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第24話:合同文化祭のはじまり

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 青幻高校のグラウンドは、大層賑わっていた。
 それも当然で、今日は鳥里とりさと高校との学園交流祭――そのうちの最後のイベント、合同文化祭だ。

 そして、連理一行は来るべき『事件』に対処するための準備をしていた。
 はずだった。

「これうまいっすね!」
「ありがとうございます!」

 グラウンドの露店で販売されていたクレープをニコニコで頬張っているのが、青葉あおば連理れんりである。
 そして、その隣で苦笑いを浮かべながらクレープをしょくしているのが高橋たかはし零夜れいやである。

「うん、うまいな……」
「ありがとうございます!」

 零夜の言葉に、生徒も嬉しそうに勢いよく頭を下げた。

「どうしたんだ、そんな顔して」

 すると、浮かない顔をする零夜に、連理が質問した。

「まずクレープという選択肢が意外なのは一つあるんだが」
「それは別にいいだろ」

 連理がクレープを片手に真顔で返す。

「それ以外にも、普通に文化祭を楽しんでるみたいだから、少し拍子抜けでな」
「……嫌だったか?」

 今度は真面目な言葉を放った零夜に、連理もそう問うた。

「いいや、いつも通りみたいで安心したよ」

 少し呆れながらも、零夜は小さく笑った。

「せっかくの楽しいイベントなんだから、十分楽しまなくちゃと思ってな。それに、すでに準備は尽くしたんだ。まだ何も起きてないのにピリピリしてもしょうがないだろ?」
「一理あるな」

 そう言って零夜もクレープを頬張った。

「あとは……明里さんと天音さんと合流できれば完璧なんだけどなぁ。まだ連絡つかないな」
「既にみんなに連絡してたのか早いなおい」

 零夜が連理の行動力に驚愕している間に、ダンジョン側から大きな声が聞こえてきた。

「キャー!」

 その言葉を聞くと、零夜はもちろん、連理も顔色を変えた。
 二人は顔を見合わせ、声が聞こえた方角に走り出した。

 ◇

 そうして二人がやってきた場所に居たのは――

「えっと、何してんの明里さん」

 そう、小鳥遊たかなし明里あかりだったのだ。
 知らない女子生徒三人と共に居た彼女に対し、零夜は困惑気味に声をかけた。

「え? お化け屋敷探索だけど」

 それに対し、きょとんとしながら明里は返す。

「あー怖かった。怖すぎて途中で出てきちゃったもん」
「でも全然行けたってー。最後まで楽しめなかったじゃん!」
「だから大丈夫だって言ったのにー」

 明里はけらけらと笑いながら三人と話していた。

 どうやら、先程の悲鳴の正体はお化け屋敷に行っていた生徒のものだったようだ。

「それで、そっちは明里ちゃんの友達?」
「うん、そだよー。青幻せいげん学園の人」
「へぇ、そうなんだ。あ、こんにちは~」

 小綺麗でさっぱりした見た目をしている女子生徒が、零夜と目が合うと軽く挨拶した。

「あ、どうも……」
「こんちゃー」

 ビビる零夜に対し、連理は臆せず笑顔で挨拶をした。

「そういえば、ダンジョン内部にもお化け屋敷があるんだったな……ダンジョン探索部として、セットアップを手伝ったっけか」

 連理が記憶を探りながら呟いた。
 ダンジョン内部では通常ではできないようなレクレーションが可能だ。

 そのため、複数の生徒がダンジョン内部での出し物を出願したのだ。

「こういうのは全部探索部の管轄なのか?」
「おう、ダンジョン内部のことは基本的にウチを通さないとだからな。本来なら魔物だって居るし、スポーン防止用の魔道具の手配とか、出し物ができる安全な場所の確保も必要だろ?」
「その判断は確かに一般人だけでは難しいな」

 なるほど、と零夜は頷く。

「まあ、そのせいで裏では激務になったんだけど」

 連理ががはは、と乾いた笑いを漏らした。

「ご、ご苦労さまだな……」
「はっはっは、まあその分本番はある程度自由にさせてもらったからいいんだけどな」

 連理は笑いながら言った。

「それじゃ、私友達来たからそっち行くね。ばいば~い」

 連理と零夜が話している間に、明里も別れの挨拶を済ませたようだった。

「そっか、じゃあね~」
「ばいばい~」

 明里は彼女たちに別れを告げると、連理と合流した。

「……そういえば、あの人達とはどこで会ったんだ?」
「ん? もともと友達一人と一緒にグラウンドで射的やってたんだけど、そこで二人一緒になって、それから三人で回ってたって感じだね」
「ああ、そういう……」

