって凛音に不満をぶつける。
「でも、実際一時間待ちになったのは事実だろうが……」
「一時間ぐらい、我慢できるでしょ? 男なんだからそれくらい頑張りなさい」
「ひっ、ひでえな……」
これ以上議論をしていても永遠に終わらない気がしたので俺から折れた。
昔からこいつは頑固な性格だから、俺から折れないといつまでたっても決めなければないことが決まらなかったことが何度かある。
急に訪れた災難にため息を吐いていると、シーナに服の袖をくいっと引っ張られた。
「どうしたんだ? シー……椎名」
「はい、えっと、あの、あれって何ですか?」
そう言って指差された先には……なぜか掲げられた日の丸の国旗。
恐らくは……そのすぐそばにあるお寿司屋さんの物なのだろうが……外国人観光客でも呼び込む気なのだろうか?
しかし、お寿司屋さんの事情はともかく、この状況はマズイ。
凛音はシーナが何を知りたいのか理解したらしく……首を横に捻った。
「椎名ちゃん、あれ、日本の国旗でしょ? そんなことも知らないなんて……一体どこに住んでいたの……?」
「え? ……あ!」
シーナもことの重要さに気が付いたらしく、何やらわたわたとし始めた。
そんな様子のシーナに構ってはいられない。俺は慌ててフォローに入る。
「椎名はさ……ほんっっっっとにド田舎に住んでたんだよ! 電気もガスも通ってないようなさ、な、椎名!」
「ええっ? …………あ、はい! そうなんですよ! あは、あははははは!」
苦し紛れの言い訳をしてみるも、やはり納得してくれるはずも無かった。
「でも、どんなに田舎でもさすがに国旗くらいは……」
「いや、あの、私、世間知らずなんで! この国が日本っていうところなことも最近知ったんですよ!」
「でも……」
「まあまあ凛音、人の事情ってもんがあるじゃないか! だから変な詮索とか止めようぜ? な?」
「…………うん、分かった」
言葉をまくしあげることで、本当に無理やりだが、何とかこの場を切り抜けることができたようだ。
俺とシーナはお互いに目を合わせて、ゆっくりと息を吐いた。
焦った……! これでもかっていうくらい焦った……!
悪魔が出たわけでもないし、混乱が起きるわけでもないと思うが……万が一ということもある。
こんな他愛のない日常の中でも、世界滅亡の危機と隣り合わせなのだと考えると、やはり何か恐ろしいものがあるな……。
「では次のお客様ー」
「あ、もう空いたみたい……意外と速かったね」
「ん……じゃ、行くか」
「はい!」
俺とシーナが二人でわたわたしていると、思ったよりも早く席が空いた。
何というか……助かったな。
うきうきとしながら、先陣を切ってケーキ屋へと入って行くシーナを尻目に、俺たちはケーキ屋に入店した。
名前から分かると思うが、店長である綾という人が中心として作っている、とてもおいしい評判のケーキ屋である。
俺たちが付いた時にはすでに大行列ができており、一時間待ちという苦行を強いられることになってしまった。
「あー、ミスったなあ……時間配分」
「全くだ。あんなくだらない映画など見ていなければこんな、こと、に、は……!」
俺が喋っている途中で正面から腹へと一発、拳が繰り出された。
あまりの痛みに、地面に膝をつき、俺の記憶に残るもう一人の兄弟へと思いをはせた。
大聖……お前、こんなパンチを笑つつ受けてたんだな……。
俺の中で大聖ドM説が浮上したが、今は心の片隅に置いておく。
「日向さん、大丈夫ですか?」
こんな時に優しく声をかけてくれるシーナさん、あなたは天使に違いない。
「いいのよ椎名ちゃん。それは放っておいて」
そして、俺をものみたいに扱う妹さんは悪魔ですね。それでも俺の中に現れた天使りんたんか! ちくしょう!
俺は何とか立ち上がって凛音に不満をぶつける。
「でも、実際一時間待ちになったのは事実だろうが……」
「一時間ぐらい、我慢できるでしょ? 男なんだからそれくらい頑張りなさい」
「ひっ、ひでえな……」
これ以上議論をしていても永遠に終わらない気がしたので俺から折れた。
昔からこいつは頑固な性格だから、俺から折れないといつまでたっても決めなければないことが決まらなかったことが何度かある。
急に訪れた災難にため息を吐いていると、シーナに服の袖をくいっと引っ張られた。
「どうしたんだ? シー……椎名」
「はい、えっと、あの、あれって何ですか?」
そう言って指差された先には……なぜか掲げられた日の丸の国旗。
恐らくは……そのすぐそばにあるお寿司屋さんの物なのだろうが……外国人観光客でも呼び込む気なのだろうか?
しかし、お寿司屋さんの事情はともかく、この状況はマズイ。
凛音はシーナが何を知りたいのか理解したらしく……首を横に捻った。
「椎名ちゃん、あれ、日本の国旗でしょ? そんなことも知らないなんて……一体どこに住んでいたの……?」
「え? ……あ!」
シーナもことの重要さに気が付いたらしく、何やらわたわたとし始めた。
そんな様子のシーナに構ってはいられない。俺は慌ててフォローに入る。
「椎名はさ……ほんっっっっとにド田舎に住んでたんだよ! 電気もガスも通ってないようなさ、な、椎名!」
「ええっ? …………あ、はい! そうなんですよ! あは、あははははは!」
苦し紛れの言い訳をしてみるも、やはり納得してくれるはずも無かった。
「でも、どんなに田舎でもさすがに国旗くらいは……」
「いや、あの、私、世間知らずなんで! この国が日本っていうところなことも最近知ったんですよ!」
「でも……」
「まあまあ凛音、人の事情ってもんがあるじゃないか! だから変な詮索とか止めようぜ? な?」
「…………うん、分かった」
言葉をまくしあげることで、本当に無理やりだが、何とかこの場を切り抜けることができたようだ。
俺とシーナはお互いに目を合わせて、ゆっくりと息を吐いた。
焦った……! これでもかっていうくらい焦った……!
悪魔が出たわけでもないし、混乱が起きるわけでもないと思うが……万が一ということもある。
こんな他愛のない日常の中でも、世界滅亡の危機と隣り合わせなのだと考えると、やはり何か恐ろしいものがあるな……。
「では次のお客様ー」
「あ、もう空いたみたい……意外と速かったね」
「ん……じゃ、行くか」
「はい!」
俺とシーナが二人でわたわたしていると、思ったよりも早く席が空いた。
何というか……助かったな。
うきうきとしながら、先陣を切ってケーキ屋へと入って行くシーナを尻目に、俺たちはケーキ屋に入店した。
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