シンデレラフィットの異世界で、愛される伯爵夫人を目指していいですか?

帆々

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褪せない花(15)

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「ネロさんがレディ・アリナと親しいのなら、彼女からガイにお願いしてもらう希望があるって、考えているのかも」
「ああ、ユラさんも知っているのか。ネロの噂は」
「ええ。色んな人が言うのを聞いて」

ほんのり笑った。
何も知らないのに。舌が苦くなるような嘘だ。

「レディ・アリナがあんな薄っぺらい若者は本気で相手にしないと、いつ気づくのか。夢中になっているのが、哀れでしかない」
「取り巻きだって聞きました。それはお気に入りだということなのでしょう?」
「レディのお気に入りがころころ変わるのが、社交界だ。本当にレディ・アリナと親しければ、彼女がガイに不正考査を頼むことなどないとわかる」

ジア先生はわたしにグラスを持たせ、たばこを取り出した。くわえて火を点ける。
わたしに断りなど入れない磊落な態度が、ガイとは違い新鮮だった。

「家柄は立派だから、ただの取り巻きにいる分には、レディ・アリナもネロを拒めないのかも知らん」

あの不遜なネロが崇拝する彼女は、取り巻きに夢を見せながら安易に心を許さない。
また、元夫へ不正の橋渡しなど行う人物でもない。

これまでは、ただ美しい社交家としか描けなかった彼女の姿に、今知性と品性が加わった。
より完成した女性として、わたしの中で浮かび上がるのだ。

「とてもお似合いだったと聞きます。ガイと…」

自分で自分をムチ打つような質問だ。

邸の使用人の言だけでなく、彼の親友からの新たな傍証を得て、わたしは何がしたいのか。
傷つくだけ傷ついて、その痛みで恋を殺してしまいたいのかもしれない。

ジア先生は唸るような声を出す。

「俺は今でも意味がわからないんだ。あんな睦まじかった似合いの二人が、なぜ別れたのか。理由は聞いた。意味もわかった。なのに、どうしても納得できない」

首を振りつつの述懐だ。

「互いへの思いが過ぎると、己の心を殺すしかないのかもしれないな」

ジア先生の言葉は、ひどくぴたりとわたしの心にあてはまった。
ガイは、自分の心を殺したのかもしれない。


何となく重い沈黙が続いた。

と、ジア先生がぽんとわたしの肩に手を置く。

「暗い話をしに来たのじゃないだろう。ルードを見ろ。学生を入れ食い状態じゃないか。ちょっとはあれを見習った方がいい」

そう背中を押された。
そして意外な言葉をもらう。

「ガイをそう怖がらなくていい」
「え」

わたしが彼に対して引き気味で、とても遠慮して見えるという。

それはそうかもしれない。
彼の後を追い、都度腕を引くような無邪気な振る舞いは、いつからかわたしの中で消えてしまっている。
それはこちらへの慣れでもあるし、彼への恋を意識し出したためでもあるだろう。

代わりに生まれたのが、微妙な距離だ。
それが、遠慮にも引いた態度にも映るのかもしれない。

「冷たく見えるが、あいつは内に入れた人間には優しい。引き取って暮らすほどだ。ユラさんのことは大事に思っているさ」
「…はい」
「陰気なのが難だがな」
「まあ」

「楽しんでおいで」と、ジア先生は敷物の上にごろりと寝転んだ。
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