弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

報い

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「エリシアさん! イルンを頼みます!!」

 エイトと魔人が話している間、口を出さずにその状況をじっと見守っていたエリシア。

「わかりました! ですが、お一人で大丈夫ですか!?」

 エリシアの心配は確かにわかる。ベテランの冒険者であったカセレスを殺し、魔物を率いることのできるあの魔人は相当に強いはずだからだ。

「......なんとかやってみます」

 顔だけエリシアに向けて、冷や汗を流しながら引きつった笑顔をしてみせた。


 ところでスキルについてだが、なんと叫ばなくても心の中で唱えれば発動することに気づいた。というかエリシアは無言でスキルを使っていた。

 「スキル名は叫べ!」と酔っ払いながら教えてくれた居酒屋のおっさんを俺は許さない。


 (スキルーー魔眼!)


ディー・ブラッド 132歳

レベル:149
種族 :魔人
職業 :破壊神の しもべ
攻撃力:450
防御力:320
体力 :720
魔力 :1020
敏捷性:250
知力 :300

固有 :麻痺耐性 I・破壊神の加護 I

ユニークスキル:魔眼
コモンスキル :魔力増幅・体術・暗殺術・威圧・闇魔法・毒生成・速度上昇



 わかってはいた。いたのだが、バカ強い。勝てる気がしない。

 こいつにこれから挑もうというのだ。無謀にも程がある。

 体術も暗殺術もあるし、闇魔法ってなんだ? 聞いたことすらない。

 無策でいったら確実に死ぬ。何か方法はーー。

「どうした? 息巻いてるだけでかかってこないのか坊主」

「どのみち俺にはこれしかないか......」

 ボソッと呟いて俺は魔人に向かって走り出した。

 あいつはやはり魔眼を持っていた。だが、俺のスキルはメディアによって偽装されている。その正体には気づかないはず。

 (気づかれたら終わりだな)

「あぁ? 武器も無しに突っ込んでくるとは俺も舐められたもんだな!!」

 ディー・ブラッドの素早い蹴りがエイトを狙う。

 普通ならば避けられない。ましてやレベル2の人間ごときには。

 エイトはこのときすでに空間把握を使用していた。

「そんな蹴りじゃ俺は倒せないぞ、魔人」

 声は震えてビビり散らかしているが、自分の蹴りを避けられたディー・ブラッドは焦りでエイトが恐怖していることには気づかない。

「舐めているのか? 少し避けたくらいで調子に乗るな!!」

 目の前に迫る拳、脇腹に飛んでくるキックを交わして、さらに挑発する。

「もっと本気でかかってこいよ、雑魚」

 (エリシアは!?)

 チラッと横目でエリシアを確認する。

 彼女は気付かれないよう椅子に隠れながら端を移動していた。

「貴様ああ!! 人間の分際で調子に乗るなぁぁ!」

 続けて魔人は闇魔法を使った。手のひらから黒紫の炎が湧き上がり、それを投げ飛ばす。

 なるほど。ファイヤーボールに似ているが、名称が闇魔法なことを考えると他にも別の使い方がありそうだな。

 だが、狙っているのはそれじゃない。

 俺がビビリながらもずっと奴を挑発していた理由。もちろんエリシアに目がいかないようにというのもあるが。

「くっ......!」
 
「ガハハ、ここまで避けられるとは。やはり何かスキルを隠しているな? だが、これで終わりだ」

ーーシュッ!

 ディー・ブラッドが突然、目の前から姿を消した。

 おそらく速度上昇と暗殺術を組み合わせたのだろう。

 一瞬にして背後に周ったそいつは俺の首を狙って確実に殺しにかかる。

 毒を仕込んだナイフでーー。

「さすがにこれは避けられないだろ!!」

 が、それも当然視えている。

 そして今だ!

 (スキルーー空間把握!)

