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第四章
日向の思い
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もう見慣れてしまった空間。順応するっていうのは本当に怖いものだ。
最初は不可解そのものだったのに、今ではあるのが当然のように思える。
何の変哲もない夕暮れの公園、いや、半透明の壁――『魔の封陣』によって囲まれ、世界から隔絶された公園。
そして、公園の中心。俺の視線の先には、そこに凛音が立っていた。
服装はがらっと変わっており、ただただ黒い、衣装をまとっていた。
表情は全く読み取れない。凛音はただ静かにこちらを見ていた。
「凛音……」
「お、やっと主役の登場じゃないか」
凛音が立つ少し奥の方。その場所にそびえたつジャングルジムの頂点に、二十代くらいの風貌の青年が一人胡坐をかき、座っていた。
今何か言ったのは……こいつか。
男は微笑みながら話してくる。
「はじめまして、『剣聖の使徒』! 俺の名前はヴァルゴ。で、その娘の名前は夢崎凛音……本名をリヴィアと言ってね、俺の子どもだ。まあ、よろしく」
ヴァルゴとやらは、その妙に癇に障る爽やかな声でそう言った。
「ま、君も気づいているとは思うけど……俺たち、悪魔なんだわ。ま、主に君たちみたいな『使徒』を狩りまくってるんだけど……まさか、凛音のご友人が『使徒』だったなんて、いやいや、びっくりだね――」
「うっせえ、ちょっと黙ってろ」
「――って、うおう……」
俺は無意識に苛立ちを、言葉に乗せてしまった。だが、今はそんなこと気にもならない。
「後にしてくれ、俺は今、やりたいことがあるんだ」
「……あそう? じゃ、お先にどうぞ」
軽い文句でそう言うと、ヴァルゴはそのまま寝そべってしまった。
俺はその姿を視界から除き、凛音と向き合った。
「……なあ、凛音」
「……」
「俺さ……腹が立ってんだよ、何でか分かるか?」
「……」
一度自分の気持ちを吐露し始めたら、言葉が洪水のように俺の口からあふれ出てきた。
凛音は何も言わない。
「確かに悲しかったよ……凛音が悪魔だって分かったことは」
「……」
「最近何か様子がおかしかったけど、やっと分かった気がする」
凛音の表情は揺るがない。まるで石像と喋っているかのようだ。
「だからこそ俺は思ったんだよ……なんで、ずっと黙ってたんだ……!」
「……」
「俺なら、すでに悪魔のことを認識してたから、『三世界のバランス』には触れないはずだろうが……」
「……」
話せば話すほどに、俺の中の何かが、ふつふつとこみ上がってくる。
凛音は未だ、こちらを静かにみているだけだ。
だが、次の俺の一言で、その平静は崩れる。
「……凛音が悪魔だって知ったら……俺が、俺たちが離れるとでも思ったのか!」
「……っ」
図星だったのだろう。凛音は俺から顔をそらし、表情を苦くさせた。
俺はただ、自分の想いをぶつける。
「そんなわけ、ねえだろっ! ふざけんなっ!」
ただ、こみ上げる怒りをぶつける。
「お前はな……友達がいねえ俺にとって……身寄りのない俺にとって……」
そして、伝える。
「大切な、家族なんだよっ!」
凛音が悪魔だと知ってこみ上げてきたものは、隠していたことに対する悲しみではなく、怒りだった。
一人で抱え込んで……不安になるくらいため込みやがって……。
伝えたかった。俺たち家族がいるってことを。
一人はさびしかった。俺は孤独を知っている。
だからこそ、俺は一人じゃない幸せを知っている。
何としてもそのことを、凛音に教えてやりたかった。
凛音は唇をかみしめ、肩を振るわせ始めた。
でも、それも一瞬のことだった。
凛音は自分で頬を思いっきり叩くと、怒気の籠った声を放った。
「一人なんかじゃない……私にはお父さんがいる」
だが、どうにも機械的にしか聞こえない声で。
「あなたたちを家族と思ったことは無い。それに、あなたに何かを教わる筋合いも無い」
いつの間にか『心暴』を使われていたのだろうか。俺の心を読んだ発言をしてきた。
「私は悪魔、あなたは『使徒』……そんな相容れない存在なんだよ」
凛音は告げながら拳を構え始めた。
その手には、黒い瘴気――感じからして、恐らく負のエネルギーの塊をまとっていた。
「私は悪魔……闇に潜み、悪に準じる者」
