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第35話:殺し合い
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「死ね」
ケテルの持つ銃の引き金が引かれそうになったその時、突然大きな雷のような音がした。
バチンという何かがショートしたかのような危うさを感じる音とともに、その青色の雷はケテルに命中した。
それは天音にとっても見覚えのある攻撃で――つまりは、連理の武器によるものだった。
「なっ――」
何が起きたか理解できず、ケテルは顔を歪める。
来る攻撃に備えようにも全身が痺れたかのようにうまく体が動かなかった。
アークキャスターのサブ射撃による動作停止だ。
「案外簡単にかかってくれたなっ! 《フラクティオパイル》ッ!」
気がつけば連理は高速でケテルの眼の前に移動しており、肘につけた黒い杭の武装が赤く輝いていた。
「舐めるなよっ!」
しかし、ケテルは無理やり自身の体を動かし、射出された杭を剣で弾いた。
赤い火花が散り、甲高い金属音が鳴り響く。
流されたその杭は地面突き刺さり、大きな砂埃を上げた。
「くっ!」
そのせいで連理は少し体勢を崩すが、ケテルは軽やかな身のこなしで後退した。
一見チャンスにも見えるが、状況把握ができていない今攻撃するのは分が悪いと思ったのだろう。
「――探知魔術の合間を縫われたか。ほんとうに面倒なヤツらだ」
今度は本気の憎しみのようなものが籠もった声色で、ケテルは吐き捨てた。
「よう、ようやく俺等に向けてその顔しやがったな。今からそのツラボコボコにしてやるから覚悟しな」
射出された杭をセットし直した連理は、パッパッと防具についたホコリを払ってから、ケテルに啖呵を切った。
「……まったく、青幻学園の連中は全員『煽り』のスキルでも持っているのか?」
肩をすくめ、皮肉っぽくケテルは言った。
「あんたほどじゃない」
「わたしはキミたちと違ってスキルになんか頼っていないがね」
「でも他の何かに頼ってるのは変わりないだろ? ――ほら、あの『主君』とかよ」
ニヤリ、と笑って連理が返すと、ケテルの顔から表情が消えた。
「……話は終わりだ」
腕を捲り、手の甲についた銀色の装備で自身の刃を研ぐように剣を沿わせながら、ケテルは言った。
ギャリギャリという金属音と、散る火花がこれから起こる激戦を暗示しているようにも見えた。
「――ほら、立って」
連理の後ろ側、天音の居た場所からそう声がした。
「え……」
明里は、倒れ込んだ天音に対して手を差し伸べていた。
「後でたっぷり叱ってあげるから、今はまず戦って。分かった?」
有無を言わさぬ物言いで、手を取れと動きで催促する明里。
「は、はい……」
困惑気味に明里の手を取り、天音は立ち上がった。
「それでいいの。またよろしくね」
同じ目線で天音の顔を見ると、明里はパッと笑顔を見せた。
「よ、よろしくお願いします――あとその、ごめんなさい」
天音はどこかいたたまれない様子で謝った。
自分自身、みんなに迷惑をかけるようなことをした自覚はあるのだろう。
もともと勝手な行動だった上、本来一人野垂れ死ぬ予定だったのが、他三人に助けられたから。天音から見れば、かなり迷惑を掛けている状況なのは間違いない。
だがそれよりも――一番の理由は、明里のあの純粋な瞳を裏切れなかったからなのかもしれない。
「俺も言いたいことは山ほどあるが、今は戦って欲しい。あの兵器だって今は動かせないしな――だから全員で戦う方が、より多くの人を救えるはずだ。もちろん、あんた自身も含めてな」
零夜はナイフを構えながら、横目で天音を見てそう伝えた。
「そう、ですね。分かりました」
天音も一瞬瞑目し、決意を宿したような瞳で承諾した。
「俺からも、まず傷は早く治した方がいいぞ。それから陣形を組んで援護を頼む――あと、無理はするなよ。行動不能になったらこっちが困るからな」
連理は天音と目を合わせないまま言った。
『……ツンデレ?』
「おいうるせぇぞ同級生アカウントくらい分かるからな」
