R18【同性恋愛】『戻れない僕らの日常』【絆・対・相編】正規ルート編

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────2章『宝船と戦艦』

■10「心に芽生えるもの」

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 ****♡Side・大里

 大里は校舎の中を目的地に向かいながら、先日の件を思い出し、苦笑いをした。
 ”片倉 葵”は大里には、小がらで華奢で可愛らしく、気の強い子に感じる。彼に関する調査報告書によれば、甘え上手だとあったが自分は印象は違っていて…。そして、ゾッとした。もし、自分が通りかからなければあの子はどうなっていたのだろうかと。

 リンチだろうか?
 それとも。
『いやああああッ』
 悲鳴をあげ、無理矢理犯される葵の姿を想像して大里は身震いした。正直、大里が彼らを一方的に憎んでいるだけで、葵や咲夜のことは紙面上でしか知らない。今、大里は別館の風紀委員会室に向かっている。

 確かに憎しみはある。
 しかし俺は、誰かにアイツらが傷つけられることを望んでいるわけではない。自分は正々堂々...とは言い難いかもしれないが、サシで勝負をして久隆を取り返したいだけだ、誰にも手出しはさせない。俺以外がアイツらを潰すなんて許せない、あんな胸糞悪いやつらになんか。

「ん?」
 大里が渡り廊下を別館へ向かい歩いていると、別館側からこちらに向かって歩いてくる”霧島 咲夜”に気づく。大里はふと、”敵をよく知りもしないで、ただ憎んでいるだけでは、現状が変わることはないかも知れない”そう考え、咲夜に声をかけた。
「よう、霧島」
「大里くん。向こうに用事なの?」
 咲夜は大里にとっては、かなり不思議なやつである。”相変わらず美人だな”大里は彼をじっと見つめ、そうそう思う。

「風紀に」
「そうなんだ」
 咲夜が柔らかく笑うの見ていた。人当たりはいいとは思うが、大里には久隆が彼にご執心な理由がわからない。
「一人でうろうろしてて大丈夫なのかよ」
 内部生と外部生の関係、久隆に特別扱いをされる意味を考え、大里はそう声をかけたが、
「俺、男だよ?」
 そう言って咲夜は肩を竦める。だいぶ的外れな返事に”何も知らないんだな”と感じる大里。
「久隆が心配するぞ」
 心配になったのはむしろ自分の方かもしれなかった。何も知らない子羊がオオカミの群れの中を無邪気に散歩している風景がぴったりに思える。
「そう、かな」
 咲夜は不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げた。

 どう返すか大里が思案していた時、別館の方から人の気配を感じた。数人の話し声からすると男子生徒のようである。大里は瞬間的に咲夜の腕を掴むと柱に押し付けた。
「大里?」
 驚く咲夜に向け、
「しっ」
 大里は口元に人差し指を充てると、もう片方の腕で咲夜を胸に抱き寄せると彼らの死角になるように位置を変える。大里は一八〇センチ以上身長があった上、そこそこ肩幅もあったので咲夜はすっぽり隠れた。


「よお!大里」
「おう」
 大里は、名前を呼ばれ、振り返らずに片手を上げる。
「相変わらず、お盛んだな」
「お陰さんで」
 彼らは大里の返事にケラケラ笑った。
「今度はどんな子?」
「ダメだよ、恥ずかしがり屋な子だから。今、口説いてるとこ」
 大里はぎゅっと咲夜を抱きしめ、顔が見えないように配慮しそう返す。
「がんばれよー。また合コン誘ってな!」
 集団は大里の嘘を信じ去って行った。大里は咲夜から離れると、ため息をつく。現キングの久隆の“お気に入り”な上、前キングとも何かあると思われたら面倒なことが起きるに違いない。

「悪いな」
「ううん」
 咲夜はじっと大里を見上げていた。
「ん?」
 何か言いたげな瞳。なんだ?と言うように見つめ返せば、
「友達、いっぱいいるんだね」
 と、彼らが去って行った方向を見ながら彼が言う。
「あれがか?」
 その言葉に大里は思わず吹き出した。何をどう見たらあれが友達に見えたのだろうかと。自分に友達なんてものはいない、唯一近しい久隆ですら友達とは認めてくれないのだから。

