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────3章『本格始動、宝船』
■1「波乱の日曜日」
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****♡Side・葵
────日曜日、朝。
「どうしたの?葵ちゃん、寝不足?」
車に乗り込むと、大人しい葵のことが気になったのか、助手席から心配そうな声で久隆が問いかけてくる。
「ううん」
葵はそう返事をすると、昨夜、父の秘書から掛かってきた電話の内容を思い出し、ため息をついた。
「サクぅ、膝枕して?」
隣に座って心配そうにこちらを見ている咲夜を、葵は上目遣いで見上げると、力なく膝枕をおねだりする。彼は葵に向かってポンポンと自分の膝を叩き、
「おいで」
と微笑んだ。葵は咲夜の膝の上に頭を乗せると、目を閉じる。彼が葵の頭を優しく撫でてくれ、その手の温もりにほんの少しだけ安堵した。助手席の久隆が振り返り、そんな二人を見ている。すると彼は安心したのか、
「着いたら起こしてあげるよ」
と、声をかけてくれた。
**
────昨夜、大崎邸自室にて。
『葵さんの耳に入れて置きたいことがあります』
一人、部屋に戻って少しすると、葵のスマホに着信があった。購入したⅭⅮを飾るための、飾り台デザインを考えている最中の、出来事である。習い事がない日に、家族から葵に電話がかかって来ることはない。要件はメッセージを使うようにしているからだ。それというのも、聞き間違いなどを防ぐためである。他に葵の連絡先を知っている者は限られてくる、咲夜に久隆、大里と和くらいなものだ。葵は怪訝に思いながら”誰だろう?”と画面を覗き込むと、父の秘書からである。
「何かあったの?」
話の内容はこうだ。主に旅館などを経営している我が社は、大崎グループの介入で、経営は上向きにはなったものの、はまだ不安定であること。片倉社長が社員の生活を守るため、大崎グループに”表向きは合併という名の吸収”を申し入れたが、大崎社長に断られてしまったというのだ。
「え?!断られたの?傘下に下れないほど経営状態悪いの⁈うち」
片倉はワンマン経営。葵はどういう状況であるか全く知らなかったのである。びっくりして思わず、大きな声を出してしまったが、冷静に久隆の父の人となりについて考えてみる。すると、”いやいや、相手はあの大崎社長だ、経営悪化で倒産しそうなら逆に引き受けてくれそうなものだ”と葵は思った。腑に落ちないと思っていると秘書からそれを否定するように、
『そうじゃないんです、葵さん』
と言われる。葵は詳しく話を聞くことにした。
大崎社長が言うには、片倉は勤続何十年という長きに渡り、勤務してくれている社員が多い。離職率が低いのである。片倉社長は正直、ワンマン経営のため評判は良くない、しかし、そうなってしまうほど社長は、がむしゃらに会社のために尽くしてきた。そんな社長を見ているからこそ、社員は経営が悪化しても社長に信頼を置きついてきている。今こそみんなで力を合わせ、踏ん張らなきゃいけないときに、社長が目先のことに囚われて大崎グループの傘下に下れば、長年勤めてきた社員たちのプライドをくじき、意欲を削ぐことになる、と。
社員は社長を信頼しているのに、社員を信頼しないのは何事か、と言う事だ。いずれ合併したとしても、それは上下関係などない形でなければいけない。今はその時ではない。希望があれば、給料をそのままに社員の一時的な受け入れはするし、いつでも戻れるようにはすると。
「久隆くんのパパって、マトモなこともいうんだねー」
話しを聞いて、実質大崎グループを支えているのは久隆の兄だと思っていたので、葵は驚いた。
『突っ込むとこ、そこですか⁈』
普段は冷静な秘書が珍しく笑う。
「一番驚いたのソコだよ」
葵は今の話のどこが問題なのかと、不思議に思っていた。
『本題はここからです』
今の前置きだったのか、長いな。
『と、言うことは経営状態が不安定なままなんです。大崎グループと新しい企画などをやっているので、あちらの社員が出入りしていますが、足止め程度でしかない』
嫌な予感しかしない。
『縁談が持ち込まれるのは、時間の問題かと』
「断れないの?」
『相手にもよるでしょう。それなりの方ならお見合いにはいかなくてはならないと思います』