連理はそのコメントを送った視聴者のアカウントを見て、カメラを指差しそうまくし立てた。
『www』
「いつまでお遊び気分のつもりだ? これは『殺し合い』なんだぞ」
ケテルはゆっくりと三人に対して間合いを詰めながら言い放った。
「気をつけてください。皆さんも見たと思いますが、彼女は銃器を持っています――それと、どうやら今は未知の技術によりダンガーが無効化されているようです」
「! ――様子がおかしいと思ったら、ダンガーが動いてないのか」
連理は驚いた様子でうなずき、より警戒を強めた。
コメントの表示も消し、余計な情報をなくして戦闘に集中する。
ここからは『殺し合い』なのだから。
「速度も、防御力も、攻撃力も桁違いです。気をつけてください」
「分かった分かった。お前は一旦回復しろ」
「……はい」
無理やり休憩することを推奨した連理に対し、天音は俯きがちに返事をした。
それから、一歩下がった場所で自身に向けて回復魔術を使用し始めた。
自身への回復魔術使用は効果が弱い上難しいが、応急処置程度なら可能だ。天音は軽い治療を済ませたら復帰するのだろう。
「やはり、ヒーラーはその小娘か。もっと早く殺しておけばよかったな」
そう言ってケテルは拳銃に手を掛けようとしたが、姿勢を低くして突進の体勢を取った明里を見て、手を引いた。
おそらく、使い慣れていない拳銃をこの至近距離、かつ明里の眼の前で使うのは不利だと考えたのだろう。
それに、拳銃を持てば魔術だって使いにくくなるだろう。
ケテルは慣れた戦闘スタイルで四人に挑むようだ。
「おうおう、でももう後悔しても遅いぜ」
「言ってくれるじゃないか」
ケテルはそういうと、大地を蹴った。
「っ――」
連理は一瞬その動きについていくことができず、反応が遅れた。
手に装着している展開型の盾を使おうと思ったが、その時にはすでに眼の前にはケテルの凶刃が迫っていたのだ。
避けられない。
そう思った瞬間、ギャリギャリと金属同士が擦れるような甲高く耳障りな音が鳴り響いた。
「させないっ!」
「チッ――」
明里が手袋についた刃でケテルの剣を受け流したのだ。
さらにケテルはそのまま流された剣を、明里の方に向けて横薙ぎに振るった。しかし、明里はそれを屈むことで避け、至近距離でケテルにショットガンをぶっ放した。
それも、彼女の着ているローブの間を縫うように。
ケテルは防御用の魔術障壁を展開しようとするが、流石にこの距離では間に合わない。
「ぐっ――」
それを受け、ケテルは苦痛に顔を歪めながら一歩下がった。
『あのローブに攻撃してもあまりダメージが通らないのではないか』と半ば直感的に予想した明里の行動は、間違っていなかったようだ。
「俺ももういっちょ!」
連理も声を上げ、炎の剣を構えて前に出て袈裟にそれを振るう。
「バカめっ!」
ケテルは横に移動してそれを避けた。もともとケテルの頭身が低いこともあり、連理の剣は簡単に避けられてしまう。
そして、ケテルの剣が燃え滾るような深い赤色に輝く炎をまとった。蓮華のよくやるような、剣に対する魔術付与だろう。
そして、その剣を連理に向け真下から大きく振り上げた。
しかし、連理も臆せず展開式の盾を使って防御する。
「ぐっ――」
だが、そのあまりにも重い攻撃によって、連理は地面を擦りながら後退し、体勢を崩す。
それからケテルが手をかざすと、魔術によって鋭い氷の柱が生成され、連理に向けて飛来した。
連理に当たるかと思われた時、明里が間に割って入り、無理やりそれを蹴って撃ち飛ばした。
さらに、油断していると思われたケテルの後ろに零夜が出現し、ナイフを振るう。
しかし、一瞬でそれに気付いたケテルはそれを回避した。同時に、回転するような動きで零夜の方に体を向け、そのままの勢いで剣を振るう。
零夜はそれをナイフで受け流そうとするが、力の差があったためにうまく軌道をずらせず、腕に裂傷を負った。
「くそっ――」
零夜は激痛に耐えながら、その後の追撃を警戒しながら一気に後退した。
「スキルは魔力の動きが分かりやすくて助かる――なっ!」
今度は、後ろからフラクティオパイルによる攻撃を狙っていた連理に向けて、ケテルはナイフを振る。