 零夜は彼女のコミュニケーション能力に驚愕しながら、引きつった笑みを浮かべていた。

「よし! それじゃあ、今からメイド喫茶行こう!」

 すると、明里は唐突にそんなことを言い出した。

「え?」
「おん?」

 零夜はともかく、流石の連理まで困惑の声を上げていた。

「だってメイド喫茶とか文化祭名物でしょ? しかも、青幻せいげん学園の人たちも居るメイド喫茶なんだよ? そりゃあ、気になるよね?」

 当然、とでも言いたげな声色で明里はまくしたてる。

「よし、俺はここで帰る。みんなまたな」

 そう言って踵を返した零夜の腕を、明里はガシッと掴んだ。

「ふっふっふ、そう言うってことは分かってたから、逃さないよ? 一番面白そうな反応してくれる人を
、逃がすわけないじゃん?」
「い、いやそんなところ行けるわけないだろ! 知ってる人に見られたら恥ずかしくて死ぬぞ!」

 ぐぐぐ、と明里の腕を引き剥がそうとしながら零夜は叫んだ。

「大丈夫大丈夫、みんなで行けば怪しまれないって!」

 無理矢理にでも連れて行こうとする明里をよそに、連理が零夜の目の前に立った。

「連理! 助けてく――」
「俺も居るんだから安心しなっ! メイド喫茶だって行けるさ!」

 どことなく聞き覚えのあるセリフを吐きながら、連理はぐっと親指を立てた。

「お前それ――今じゃないだろー!」

 零夜が叫んでいると、横からいつも通りの冷徹な声が聞こえてきた。

「何やっているんですか、お三方は」

 若干肩で息をしているところを見るに、さっきの悲鳴を聞いて走ってきたのだろう。

「あ、天音ちゃん! 今からね、メイド喫茶行こうって話してたの」
「俺は行きたくないって話をしていたんだ!」

 二人は腕を引っ張り合いながら、天音に対してそう発言した。

「……えーっと、まず腕を離しましょうか」

 天音は二人に歩み寄ると、明里の腕を掴んで、優しく引き離した。

「しょうがないなぁ」

 口を尖らせながらも、明里は零夜から手を離した。

「楽しむのはいいのですが……流石に目立っているので場所を変えましょうか?」

 天音は苦笑しながら、四人に目線を向けている周囲の生徒たちをちらりと見た。

 ◇

「なんだかんだ、合流してしまいましたね」

 まだ人通りの少ないダンジョン内のある通路で、天音は三人に向き直った。

「ん、俺は一応集まろうとしてたけどな」
「ですが、本来はもう少し後に集合する予定だったでしょう? それまでは自由時間の方がいいかと思いましたので」

 もう少し後というのも、もともとはステージでの公演の時間に集合する予定だったのだ。
 肝心のステージについては、前に四人で話し合った段階では建設途中とのことだったが、天音が見てきたところ、しっかりと完成していた。当然、他の準備も終わっているようだった。

 ちなみに集合時間がステージ公演の時間だったのは、その時間に事件が起こると予測しているからだった。
 不審な魔道具もステージ裏に集中している上、ダンジョン内部に人が集まるなら、どさくさに紛れて騒ぎも起こしやすいだろうとの考えだ。

「そうだな。でもま、最近はこの四人で集まることも多かったし、必然なのかもな」
「ていうか、私も後でみんなと回ろうと思ってたしねー。ちょうどいいかな!」
「――いいですね、じゃあどこ行きますか?」

 天音は緊張がほぐれたような、いつもより優しい笑みを浮かべた。

「メイド喫茶!」

 しかし、明里が天音の言葉に対して即答でそう提案した。

「よし、俺は――」

 さらに、零夜がくるりと踵を返す。

「……メイド喫茶はやめましょう? せっかくダンジョン内部に居るんですから、ここの中か、ダンジョンを出てすぐの場所を回りませんか?」

 論争が始まる前に、天音が苦笑しながら二人を制した。

 ――
 ――――

 それから、四人は劇が始まる前に色々なところを回った。
 魔術の射撃ゲームができるものだったり……

「全然当たんないー!」
「よし、全弾命中ですね」
「お客さん凄いですね!」

 はたまた、ダンジョン内部にある、生徒が作ったフォトスポットに明里が全員を連れ込んで写真撮影をしたり――

「みんな笑って~! 零夜くんも笑って~! はい、チーズ!」

 そんなことをしながら時間は過ぎていき、一同は昼食も取り終えたところで、ステージ公演の時間が始まった。

 ◇
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