地獄だ、好きでもない人とお見合いだなんて。
「わかった。念頭に入れとく」
しかし、父の命令ならば従わなければならない。
慰みものになんてされたくない。
俺は、人間なのに…。
まだ、高校一年生なのに。
それは、母に似た自分の容姿に嫌気が差すと同時に、片倉家に産まれてきたことを呪う瞬間であった。
**
「葵ちゃん、着いたよ」
久隆の声がして、大崎グループ本社前に着いたことを知る。
「二つの提案をお客さんに提示していきたいと思うんだよ」
雑誌の担当者は、葵たちにそう説明をしてくれた。
”一つは、同じアイテムの多様な着こなし方”
”もう一つは、新しい自分への挑戦”
「つまり、一見似合いそうにないファッションを、自分にも着こなすことができるという自信に繋げるもの」
三人はプランシートを覗き込む。
「例えば、極端な話、ロリータファッションしか似合わないと思っている子に、レゲエファッションもいけるんじゃない?と思わせるような感じね」
「つまり、俺たちに顔に合わなそうなファッションを着こなせってことだね」
葵が担当者の言葉を受けて発言すると、
「さすが片倉くん」
と、褒められた。
雑誌と言っても、大崎グループの店舗に無料配布で置くものなので、撮影には思ったより時間は要さなかった。
**
「お疲れ様。バイト代は月曜日に振り込まれるからね」
担当者からそう説明を受け、葵たちはお礼を述べて撮影所を後にする。本社一階のエントランスまで出ると久隆から、
「二人とも、お昼何がいい?」
と恒例のものが。
「俺、イタリアンが良いなぁ。久隆くんは?」
葵はパスタが食べたいなと思っているところだった。玄関を出ると和が車を停めて待っていてくれ、三人は車に乗り込む。
「んー、ホッケ」
座席に座りながら答える久隆。
「和食?渋いね。サクは?」
「寿司食べたいな」
そう言って咲夜が微笑む。
くそ可愛い!
葵と久隆は、咲夜のはにかむような笑顔に悶絶する。
「じゃあ、始める?」
と久隆。運転手である和は何が始まるんだ?という顔をした。
「いざ、尋常に勝負」
と、久隆。本日はノリノリである。
「意義なし!意義なし!」
葵もそのテンションに乗った。
「日本は民主主義です。恒例の多数決行います」
葵と久隆の目が合う。
「寿司がいい人!」
「はいはーい!」
葵と久隆はぴーんと手を挙げたつもりだった。
「痛ったッ!」
と、手を反対側手で包み悶絶する久隆。
「痛いよー」
涙目になりながら、咲夜に手をさすって貰う葵。
車内はそれほど天井が高くはない。二人とも、おもいっきり天井に指をぶつけてしまい、咲夜がクスクス笑いながら遠慮がちに手を挙げたのだった。
「なんで、オープンカーにしなかったんだよ、和」
久隆の矛先は何故か和に向いている。
「そんな贅沢したら怒るじゃないですか!」
「もー」
「そもそも、オープンカーで突然手をあげたら、通行人がびっくりするから辞めてください」
「ちぇっ。和、寿司屋ね」
「かしこまりました」
平和な日曜日の昼時であった。
****
お昼を食べ終えた葵たちは、大型のミュージック店にいた。通路側には楽器や楽譜が並んでいる。
「ピアノだぁ」
葵が、ピアノが置いてあるところに近づくと、久隆が興味津々についてきた。
「葵ちゃん弾けるの?」
「弾けるよー」
途端に久隆の目がキラキラする。そういえば、何の習い事をしているかまでは、話したことなかったなと思っていると、ギターコーナーにいた和と咲夜が遅れて近づいてきた。
「なんか弾いて!」
久隆くん、ピアノ好きなのかな?
食いつきが尋常じゃないよ?
「んじゃ、これ」
「!」
久隆くん、好きだよね?ふふッ。
葵は、久隆の好きなアーティストの曲を弾きはじめると、
「SHE will be lovedだぁッ」
「歌え、和!」
喜んでいる久隆の横に立っている和にふる。
「しょうがないですねー」
和もまんざらではないらしく、歌い始めた。咲夜はわからない曲らしく、リズムだけ取っている。よく考えれば迷惑な話なのだが、そこにいる和たち三人が美形なのもあり、客寄せに持ってこいだったのか店員に怒られることもなく、ミニコンサートは終わった。いつの間にか集まったギャラリーが拍手してくれる。葵はふと、先日久隆の幼馴染みとカラオケに行って盛り上がったことを思い出す。
大里も、誘えばよかったかなあ?
