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────1章『方舟のゆくえ』
■6「愛しい人の優しい嘘」
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****♡Side・咲夜
『俺が居ても居なくても来ていいから』
久隆はそう言った。
彼の家はびっくりするほど居心地がよくて。アンティークな洋館は、まるでホテルのような作り。 久隆は、居心地が良すぎて家に帰りたくない咲夜たちのために、屋敷三階の自室の隣にある部屋を与えてくれた。あまりの居心地の良さに学校が終わるとほとんど入り浸っている。
特に、レストランのような従業員用の食堂は二人にとってお気に入りの場所で、全体が明るい木造建築がとても落ち着く。コック長の南さんは、
「久隆坊っちゃんは、ほとんど居ないんですよ」
”二人がいると作りがいがある”と言ってよくおやつを作ってくれた。
**
「久隆くんって、忙しいんだね」
その日も与えられた部屋で咲夜は、葵を抱き締めてゴロゴロしている。さっきまでうとうとしていたが、髪を撫でる優しい感触と話し声で目が覚めた。
「ん」
「どうしたの?」
と、葵に問いかけられ、
「久隆って何してるんだろう?って思って」
素朴な疑問を口にする、咲夜。
「それは」
葵は言葉を濁したが、何かを知っているのだろうとぼんやりとだが察する。
『俺のことはいいんだよ』
10年以上自分を想ってくれていた久隆はそう言って微笑む。
『抱き締めていい?』
久隆は時々疲れた顔をしてハグをしてきた、自分はただされるがまま。その事を葵には言えなかった。
「ねえ、サク?」
葵は“サク”と、咲夜を呼ぶようになっていて、とても心地いい。
「うん?」
「久隆くんがね、サクとずっと一緒に居られるようにしてくれるって言うのだけど」
「?」
「サクはどんなことがあっても、大丈夫だよね?」
なにが大丈夫なのかまったくわからない。
葵はじっとこちらを切な気に見つめ、そっと両手で咲夜の頬を包むと口づける。
「久隆くんにだけ辛い思いさせるのは違う気がするんだ。人任せにばかりしていても、大切なものは守れないと思うの」
話が見えてこない。
「葵?」
なんだか怖くなって咲夜は葵をぎゅっと抱き締めた。
「怖いよ。そばに居てくれるよね?」
彼は答えない、ただ優しく咲夜の背中を撫でてくれるだけ。
葵と久隆だけの秘密。なんとなく、そういうものが存在している気がした。それと、もうひとつ判明したことがある。入学式に会った叔父が、大崎グループの社長、久隆の父の第二秘書であること知った。たまたま大崎宅で出くわし、本人から聞いたのだが。不思議なことに、叔父から”久隆にはそのことを黙っていて欲しい”と口止めされた。
俺だけが蚊帳の外。
みんな何を考えているのかわからない。
何かがゆっくりと進行しているのを感じつつも、全貌が見えてこない、まるでホラー映画のように。葵は何かを決心したようだった。
「ねえ、サク」
「うん?」
「こんな関係、もう終わりにしよう?」
「え?」
突然のことに戸惑う。なんでそんなことを言い出したのか全くわからない。
久隆が、ずっと一緒に居られるようにしてくれるんでしょ?
それなのになんで?
「咲夜は奥手過ぎて、あんまり自分から手出してこないし」
「それは前に葵がセフレは嫌だって言うから、身体ばっかり求めていると思われるの怖かったから」
「いいづらくて言えなかったけど、高校入ってから他に好きな人が出来たんだ」
何も知らないことは、人を不安にさせるには充分で。言ってることがめちゃくちゃだと思いながらも、自分に自信がない咲夜にはそれを『嘘だ』という勇気さえない。
「好きならやっぱり、いっぱい愛してくれる人がいい。自分からエッチしてくれる人がいいの」
依存し過ぎると嫌われるのが怖くて相手の言いなりになってしまうんだよ。
「友達に戻ろ?」
「い...」
嫌なのに。言葉にならない。よく考えればわかることなのに。ほぼ毎日一緒にいて、どこにそんな時間があったのか?とかさっきキスしてくれたのに、そんなわけあるか?とか突っ込みどころが有りすぎるくらいなのに。頭が真っ白で。下手すぎる嘘を信じてしまった。ハラハラと涙を溢す咲夜に、葵は何度も何度も執拗に口づけて、
「いい子」
と満足気に微笑んだ。
どんなドSなんだよ。
無茶苦茶だよ。
「葵」
「大丈夫、離れていったりなんてしないから」
すがるように見つめても、うそだとは言ってくれない。
「友達に戻るだけだよ」
もう、葵は俺のものにはならないの?
結局失うだけなの?
何がどうなってるのかわからないよ。
俺が無力だからいけないの?