しかし、連理も負けじと盾で無理やり耐えながら、攻撃を続けようとした。
体勢を崩すことや、ケテルの追撃すらも厭わない、覚悟の決まった瞳だった。
「二度目はかからないぞ!」
ケテルが連理の肘についたフラクティオパイルに向けて氷を展開し、一時的に使用不能にする。
横からショットガンを持った明里に向けて、無数の氷の棘がついた壁を展開し、攻撃と同時に余計な横槍を防ぐ。
「いてっ――連理くん!」
その状態で炎によって強化された剣を、ケテルは振るおうとした。
ニヤリ、とケテルの口が歪んだ。
「まっずいな!?」
流石の連理も冷や汗を浮かべ、苦笑いとともに大ダメージを覚悟した。
「まずはひと――」
そこまで言ってから、ケテルは大きく上方向に跳んだ。
次の瞬間、ケテルの居た場所に攻撃の応酬がやってきた。
天音が先程使った雷の魔術に加え、正体不明の紫色の雷のような、光線のような魔術らしき攻撃。
加えて、上に跳んだケテルに向けて無数の魔術弾が飛来した。淡く黄色に光る本物の銃弾にも似たそれを、ケテルはすべて剣で弾いた。しかし、今度は着地先を見極めていなかったのか、表情を歪めた。
風魔術でどうにか連理たちが居ない場所に着地しつつ、ケテルは周囲を観察する。
「おいおい、今のはなんだ?」
「私も攻撃に参加はしましたが――それだけではないように見えました」
応急処置を施した天音が、連理の横に立った。
「……今度はおまえか。どこに行ったかと思えば」
「いやー、遅れてごめんねーみんな……というか、今の全部避けるとかマジでバケモンすぎるでしょ。どうやって勝てばいいのさ」
連理たちが居る通路とは逆方向から、秋花の姿が現れた。
彼女は黒い鉄のような素材でできたいくつものアーティファクトをそのへんに放り投げながら、困ったように自身の頬を掻いた。
「言ってくれる。どうせ勝てる算段はあるのだろう?」
「――まぁね~」
ケテルの言葉に、ワンテンポ置いてから秋花はふっと笑った。
「忌々しい、ああ忌々しい。これじゃあどうにもならないじゃないか」
吐き捨てるようにしながら、ケテルは目を瞑ってこくこくと頷いた。
次の瞬間、懐に手を突っ込んだ。
「あっ――!」
ケテルは懐から拳銃を取り出し、トリガーを引く。
明里が阻止しようとするが、しかし一瞬反応が遅れてしまった。
そして轟音が鳴り響き、死の弾丸が天音のもとへ向かう。
がしかし、それは出現した五重もの黄色の障壁によって阻まれた。
うち二枚は銃弾によって破壊されたが、当然天音には一切ダメージは通っていない。
「事前に詠唱しておいてよかったです。どうせ、そんなことをしてくると思っていたので」
どうやら、秋花とケテルが話していた短い間に、そのことに気が付き詠唱を行っていたようだ。
スキルを発動していたのもあるかもしれないが、流石の判断力と言えるだろう。
同時に、明里もケテルの近くまでやってきており、いつでも攻撃できる状態だ。
「ほんとうに忌々しいな――まあいい。どうせ装置さえ起動できれば、わたしの勝ちなのだから」
ケテルはそう言うと、真上に拳銃を放ってから、最初姿をくらましたときのように煙を発生させた。
「あっ、まてーっ!」
明里は先程までケテルが居たショットガンを発射するが、全く手応えがない。
「一体どこへ――」
天音も二度目だということでなんとなく相手の気配は察知できるのだが、自身も煙に包まれているせいで感覚が混乱してしまっていた。
そうして霧が晴れた頃には、ケテルの姿はどこにもなかった。
「こりゃマズいね――さっさと作戦会議を始めようか。あと、みんなは聞きたいことも沢山あるだろうからね」
秋花は四人に近づくと、真剣な表情でそう述べた。
◇
~あとがき~
そろそろ良い展開になってきましたね。
文字数的にも終盤戦……楽しんでいただけているでしょうか?
……なんで火曜日に更新しているかについては聞かないでください。
まさか2日連続で更新を忘れるとは思っていませんでした。原稿自体は日曜の時点でできていたのですがね。
最後まで読んでいただいた感謝とともに、謝罪の言葉をお伝えしようと思います。
すいませんでしたァ!
