剣聖の使徒

一条二豆

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第三章

不安

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 凛音は呆れたように顔を両手で覆った。照れているのか、おいおい。
 覆っていた両手を解き、顔を起こすと、凛音は俺に向かって何かを言おうとしてくる。

「ねえ……日向?」
「ん? 何だ?」

 顔は真剣そのもので、声は若干震えていた。一体何だと言うのだろうか。
 凛音は本当に不安そうな……少し潤んだ瞳でこちらの目を覗きこんできた。

「もし……私がその、『家族』に相応しくなかったら……どうする?」
「……は?」

 どうして急にそんな話を……?
 しかし、今の発言はなあ……。

「あのさあ、凛音……」

 俺はありったけの域を吸い込んで、叫んだ。

「そんなこと、あるわけないだろ!」
「!」

 凛音ははっとした表情になった。

「たとえ凛音が凶悪な犯罪者になっても、俺は俺の知っている凛音を信じ続ける!」

 俺は凛音の目をまっすぐと見つめる。

「だから、お前は何があっても……ずっと俺の、俺たちの『家族』なんだよ! 分かったか!」

 俺の思いを全力で感じたであろう凛音は瞳を少し揺らすと、うれしそうに微笑んだ。

「…………ありがとう……」

 だが、その笑顔にはどこか寂しそうな、悲しそうな陰があった。
 そんな様子が気になって、俺が声をかけようとすると……その前にシーナがひきつった表情を浮かべていった。

「あのー、お二方……」
「どうした?」
「……?」

 シーナは頭を抱えてうなだれた。

「周りを……見て下さい……」
「ん? 周りって……うっ……」

 言われるがままに周りを見てみると、お客さんの視線が俺たちの方へと向いていた。
 そりゃあそうだな……あれだけの大声で、下手したらプロポーズと捉えられかねないこと言ったんだもんな……。

 俺たちはテーブルの上にあるケーキを味を楽しむ暇もなくかき込み、そそくさとケーキ屋を後にした。

 あと、三人分のお金を払った俺のお小遣いは風前の灯である。
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