 あんな、人を道具だとしか思わない連中を友達というのか?
 いや、俺が悪いのかもな。そうさせているのは他でもない自分。

 変なこと言ってしまったのだろうかと、困ったような複雑な表情で目を泳がせる彼に大里は興味を持った。何故彼がそんなにも久隆や葵を惹きつけるのか知りたくなる。
「なあ、昼一緒に食わねえ?久隆には話つけとくから」
 断られると思いながらも、そう提案してみることにした大里。
「いいよ?」
 しかし、彼は断らなかった。咲夜は”何故誘われたのだろう?”と言うような不思議そうな顔をして本館に戻っていく。
「やっぱ、変なやつだな」
 彼の後姿を眺めながら、何の警戒心も持たない咲夜に大里はそんな印象を持ったのだった。

 **

「委員長いる?」
 大里は風紀委員会室のドアをあけると、近くにいた生徒に不躾に問い掛けた。
「大里、どーした?」
 大里の声が聞こえたのか、奥の方から風紀委員長の声がする。
「は?片倉のファンクラブ?」
 大里が彼に近づき本題に入ると、”変わったものに興味持ってるんだな”と言って同好会系統の登録書用ファイルを捲った。
「ある?」
「一応あるみたいだな」
「一応ね」
 大里は委員長の言葉を呟くように繰り返す。

 じっと大里を見上げていた彼が、
「潰したいのか?」
 怪訝な顔をして。
「逆。ちゃんと活動して欲しいと思って」
 先日の”片倉 葵”の絡まれた件を話すと、委員長は顔をしかめた。
「悪かった、見回り強化するわ」
 どうやら知らなかったようで。
「頼んだよ」
 と大里が椅子から立ち上がると、
「大里、変わったな」
 と、彼に言われる。
「以前なら、大崎にしか興味なかったのに」
「久隆がなんでアイツらに惹かれるのか知りたくなっただけだよ。その為には邪魔なんかされちゃ困る」
 委員長はじっと大里を見ている、何かを思案しているかのように。

「片倉に惚れんなよ?」
「は?」
「あの子は無理だぞ」
「惚れるもなにも」
 大して話もしてないのに。
「あの子は一途らしいから」
「念頭に入れとくよ」
 片手を上げると、”何を言ってるんだ”と思いながら、大里は風紀委員会室を後にした。

 ****

「おい、ちょっと近すぎなんじゃないのか?」
 咲夜とサシで話をしようとしたのに、何故か四人がけのテーブルにいた。隣に久隆、斜め向かいには葵が。葵はオレンジジュースをちゅうちゅうとストローで飲んでいる。久隆はと言うと、頬杖をついてしらーっとこっちを見ていた。
「俺は、霧島と会話をだな」
「どうぞ」
 久隆が頬杖をついてない方の手を差し出す。
「全然盛り上がってないねぇ」
 葵がストローから口を離すとそう言った。咲夜は葵の頬をツンツンして弾力を確かめている。

 いやいや、待て待て。
 おかしいだろ?
 何、このマイペースな3人。

「葵、あーんは?」
 咲夜は、お手製だというレアチーズケーキを、スプーンで掬って葵の口元に持ってゆく。
「あーん」
「葵、可愛い」
 咲夜は満足そうに微笑むと、その頬にチュッと口付ける。
「ふふっ」
 葵は嬉しそうだ。

 なんともマイペースな奴らだと、久隆の家のクレイジーな親子三代を思い出した。久隆は意外とそういう空間が落ち着くのだろうかと。

「どういった、心境の変化?」
 久隆は怪訝そうに。
「交流でも深めようかと」
「ふーん 」
 これでは交流どころか、理解は深められそうにはなかった。だが、こっちには秘策がある。
「久隆、昨日のあれ考えといてくれた?」
 とたんに久隆が明るい表情をした。
「うちの秘書も一緒なら行ってもいいよ?」
「んじゃ、行く?」
「何々?!どこ行っちゃうの?」
 久隆と大里の二人で何処かにいってしまうのかと勘違いした葵が、慌てる。
「今から行くの?」
「良いだろ、土曜日なんだし」
 久隆の質問に、大里はそう返す。
「久隆くんッ。置いてっちゃ、やだよ」

 ん?