次回もよろしくお願いしまァす!
ケテルの持つ銃の引き金が引かれそうになったその時、突然大きな雷のような音がした。
バチンという何かがショートしたかのような危うさを感じる音とともに、その青色の雷はケテルに命中した。
それは天音にとっても見覚えのある攻撃で――つまりは、連理の武器によるものだった。
「なっ――」
何が起きたか理解できず、ケテルは顔を歪める。
来る攻撃に備えようにも全身が痺れたかのようにうまく体が動かなかった。
アークキャスターのサブ射撃による動作停止だ。
「案外簡単にかかってくれたなっ! 《フラクティオパイル》ッ!」
気がつけば連理は高速でケテルの眼の前に移動しており、肘につけた黒い杭の武装が赤く輝いていた。
「舐めるなよっ!」
しかし、ケテルは無理やり自身の体を動かし、射出された杭を剣で弾いた。
赤い火花が散り、甲高い金属音が鳴り響く。
流されたその杭は地面突き刺さり、大きな砂埃を上げた。
「くっ!」
そのせいで連理は少し体勢を崩すが、ケテルは軽やかな身のこなしで後退した。
一見チャンスにも見えるが、状況把握ができていない今攻撃するのは分が悪いと思ったのだろう。
「――探知魔術の合間を縫われたか。ほんとうに面倒なヤツらだ」
今度は本気の憎しみのようなものが籠もった声色で、ケテルは吐き捨てた。
「よう、ようやく俺等に向けてその顔しやがったな。今からそのツラボコボコにしてやるから覚悟しな」
射出された杭をセットし直した連理は、パッパッと防具についたホコリを払ってから、ケテルに啖呵を切った。
「……まったく、青幻学園の連中は全員『煽り』のスキルでも持っているのか?」
肩をすくめ、皮肉っぽくケテルは言った。
「あんたほどじゃない」
「わたしはキミたちと違ってスキルになんか頼っていないがね」
「でも他の何かに頼ってるのは変わりないだろ? ――ほら、あの『主君』とかよ」
ニヤリ、と笑って連理が返すと、ケテルの顔から表情が消えた。
「……話は終わりだ」
腕を捲り、手の甲についた銀色の装備で自身の刃を研ぐように剣を沿わせながら、ケテルは言った。
ギャリギャリという金属音と、散る火花がこれから起こる激戦を暗示しているようにも見えた。
「――ほら、立って」
連理の後ろ側、天音の居た場所からそう声がした。
「え……」
明里は、倒れ込んだ天音に対して手を差し伸べていた。
「後でたっぷり叱ってあげるから、今はまず戦って。分かった?」
有無を言わさぬ物言いで、手を取れと動きで催促する明里。
「は、はい……」
困惑気味に明里の手を取り、天音は立ち上がった。
「それでいいの。またよろしくね」
同じ目線で天音の顔を見ると、明里はパッと笑顔を見せた。
「よ、よろしくお願いします――あとその、ごめんなさい」
天音はどこかいたたまれない様子で謝った。
自分自身、みんなに迷惑をかけるようなことをした自覚はあるのだろう。
もともと勝手な行動だった上、本来一人野垂れ死ぬ予定だったのが、他三人に助けられたから。天音から見れば、かなり迷惑を掛けている状況なのは間違いない。
だがそれよりも――一番の理由は、明里のあの純粋な瞳を裏切れなかったからなのかもしれない。
「俺も言いたいことは山ほどあるが、今は戦って欲しい。あの兵器だって今は動かせないしな――だから全員で戦う方が、より多くの人を救えるはずだ。もちろん、あんた自身も含めてな」
零夜はナイフを構えながら、横目で天音を見てそう伝えた。
「そう、ですね。分かりました」
天音も一瞬瞑目し、決意を宿したような瞳で承諾した。
「俺からも、まず傷は早く治した方がいいぞ。それから陣形を組んで援護を頼む――あと、無理はするなよ。行動不能になったらこっちが困るからな」
連理は天音と目を合わせないまま言った。
『……ツンデレ?』
「おいうるせぇぞ同級生アカウントくらい分かるからな」
連理はそのコメントを送った視聴者のアカウントを見て、カメラを指差しそうまくし立てた。
『www』
「いつまでお遊び気分のつもりだ? これは『殺し合い』なんだぞ」
ケテルはゆっくりと三人に対して間合いを詰めながら言い放った。