そんなことを思っていると、久隆が突然飛んでもないことを言い出した。
「グランドピアノ買う」
「は?」
即時に反応したのは和。
「だって、葵ちゃん弾けるんだよ?買うでしょ」
「久隆様?」
「買う。エントランスに置く」
咲夜はポカーンとしている。葵は二人のやりとりに大笑いだ。
「生演奏聞きたい。ジャズ!ジャズ!」
「久隆様ッちょっと!そんなミカン買うんじゃないんですから」
「買わなくてどうするの!」
「歌はド下手で楽器も弾けない貴方がそんな...」
「!」
久隆は、両手をあげびっくりの仕草をする。
「なんてこと言うの!和は」
あまりの面白さに悶絶した。
仲良しだよね、この二人。
「いくらすると思ってるんですか。車一台簡単に買えちゃうんですよ?」
「お祖父ちゃんに頼むからいい」
「ちょっと!」
和が止めるのも聞かずに久隆は大崎グループの会長に電話をかけ、和がやれやれと、肩を竦めてこちらを見る。
「大変だねー」
「いいんですけどね、久隆様が何か欲しがるなんてめったにないので」
「あ、お祖父ちゃん?」
葵たちは久隆をじっと見ていた。
「グランドピアノ買って。うん、欲しいの」
何を話しているのやら、久隆は真剣に聞いている。そして、電話を切ると葵たちの方を見て、
「買ってくれるって」
とピースした。
「会長は甘いですね」
と、和。
「なんか、おねだりしたら凄い喜んでた」
「久隆くんちは面白いねッ」
久隆は、大人しい咲夜が気になるのかその手を取る。
「CD探してくる」
葵は言って、みんなから離れた。
**
「荷物増えちゃったね」
と、葵は手元を見ながら。
「お土産何にしようか?」
葵の荷物を受けとると久隆がそう言う。久隆は優しい。理想の恋人という感じだ。
「久隆、半分もつ」
久隆の隣に居た咲夜がそれを見て、彼に手を出差した。
「久隆くんっ青果店があるぅ」
仲いいなと思いながら前方に目を移すと、葵の好物が。
「何か欲しいの?」
と、久隆。
「ミカンッ」
「時期外れじゃない?」
と、咲夜。
「和、お土産メロンでいいかな?」
青果店に寄ると決めた久隆が和に、大崎邸従業員へのお土産についての相談を持ち掛ける。
「メロンですか。いいかも知れませんね」
和は、話を受けてそう返答をした。
「みんなで分けられる分くらいの量、買っといて」
「かしこまりました」
和が離れてゆくと葵は、久隆に素朴な疑問をぶつける。
「そういや久隆くんって、家族にお土産買ってるの見たことないけど?」
途端に久隆が眉を寄せた。
何か地雷踏んだのだろうか?
「いいんだよ、あの人たちは。欲しいものがあれば勝手にどこにでも行くんだから」
と呆れ口調の久隆に、
「何かあったの?」
葵は心配になる。久隆はヤレヤレというように肩を竦めると、
「ある時、お祖父ちゃんがさー」
と話し出す。
「うん」
葵は相槌をうった。咲夜も興味津々という感じで聞いている。
「突然マグロ食べたいって言いはじめてさ。どこかのお店に行くのかと思ったら、親父と兄を引き連れて、知り合いの漁船に乗り込んでマグロの一本釣りについて行った。バカだろ。釣りなんかできないのに」
「え」
「さすがに、かに漁は止めたけど。迷惑になるから辞めろって」
「相変わらず、フットワーク軽いねぇ」
「クレイジー過ぎるだろ。会社ほっぽってさ」
久隆は肩を竦め、咲夜が苦笑いした。
**
「将来久隆くんたちって、一緒に働くんだよね?」
そういえばと、葵は自分の境遇について考える。
「ん?そうなるね」
面白い大崎一家。将来、久隆は社長、咲夜は大崎グループに入る、しかし自分は…。
「俺も一緒に働きたーい。ずるいよ、久隆くんとサクだけ」
「え?自分の会社どうするの?」
咲夜が思わず口を挟む。葵は一人息子だ、将来片倉を継ぐことになる。葵は二人と一緒に居たかったため、
「久隆くぅん。合体しよーよー」
と久隆にすり寄り、
「それを言うなら、合併でしょッ」
咲夜に突っ込まれ、久隆が肩を揺らし笑った。
「さて、帰りますよ」
和が買い物を済ませて戻ってくる。
「あ、みかんの缶詰めだぁ!わーい」
和はメロンの他にみかんの缶詰めを買ってくれており、みんなで荷物を手分けして持つと、なんだかわくわくし、こんな日がずっと続けばいいのにと、葵は思っていた。
****
────月曜日。
「でねッ」
葵たちは久隆と咲夜の三人で、学園に登校するようになり、更に注目度が上がった。
「あーあ、教室着いちゃった」
葵は残念そうにそう言うと、久隆がハグをしてくれる。
ここはアメリカですか?