誰か教えて。
誰か..助けて..。
『俺が居ても居なくても来ていいから』
久隆はそう言った。
彼の家はびっくりするほど居心地がよくて。アンティークな洋館は、まるでホテルのような作り。 久隆は、居心地が良すぎて家に帰りたくない咲夜たちのために、屋敷三階の自室の隣にある部屋を与えてくれた。あまりの居心地の良さに学校が終わるとほとんど入り浸っている。
特に、レストランのような従業員用の食堂は二人にとってお気に入りの場所で、全体が明るい木造建築がとても落ち着く。コック長の南さんは、
「久隆坊っちゃんは、ほとんど居ないんですよ」
”二人がいると作りがいがある”と言ってよくおやつを作ってくれた。
**
「久隆くんって、忙しいんだね」
その日も与えられた部屋で咲夜は、葵を抱き締めてゴロゴロしている。さっきまでうとうとしていたが、髪を撫でる優しい感触と話し声で目が覚めた。
「ん」
「どうしたの?」
と、葵に問いかけられ、
「久隆って何してるんだろう?って思って」
素朴な疑問を口にする、咲夜。
「それは」
葵は言葉を濁したが、何かを知っているのだろうとぼんやりとだが察する。
『俺のことはいいんだよ』
10年以上自分を想ってくれていた久隆はそう言って微笑む。
『抱き締めていい?』
久隆は時々疲れた顔をしてハグをしてきた、自分はただされるがまま。その事を葵には言えなかった。
「ねえ、サク?」
葵は“サク”と、咲夜を呼ぶようになっていて、とても心地いい。
「うん?」
「久隆くんがね、サクとずっと一緒に居られるようにしてくれるって言うのだけど」
「?」
「サクはどんなことがあっても、大丈夫だよね?」
なにが大丈夫なのかまったくわからない。
葵はじっとこちらを切な気に見つめ、そっと両手で咲夜の頬を包むと口づける。
「久隆くんにだけ辛い思いさせるのは違う気がするんだ。人任せにばかりしていても、大切なものは守れないと思うの」
話が見えてこない。
「葵?」
なんだか怖くなって咲夜は葵をぎゅっと抱き締めた。
「怖いよ。そばに居てくれるよね?」
彼は答えない、ただ優しく咲夜の背中を撫でてくれるだけ。
葵と久隆だけの秘密。なんとなく、そういうものが存在している気がした。それと、もうひとつ判明したことがある。入学式に会った叔父が、大崎グループの社長、久隆の父の第二秘書であること知った。たまたま大崎宅で出くわし、本人から聞いたのだが。不思議なことに、叔父から”久隆にはそのことを黙っていて欲しい”と口止めされた。
俺だけが蚊帳の外。
みんな何を考えているのかわからない。
何かがゆっくりと進行しているのを感じつつも、全貌が見えてこない、まるでホラー映画のように。葵は何かを決心したようだった。
「ねえ、サク」
「うん?」
「こんな関係、もう終わりにしよう?」
「え?」
突然のことに戸惑う。なんでそんなことを言い出したのか全くわからない。
久隆が、ずっと一緒に居られるようにしてくれるんでしょ?
それなのになんで?
「咲夜は奥手過ぎて、あんまり自分から手出してこないし」
「それは前に葵がセフレは嫌だって言うから、身体ばっかり求めていると思われるの怖かったから」
「いいづらくて言えなかったけど、高校入ってから他に好きな人が出来たんだ」
何も知らないことは、人を不安にさせるには充分で。言ってることがめちゃくちゃだと思いながらも、自分に自信がない咲夜にはそれを『嘘だ』という勇気さえない。
「好きならやっぱり、いっぱい愛してくれる人がいい。自分からエッチしてくれる人がいいの」
依存し過ぎると嫌われるのが怖くて相手の言いなりになってしまうんだよ。
「友達に戻ろ?」
「い...」
嫌なのに。言葉にならない。よく考えればわかることなのに。ほぼ毎日一緒にいて、どこにそんな時間があったのか?とかさっきキスしてくれたのに、そんなわけあるか?とか突っ込みどころが有りすぎるくらいなのに。頭が真っ白で。下手すぎる嘘を信じてしまった。ハラハラと涙を溢す咲夜に、葵は何度も何度も執拗に口づけて、
「いい子」
と満足気に微笑んだ。
どんなドSなんだよ。
無茶苦茶だよ。
「葵」
「大丈夫、離れていったりなんてしないから」
すがるように見つめても、うそだとは言ってくれない。
「友達に戻るだけだよ」
もう、葵は俺のものにはならないの?
結局失うだけなの?
何がどうなってるのかわからないよ。
俺が無力だからいけないの?
誰か教えて。
誰か..助けて..。
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