剣聖の使徒

一条二豆

文字の大きさ
52 / 62
第四章

日向の思い

しおりを挟む
 もう見慣れてしまった空間。順応するっていうのは本当に怖いものだ。
 最初は不可解そのものだったのに、今ではあるのが当然のように思える。

 何の変哲もない夕暮れの公園、いや、半透明の壁――『魔の封陣』によって囲まれ、世界から隔絶された公園。
 そして、公園の中心。俺の視線の先には、そこに凛音が立っていた。
 服装はがらっと変わっており、ただただ黒い、衣装をまとっていた。
 表情は全く読み取れない。凛音はただ静かにこちらを見ていた。

「凛音……」
「お、やっと主役の登場じゃないか」

 凛音が立つ少し奥の方。その場所にそびえたつジャングルジムの頂点に、二十代くらいの風貌の青年が一人胡坐をかき、座っていた。

 今何か言ったのは……こいつか。
 男は微笑みながら話してくる。

「はじめまして、『剣聖の使徒』! 俺の名前はヴァルゴ。で、その娘の名前は夢崎凛音……本名をリヴィアと言ってね、俺の子どもだ。まあ、よろしく」

 ヴァルゴとやらは、その妙に癇に障る爽やかな声でそう言った。

「ま、君も気づいているとは思うけど……俺たち、悪魔なんだわ。ま、主に君たちみたいな『使徒』を狩りまくってるんだけど……まさか、凛音のご友人が『使徒』だったなんて、いやいや、びっくりだね――」
「うっせえ、ちょっと黙ってろ」
「――って、うおう……」

 俺は無意識に苛立ちを、言葉に乗せてしまった。だが、今はそんなこと気にもならない。

「後にしてくれ、俺は今、やりたいことがあるんだ」
「……あそう? じゃ、お先にどうぞ」

 軽い文句でそう言うと、ヴァルゴはそのまま寝そべってしまった。
 俺はその姿を視界から除き、凛音と向き合った。

「……なあ、凛音」
「……」
「俺さ……腹が立ってんだよ、何でか分かるか?」
「……」

 一度自分の気持ちを吐露し始めたら、言葉が洪水のように俺の口からあふれ出てきた。
 凛音は何も言わない。

「確かに悲しかったよ……凛音が悪魔だって分かったことは」
「……」
「最近何か様子がおかしかったけど、やっと分かった気がする」

 凛音の表情は揺るがない。まるで石像と喋っているかのようだ。

「だからこそ俺は思ったんだよ……なんで、ずっと黙ってたんだ……!」
「……」
「俺なら、すでに悪魔のことを認識してたから、『三世界のバランス』には触れないはずだろうが……」
「……」

 話せば話すほどに、俺の中の何かが、ふつふつとこみ上がってくる。
 凛音は未だ、こちらを静かにみているだけだ。

 だが、次の俺の一言で、その平静は崩れる。

「……凛音が悪魔だって知ったら……俺が、俺たちが離れるとでも思ったのか!」
「……っ」

 図星だったのだろう。凛音は俺から顔をそらし、表情を苦くさせた。
 俺はただ、自分の想いをぶつける。

「そんなわけ、ねえだろっ! ふざけんなっ!」

 ただ、こみ上げる怒りをぶつける。

「お前はな……友達がいねえ俺にとって……身寄りのない俺にとって……」

 そして、伝える。



「大切な、家族なんだよっ!」



 凛音が悪魔だと知ってこみ上げてきたものは、隠していたことに対する悲しみではなく、怒りだった。

 一人で抱え込んで……不安になるくらいため込みやがって……。

 伝えたかった。俺たち家族がいるってことを。
 一人はさびしかった。俺は孤独を知っている。
 だからこそ、俺は一人じゃない幸せを知っている。
 何としてもそのことを、凛音に教えてやりたかった。
 凛音は唇をかみしめ、肩を振るわせ始めた。

 でも、それも一瞬のことだった。

 凛音は自分で頬を思いっきり叩くと、怒気の籠った声を放った。

「一人なんかじゃない……私にはお父さんがいる」

 だが、どうにも機械的にしか聞こえない声で。

「あなたたちを家族と思ったことは無い。それに、あなたに何かを教わる筋合いも無い」

 いつの間にか『心暴』を使われていたのだろうか。俺の心を読んだ発言をしてきた。

「私は悪魔、あなたは『使徒』……そんな相容れない存在なんだよ」

 凛音は告げながら拳を構え始めた。
 その手には、黒い瘴気――感じからして、恐らく負のエネルギーの塊をまとっていた。

「私は悪魔……闇に潜み、悪に準じる者」

 言葉を言い終えた瞬間、凛音の姿が消える。

 そう頭で理解した頃には、すでに俺の鳩尾に、凛音の拳が入っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...