「気をつけてください。皆さんも見たと思いますが、彼女は銃器を持っています――それと、どうやら今は未知の技術によりダンガーが無効化されているようです」
「! ――様子がおかしいと思ったら、ダンガーが動いてないのか」
連理は驚いた様子でうなずき、より警戒を強めた。
コメントの表示も消し、余計な情報をなくして戦闘に集中する。
ここからは『殺し合い』なのだから。
「速度も、防御力も、攻撃力も桁違いです。気をつけてください」
「分かった分かった。お前は一旦回復しろ」
「……はい」
無理やり休憩することを推奨した連理に対し、天音は俯きがちに返事をした。
それから、一歩下がった場所で自身に向けて回復魔術を使用し始めた。
自身への回復魔術使用は効果が弱い上難しいが、応急処置程度なら可能だ。天音は軽い治療を済ませたら復帰するのだろう。
「やはり、ヒーラーはその小娘か。もっと早く殺しておけばよかったな」
そう言ってケテルは拳銃に手を掛けようとしたが、姿勢を低くして突進の体勢を取った明里を見て、手を引いた。
おそらく、使い慣れていない拳銃をこの至近距離、かつ明里の眼の前で使うのは不利だと考えたのだろう。
それに、拳銃を持てば魔術だって使いにくくなるだろう。
ケテルは慣れた戦闘スタイルで四人に挑むようだ。
「おうおう、でももう後悔しても遅いぜ」
「言ってくれるじゃないか」
ケテルはそういうと、大地を蹴った。
「っ――」
連理は一瞬その動きについていくことができず、反応が遅れた。
手に装着している展開型の盾を使おうと思ったが、その時にはすでに眼の前にはケテルの凶刃が迫っていたのだ。
避けられない。
そう思った瞬間、ギャリギャリと金属同士が擦れるような甲高く耳障りな音が鳴り響いた。
「させないっ!」
「チッ――」
明里が手袋についた刃でケテルの剣を受け流したのだ。
さらにケテルはそのまま流された剣を、明里の方に向けて横薙ぎに振るった。しかし、明里はそれを屈むことで避け、至近距離でケテルにショットガンをぶっ放した。
それも、彼女の着ているローブの間を縫うように。
ケテルは防御用の魔術障壁を展開しようとするが、流石にこの距離では間に合わない。
「ぐっ――」
それを受け、ケテルは苦痛に顔を歪めながら一歩下がった。
『あのローブに攻撃してもあまりダメージが通らないのではないか』と半ば直感的に予想した明里の行動は、間違っていなかったようだ。
「俺ももういっちょ!」
連理も声を上げ、炎の剣を構えて前に出て袈裟にそれを振るう。
「バカめっ!」
ケテルは横に移動してそれを避けた。もともとケテルの頭身が低いこともあり、連理の剣は簡単に避けられてしまう。
そして、ケテルの剣が燃え滾るような深い赤色に輝く炎をまとった。蓮華のよくやるような、剣に対する魔術付与だろう。
そして、その剣を連理に向け真下から大きく振り上げた。
しかし、連理も臆せず展開式の盾を使って防御する。
「ぐっ――」
だが、そのあまりにも重い攻撃によって、連理は地面を擦りながら後退し、体勢を崩す。
それからケテルが手をかざすと、魔術によって鋭い氷の柱が生成され、連理に向けて飛来した。
連理に当たるかと思われた時、明里が間に割って入り、無理やりそれを蹴って撃ち飛ばした。
さらに、油断していると思われたケテルの後ろに零夜が出現し、ナイフを振るう。
しかし、一瞬でそれに気付いたケテルはそれを回避した。同時に、回転するような動きで零夜の方に体を向け、そのままの勢いで剣を振るう。
零夜はそれをナイフで受け流そうとするが、力の差があったためにうまく軌道をずらせず、腕に裂傷を負った。
「くそっ――」
零夜は激痛に耐えながら、その後の追撃を警戒しながら一気に後退した。
「スキルは魔力の動きが分かりやすくて助かる――なっ!」
今度は、後ろからフラクティオパイルによる攻撃を狙っていた連理に向けて、ケテルはナイフを振る。
しかし、連理も負けじと盾で無理やり耐えながら、攻撃を続けようとした。
体勢を崩すことや、ケテルの追撃すらも厭わない、覚悟の決まった瞳だった。