言葉を言い終えた瞬間、凛音の姿が消える。
そう頭で理解した頃には、すでに俺の鳩尾に、凛音の拳が入っていた。
最初は不可解そのものだったのに、今ではあるのが当然のように思える。
何の変哲もない夕暮れの公園、いや、半透明の壁――『魔の封陣』によって囲まれ、世界から隔絶された公園。
そして、公園の中心。俺の視線の先には、そこに凛音が立っていた。
服装はがらっと変わっており、ただただ黒い、衣装をまとっていた。
表情は全く読み取れない。凛音はただ静かにこちらを見ていた。
「凛音……」
「お、やっと主役の登場じゃないか」
凛音が立つ少し奥の方。その場所にそびえたつジャングルジムの頂点に、二十代くらいの風貌の青年が一人胡坐をかき、座っていた。
今何か言ったのは……こいつか。
男は微笑みながら話してくる。
「はじめまして、『剣聖の使徒』! 俺の名前はヴァルゴ。で、その娘の名前は夢崎凛音……本名をリヴィアと言ってね、俺の子どもだ。まあ、よろしく」
ヴァルゴとやらは、その妙に癇に障る爽やかな声でそう言った。
「ま、君も気づいているとは思うけど……俺たち、悪魔なんだわ。ま、主に君たちみたいな『使徒』を狩りまくってるんだけど……まさか、凛音のご友人が『使徒』だったなんて、いやいや、びっくりだね――」
「うっせえ、ちょっと黙ってろ」
「――って、うおう……」
俺は無意識に苛立ちを、言葉に乗せてしまった。だが、今はそんなこと気にもならない。
「後にしてくれ、俺は今、やりたいことがあるんだ」
「……あそう? じゃ、お先にどうぞ」
軽い文句でそう言うと、ヴァルゴはそのまま寝そべってしまった。
俺はその姿を視界から除き、凛音と向き合った。
「……なあ、凛音」
「……」
「俺さ……腹が立ってんだよ、何でか分かるか?」
「……」
一度自分の気持ちを吐露し始めたら、言葉が洪水のように俺の口からあふれ出てきた。
凛音は何も言わない。
「確かに悲しかったよ……凛音が悪魔だって分かったことは」
「……」
「最近何か様子がおかしかったけど、やっと分かった気がする」
凛音の表情は揺るがない。まるで石像と喋っているかのようだ。
「だからこそ俺は思ったんだよ……なんで、ずっと黙ってたんだ……!」
「……」
「俺なら、すでに悪魔のことを認識してたから、『三世界のバランス』には触れないはずだろうが……」
「……」
話せば話すほどに、俺の中の何かが、ふつふつとこみ上がってくる。
凛音は未だ、こちらを静かにみているだけだ。
だが、次の俺の一言で、その平静は崩れる。
「……凛音が悪魔だって知ったら……俺が、俺たちが離れるとでも思ったのか!」
「……っ」
図星だったのだろう。凛音は俺から顔をそらし、表情を苦くさせた。
俺はただ、自分の想いをぶつける。
「そんなわけ、ねえだろっ! ふざけんなっ!」
ただ、こみ上げる怒りをぶつける。
「お前はな……友達がいねえ俺にとって……身寄りのない俺にとって……」
そして、伝える。
「大切な、家族なんだよっ!」
凛音が悪魔だと知ってこみ上げてきたものは、隠していたことに対する悲しみではなく、怒りだった。
一人で抱え込んで……不安になるくらいため込みやがって……。
伝えたかった。俺たち家族がいるってことを。
一人はさびしかった。俺は孤独を知っている。
だからこそ、俺は一人じゃない幸せを知っている。
何としてもそのことを、凛音に教えてやりたかった。
凛音は唇をかみしめ、肩を振るわせ始めた。
でも、それも一瞬のことだった。
凛音は自分で頬を思いっきり叩くと、怒気の籠った声を放った。
「一人なんかじゃない……私にはお父さんがいる」
だが、どうにも機械的にしか聞こえない声で。
「あなたたちを家族と思ったことは無い。それに、あなたに何かを教わる筋合いも無い」
いつの間にか『心暴』を使われていたのだろうか。俺の心を読んだ発言をしてきた。
「私は悪魔、あなたは『使徒』……そんな相容れない存在なんだよ」
凛音は告げながら拳を構え始めた。
その手には、黒い瘴気――感じからして、恐らく負のエネルギーの塊をまとっていた。
「私は悪魔……闇に潜み、悪に準じる者」
言葉を言い終えた瞬間、凛音の姿が消える。
そう頭で理解した頃には、すでに俺の鳩尾に、凛音の拳が入っていた。
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