 大里は葵の様子を観察していた。葵は座っている久隆のところまでくると、むぎゅッと久隆に抱きつく。

 へえ。
 片倉って久隆にこんな感じなのか。

「葵ちゃんも行くんだよ」
 久隆がニコッと葵に微笑みかけると、大里は驚きに目を見開く。
「なに、大里」
「そんな顔できるんだ、久隆って」
「は?」
 久隆は嫌な顔をすると、葵の腰に腕を回して胸に顔を埋める。
「久隆くん、くすぐったい」
 葵はクスクス笑っており、咲夜がそれを、羨ましいと言うように見ていた。

「さて、行こうか」
「久隆、えらい乗り気だな」
 久隆は立ち上がると葵の手をとって、今度は咲夜のところへいくと、反対の手を差し出しす。
「ねえ、どこ行くの?」
 葵は久隆の腕に自分の腕を絡める。
「カーラーオーケー」
 久隆が間延びした言い方をすると、葵は変な顔をした。
「カラオケ?久隆くん、好きなの?」
「大里が上手いんだよ、歌」

 練習の賜物なだけだ。
 年がら年中行ってるしな。
 しかし、久隆が喜ぶ理由はそこじゃない。
 それと、久隆は歌がド下手だ。

「え、これで行くの?」
 四人は駐車場でポカーンと車を見上げた。
「社長が、四人ならこちらの方が良いのでは?と」
「お邪魔しまーす」
 先陣を斬ったのは葵。
「うっわ!おっ洒落!」
 中を見て驚いている。

「凄いね、寛げそう。葵、靴脱がないと」
 咲夜は葵に続いた。
「久隆んちの親父さんこんなの持ってるんだ。こんなかでカラオケできるんじゃね?」
 と、大里。
「いくらしたの?これ」
 と、久隆は眉を潜める。
「お気に召しませんか?」
 和は久隆の背中をそっと押す。中にはテーブルを挟んでゆったりと寛げるソファー。
「キャンピングカー買ったなんて聞いてないよ」
 久隆はため息をつき乗り込んだ。

 ****

 向かい側に葵、その隣に咲夜。大里の隣には腕と足を組んで、横向きに大里に寄りかかる久隆がいる。向かい側の二人は、なにやら楽しそうに話をしており、調査報告書にあった“中学時代から仲がいい”ということを裏づけていた。
「なんか、機嫌悪い?」
 さっきから大里に体重を預け、黙っている久隆に問いかける。
「別に」
「そんなに久隆の親父さんが、自分のために大金使うのが嫌?」
 そう問いかければ、久隆はため息をついた。
「咲夜たちが楽しそうだから、これはいい」
 大里は体勢が若干窮屈だったため、久隆が寄りかかっている方の右腕を、久隆の組んだ腕の下を通すように絡める。こんな距離感は、周りにとって変でも大里たちとっては普通だ。

 大崎家の三代、祖父、父、兄は、久隆が母親を亡くしてからというもの、それまで以上に久隆に対する溺愛っぷりが酷くなった。しかし久隆は、幼いながらも一族の中では一番しっかりしていたため、それを良しとはしない。反面教師というものなのだろうか?彼らの溺愛ぷりが異常という言葉を超え、クレイジーと称される頃には金銭感覚が、彼らとは真逆になっていたのだった。

 久隆の父は、自分が主宰したセレブのパーティーで友人に、
『鳶が鷹を産んだ』
 などと、からかわれると、
『え?こんなとこから僕、子供産めないから』
 と、自分の股関を見て言った。
 彼の周りは一瞬静寂ののち、爆笑の渦に包まれる。
『ほんと、昔から変わらないね』
 彼は、周りにいた人からそう言われていた。

 親に連れられてその場にいた俺は、子供ながらに
 “この親からどうやって久隆が産まれたんだろう?”
 と、不思議に思ったものだ。それくらい久隆は真面目でまともである。
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