いいえ、け..ry
「来年は同じクラスになりたいなぁ」
と言うと、
「成績良かったらなれるよ」
と久隆が笑う。発表こそされはしないが、久隆は学年五番以内。咲夜は主席であった。
大里も頭いいんだなあ、久隆くんたちと同じクラスなんだもの。
葵がため息をつくと、
「テスト勉強、一緒にやろうね」
そういって、久隆と咲夜が葵を見て微笑む。
良く考えたら、俺ってハーレム?逆ハーレム?
いやいや、俺も男だけど。
この二人ってモテるんじゃ?
葵は、自分の教室に行きたくなくて二人にへばりついていたら、後ろから頭を撫でられた。
「おす。お前ら仲いいな、ほんと」
「大里、おっは」
葵は頭を押さえる。
「おはよう」
久隆は、珍しく微笑んだ。咲夜も、普通に挨拶をしたのだが。
ん?んん?
なんか、この三人って。
なんかあった?
葵には、咲夜と大里がただならぬ雰囲気を醸し出しているように見える。
「あ、予鈴」
「葵ちゃんまたね」
久隆たちが手を振ってくれた。
**
それは、お昼のこと。
「いいのかよ、俺たちといて」
いつもの待ち合わせ場所にいくと、いつもの感じとは違った。久隆が困った顔をしている。
「いいよ」
四人がけの席に、久隆と咲夜が向かいあって座っている。そして、久隆の隣には大里が。
「取り巻き..」
久隆は、自分たちのところにいる大里をとても心配しているようで、大里は、葵に気づくと「よう!」と片手をあげた。
「大里?」
「いいだろ?入れてくれても」
「いいけど」
「お前らといる方が楽しいから」
と、大里は言う。久隆は、自分たちといることで大里が仲間はずれにでもなると思っているのだろうか?それとも。葵は隣に座る咲夜に甘やかされながら、大里を観察していた。
まずはイケメンだ。
背も高いし。
意外と面倒見も良さそう。
でもなあ、なんというか壁をかんじる。
偽ってるとかじゃなくて、こう…。
「葵、どこ見てるの?鼻で食べる気?」
「へへッ」
咲夜に怒られる。
それにしても、大里って久隆くんのこと好きだよね?
久隆くんはなんとも思ってなさそうだけど。
久隆はご飯を食べ終えると、大里を背もたれにしてうとうとしはじめる。咲夜はやきもちを妬かないためか、あえて見ないようにしているように感じた。大里が久隆の体温を感じながら優しい笑みを浮かべている。
こんなことを言うのはあれだけれど、どうしてこんなにカッコいいのに、久隆は大里を見向きもしないのだろう?それどころか、塩対応な気さえする。大里が遊び人だという噂はよく聞く。来るもの拒まずだということも。なんかほっとけないなぁ。おせっかいかもしれないけれど。久隆くんがあれだけ安心して背中を預けられる人なら、悪い人じゃないんじゃないのかな?友達になれたらいいのに。あ、大親友は久隆くんだけだけど。
葵は、おせっかいだということを理解しながらも大里のことが気になっていた。
────日曜日、朝。
「どうしたの?葵ちゃん、寝不足?」
車に乗り込むと、大人しい葵のことが気になったのか、助手席から心配そうな声で久隆が問いかけてくる。
「ううん」
葵はそう返事をすると、昨夜、父の秘書から掛かってきた電話の内容を思い出し、ため息をついた。
「サクぅ、膝枕して?」
隣に座って心配そうにこちらを見ている咲夜を、葵は上目遣いで見上げると、力なく膝枕をおねだりする。彼は葵に向かってポンポンと自分の膝を叩き、
「おいで」
と微笑んだ。葵は咲夜の膝の上に頭を乗せると、目を閉じる。彼が葵の頭を優しく撫でてくれ、その手の温もりにほんの少しだけ安堵した。助手席の久隆が振り返り、そんな二人を見ている。すると彼は安心したのか、
「着いたら起こしてあげるよ」
と、声をかけてくれた。
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────昨夜、大崎邸自室にて。
『葵さんの耳に入れて置きたいことがあります』
一人、部屋に戻って少しすると、葵のスマホに着信があった。購入したⅭⅮを飾るための、飾り台デザインを考えている最中の、出来事である。習い事がない日に、家族から葵に電話がかかって来ることはない。要件はメッセージを使うようにしているからだ。それというのも、聞き間違いなどを防ぐためである。他に葵の連絡先を知っている者は限られてくる、咲夜に久隆、大里と和くらいなものだ。葵は怪訝に思いながら”誰だろう?”と画面を覗き込むと、父の秘書からである。
