忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々

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秘め事

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 ロエルからアリスへ
 
『……洞穴を更に深く掘り、内部を探るのが調査の目的です。土や岩盤の様子で、面白いほどいろんなものが知れるのです。
 
 山の天候は非常に気まぐれで、午前晴れていたと思えば、午後早くに大降りになることもあります。雨は僕の仕事に大敵なのですが、このところよく保ってくれています。あなたがお手紙を下さるからかもしれない。高貴な方は晴れの日も操るのかな……』


 アリスからロエルへ
 
『……母屋の図書室から地図を借りてきました。あなたがいらっしゃるのはどの辺りかと、広げて探しています。急に地図など見たがるから、使用人に不思議な顔をされましたが、ロフィの勉強に使うのだと言っておきました。あの子と一緒に眺めるから、嘘でもありませんわ。

 王都は急に寒い日が続き、そちらはいかがですか? お元気でないあなたを想像できないのですが、お身体が心配ですわ……』

 
 ロエルからアリスへ
 
『……依頼主の縁故である人に招待されました。雨続きで退屈していたからちょうど良かった。上手くないのでこれまで好みませんでしたが、玉突きばかりやっています。僕はもう負け知らずですよ。

 王都の客は珍しいようで、歓待を受けています。社交などさっぱりなのに、地方だと気楽でいいです。誰も僕を知らないから。独身者は妻を探していると決めつけられているのが癪ですが。 

 令嬢方に会いましたが、あなたに似た人はいませんね。黒い髪と藍色の瞳がひどく懐かしい……』



 ロエルから届いた手紙は何度も読み返した。全てではないが、侍女のミントにも見せることもあった。

 アリスは彼が示した場所へ宛てて手紙を送る。ロエルの返事はドリトルン家ではなく、ミントの知人宅へ宛ててもらった。届いたそれはすぐにミントに手渡される手筈になっている。使用人の外出や往来は自由なので、邸内で怪しまれる心配もなかった。

「どういう知り合いなの? 外にお友達がいるの?」

 アリスは忠実な侍女の手回しの良さに驚いている。信用の足る人物とどこで知り合ったのか、ちょっと想像もつかない。

「何てないことですわ。母屋の厨房には色んな業者が用足しにやって来ております。お喋りして素性のちゃんとした者とは仲良くなって、こんな頼み事くらい引き受けてもらうのは容易いのですわ」

 ミントは澄まして応えた。その若者がミントを気に入っていて、気を引こうと一生懸命だということは主人に黙っていた。

「ありがとう。恩に着るわ」

 アリスは胸に手を押し当てる。

「そんなことおっしゃらないで下さいませ。ミントが進んでやらせていただいていることですもの。侍女なら当然の務めでございますわ。それより……、姫さまのお髪と瞳を懐かしいだなんて。印象的なお言葉ですわ。黒髪も瞳の色も高家の珍しい特色ですもの」

「令嬢方と楽しんでいらっしゃるのかも……」

 アリス自身信じていない言葉が口をついた。ミントの手前の恥じらいもあるし、華やかな令嬢たちに囲まれる彼へのもやもやした思いもある。

「まさか。そうであれば、お手紙など書かれませんよ。姫様へ私的な手紙を送るだけで、ロエル様は危険を冒されているのですから」

 ロエルが王都から立った間も二人は手紙のやり取りでつながり続けた。褒められた関係ではないと諫めたレイナの目に触れることもない。それゆえか、彼の手紙は時に熱のこもった言葉が綴られる。

『……あなたにお会いできないのが辛い』

 少し前の彼女なら、それに返事を返すなどできなかったはず。なのに、今はその言葉に瞳を潤ませながら、嬉しく胸で反芻している。

 同じほどの言葉を返すことはしないが、当たり障りのない内容から、少し自身に踏み込んだことも書き込むようになった。

『……舅が風邪を引き、そのお見舞いで久しぶりに夫の顔を見ました。気まぐれでしょうが、ロフィを馬に乗せてやろうと言うのです。つい、あの子は足を痛めていると断ってしまいました。身勝手だったかと後悔しましたが、やはり嫌な気分でした……』

 その返しには、彼女を責めるような言葉が並び、驚かせた。
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