『スキルを取得しますか?』

 ではなぜ俺が自分より遥かに強い魔人を震えながら、煽って挑発していたのか教えよう。

 答えはあらゆるスキルを使わせるため。

『以下のスキルを取得しました』

-体術
-暗殺術
-闇魔法
-毒生成
-速度上昇


「ほほう! これもかわすか! わかったぞ、お前のスキルは予測、あるいは未来予知だな?」

 鬼の首を取ったようにニヤリと微笑む。

「わかったところでなんだ。攻撃はすべて避けてやる。俺は殺せないぞ」

「いや、殺せるさ。お前のレベルじゃもうすぐ魔力が尽きるだろ? 逃げ回っているところを見るに攻撃手段もないだろうしな。ここで終わりだ」

 悔しいが、奴の言っていることは正しい。

 この世界の魔力消費について説明しよう。まず、スキルよりも魔法の方が魔力を消費する。そしてレベルが低い場合、スキル使用による魔力消費は抑えられる。

 俺が少ない魔力で空間把握を連発できている理由はそれだ。

 しかし今回の戦闘では使いすぎているため、スキルを使えてもせいぜいあと二回が限界だろう。

「くくく、あっははっは! 確かにその通りだよ魔人」

「何がおかしい? 気でも触れたか?」

 (スキルーー暗殺術、速度上昇)

『スキルを組み合わせますか?』

 俺の予想が正しければ、

『以下のスキルを取得しました』

-超加速(擬似)

 こうなる。

「死ぬのはお前だ、ディー・ブラッド。俺の大事な人たちを傷つけた報いを受けろ」

「は?......なぜ俺の名前を。まさか魔眼! 確かにスキルは一つだったはず。ということは複数のスキルを隠し持っていたのか!?」

「今さら警戒したところで遅い」

 (スキルーー超加速!)

 一回目のスキル使用。油断していたディー・ブラッドの眼前に一瞬で移動する。

ーーブチブチッ!

「ぐっ......があっ!」

 エイトのレベルで超加速を使用すれば当然、筋肉は千切れ、悲鳴を上げる。だが、今は知ったこっちゃない。

 逆手で折れたナイフを持って構える。

 ダンジョンのミノタウロス戦で折れたサバイバルナイフ(短剣)をしっかりと回収していたエイト。これ高かったからね。

 しかしディー・ブラッドも並のレベルじゃない。ましてや魔人の彼は、顔を狙ったその攻撃を反射だけでかわす。

ーーズザザッ

 その場で倒れ込むエイト。もう足は動かない。

「はあっ、はあっ」

「残念だったな。一瞬、焦ったがもう終わりだ。しかもその折れたナイフで俺を殺せると思ったのか? 無理だろ、ガハハハ!」

「はあっ、言っただろ、はあっ、終わるのはお前だ」

 そして二回目のスキル使用。

「あぁ? 強がんなよ、お前がつけたのはかすり傷......ぐっ、があっ! なにをした!!」

 俺の攻撃はわずかに奴の頬を掠っていた。

「ーー毒だよ、お前のスキルのな」

 スキルーー毒生成。

 エイトの狙いは最初からこれだった。

 どれだけ強い攻撃スキルがあってもエイトのレベルや技術ではこいつに敵わない。

 ただ、毒ならどうだ? 

 ましてや毒生成ならある程度の強い毒を生み出すことも可能になる。

「そうか......わかった......ぞ。お、まえ......スキルを、盗める......」

 口から血を流し、苦しそうにもがいてはいるがまだ余裕はありそうだ。

 まあ、この程度じゃ死にはしないか。

「関係ないだろ、とっとと死ね」

ーーグサッ

 首元から鮮血が勢いよく飛び出した。

 ミノタウロスの時は苦労したのに経験値が入らなかったからな。今度はちゃんと自分の手で殺す。

「しかし、なんでだろうな。目の前にいるこいつはカセレスさんじゃないのに......少し悲しいな」

 予想だにしない涙がこぼれ出た。


ーーピコン!

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

......


 自分より遥かに強い魔人を倒したため、しばらくレベルアップの音声が止まることはなかった。

「はぁ~っ、ノイローゼになりそう......」

 俺が戦っている間にエリシアがイルンを回収してくれたし、なんとかなったな。

 親指を立てて遠巻きに合図してくれたが、イルンは無事なようだ。

 (今すぐイルンの元に駆けつけたいけど、この足じゃなあ)

 そんなことを呑気に考えていると、目の前で死んでいるディー・ブラッドから黒い煙が溢れ出し、全身を覆い始める。

「最悪だ......まさか復活でもするんじゃないだろうな?」

 しかしそこまで運は悪くなかったようで、奴はそのまま跡形もなく消えてしまった。

 ダンジョンの中の魔物は死んだら消えるシステムだが、あれと同じだろうか?

ーーカランッ!

 消えた魔人から何かが落ちる。

「これは......なんだ」

ーーバタッ

 俺はそのまま気を失ってしまった。
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