「二度目はかからないぞ!」
ケテルが連理の肘についたフラクティオパイルに向けて氷を展開し、一時的に使用不能にする。
横からショットガンを持った明里に向けて、無数の氷の棘がついた壁を展開し、攻撃と同時に余計な横槍を防ぐ。
「いてっ――連理くん!」
その状態で炎によって強化された剣を、ケテルは振るおうとした。
ニヤリ、とケテルの口が歪んだ。
「まっずいな!?」
流石の連理も冷や汗を浮かべ、苦笑いとともに大ダメージを覚悟した。
「まずはひと――」
そこまで言ってから、ケテルは大きく上方向に跳んだ。
次の瞬間、ケテルの居た場所に攻撃の応酬がやってきた。
天音が先程使った雷の魔術に加え、正体不明の紫色の雷のような、光線のような魔術らしき攻撃。
加えて、上に跳んだケテルに向けて無数の魔術弾が飛来した。淡く黄色に光る本物の銃弾にも似たそれを、ケテルはすべて剣で弾いた。しかし、今度は着地先を見極めていなかったのか、表情を歪めた。
風魔術でどうにか連理たちが居ない場所に着地しつつ、ケテルは周囲を観察する。
「おいおい、今のはなんだ?」
「私も攻撃に参加はしましたが――それだけではないように見えました」
応急処置を施した天音が、連理の横に立った。
「……今度はおまえか。どこに行ったかと思えば」
「いやー、遅れてごめんねーみんな……というか、今の全部避けるとかマジでバケモンすぎるでしょ。どうやって勝てばいいのさ」
連理たちが居る通路とは逆方向から、秋花の姿が現れた。
彼女は黒い鉄のような素材でできたいくつものアーティファクトをそのへんに放り投げながら、困ったように自身の頬を掻いた。
「言ってくれる。どうせ勝てる算段はあるのだろう?」
「――まぁね~」
ケテルの言葉に、ワンテンポ置いてから秋花はふっと笑った。
「忌々しい、ああ忌々しい。これじゃあどうにもならないじゃないか」
吐き捨てるようにしながら、ケテルは目を瞑ってこくこくと頷いた。
次の瞬間、懐に手を突っ込んだ。
「あっ――!」
ケテルは懐から拳銃を取り出し、トリガーを引く。
明里が阻止しようとするが、しかし一瞬反応が遅れてしまった。
そして轟音が鳴り響き、死の弾丸が天音のもとへ向かう。
がしかし、それは出現した五重もの黄色の障壁によって阻まれた。
うち二枚は銃弾によって破壊されたが、当然天音には一切ダメージは通っていない。
「事前に詠唱しておいてよかったです。どうせ、そんなことをしてくると思っていたので」
どうやら、秋花とケテルが話していた短い間に、そのことに気が付き詠唱を行っていたようだ。
スキルを発動していたのもあるかもしれないが、流石の判断力と言えるだろう。
同時に、明里もケテルの近くまでやってきており、いつでも攻撃できる状態だ。
「ほんとうに忌々しいな――まあいい。どうせ装置さえ起動できれば、わたしの勝ちなのだから」
ケテルはそう言うと、真上に拳銃を放ってから、最初姿をくらましたときのように煙を発生させた。
「あっ、まてーっ!」
明里は先程までケテルが居たショットガンを発射するが、全く手応えがない。
「一体どこへ――」
天音も二度目だということでなんとなく相手の気配は察知できるのだが、自身も煙に包まれているせいで感覚が混乱してしまっていた。
そうして霧が晴れた頃には、ケテルの姿はどこにもなかった。
「こりゃマズいね――さっさと作戦会議を始めようか。あと、みんなは聞きたいことも沢山あるだろうからね」
秋花は四人に近づくと、真剣な表情でそう述べた。
◇
~あとがき~
そろそろ良い展開になってきましたね。
文字数的にも終盤戦……楽しんでいただけているでしょうか?
……なんで火曜日に更新しているかについては聞かないでください。
まさか2日連続で更新を忘れるとは思っていませんでした。原稿自体は日曜の時点でできていたのですがね。
最後まで読んでいただいた感謝とともに、謝罪の言葉をお伝えしようと思います。
すいませんでしたァ!
次回もよろしくお願いしまァす!
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