「何かあったの?」
話の内容はこうだ。主に旅館などを経営している我が社は、大崎グループの介入で、経営は上向きにはなったものの、はまだ不安定であること。片倉社長が社員の生活を守るため、大崎グループに”表向きは合併という名の吸収”を申し入れたが、大崎社長に断られてしまったというのだ。
「え?!断られたの?傘下に下れないほど経営状態悪いの⁈うち」
片倉はワンマン経営。葵はどういう状況であるか全く知らなかったのである。びっくりして思わず、大きな声を出してしまったが、冷静に久隆の父の人となりについて考えてみる。すると、”いやいや、相手はあの大崎社長だ、経営悪化で倒産しそうなら逆に引き受けてくれそうなものだ”と葵は思った。腑に落ちないと思っていると秘書からそれを否定するように、
『そうじゃないんです、葵さん』
と言われる。葵は詳しく話を聞くことにした。
大崎社長が言うには、片倉は勤続何十年という長きに渡り、勤務してくれている社員が多い。離職率が低いのである。片倉社長は正直、ワンマン経営のため評判は良くない、しかし、そうなってしまうほど社長は、がむしゃらに会社のために尽くしてきた。そんな社長を見ているからこそ、社員は経営が悪化しても社長に信頼を置きついてきている。今こそみんなで力を合わせ、踏ん張らなきゃいけないときに、社長が目先のことに囚われて大崎グループの傘下に下れば、長年勤めてきた社員たちのプライドをくじき、意欲を削ぐことになる、と。
社員は社長を信頼しているのに、社員を信頼しないのは何事か、と言う事だ。いずれ合併したとしても、それは上下関係などない形でなければいけない。今はその時ではない。希望があれば、給料をそのままに社員の一時的な受け入れはするし、いつでも戻れるようにはすると。
「久隆くんのパパって、マトモなこともいうんだねー」
話しを聞いて、実質大崎グループを支えているのは久隆の兄だと思っていたので、葵は驚いた。
『突っ込むとこ、そこですか⁈』
普段は冷静な秘書が珍しく笑う。
「一番驚いたのソコだよ」
葵は今の話のどこが問題なのかと、不思議に思っていた。
『本題はここからです』
今の前置きだったのか、長いな。
『と、言うことは経営状態が不安定なままなんです。大崎グループと新しい企画などをやっているので、あちらの社員が出入りしていますが、足止め程度でしかない』
嫌な予感しかしない。
『縁談が持ち込まれるのは、時間の問題かと』
「断れないの?」
『相手にもよるでしょう。それなりの方ならお見合いにはいかなくてはならないと思います』
地獄だ、好きでもない人とお見合いだなんて。
「わかった。念頭に入れとく」
しかし、父の命令ならば従わなければならない。
慰みものになんてされたくない。
俺は、人間なのに…。
まだ、高校一年生なのに。
それは、母に似た自分の容姿に嫌気が差すと同時に、片倉家に産まれてきたことを呪う瞬間であった。
**
「葵ちゃん、着いたよ」
久隆の声がして、大崎グループ本社前に着いたことを知る。
「二つの提案をお客さんに提示していきたいと思うんだよ」
雑誌の担当者は、葵たちにそう説明をしてくれた。
”一つは、同じアイテムの多様な着こなし方”
”もう一つは、新しい自分への挑戦”
「つまり、一見似合いそうにないファッションを、自分にも着こなすことができるという自信に繋げるもの」
三人はプランシートを覗き込む。
「例えば、極端な話、ロリータファッションしか似合わないと思っている子に、レゲエファッションもいけるんじゃない?と思わせるような感じね」
「つまり、俺たちに顔に合わなそうなファッションを着こなせってことだね」
葵が担当者の言葉を受けて発言すると、
「さすが片倉くん」
と、褒められた。
雑誌と言っても、大崎グループの店舗に無料配布で置くものなので、撮影には思ったより時間は要さなかった。
**
「お疲れ様。バイト代は月曜日に振り込まれるからね」
担当者からそう説明を受け、葵たちはお礼を述べて撮影所を後にする。本社一階のエントランスまで出ると久隆から、
「二人とも、お昼何がいい?」
と恒例のものが。
「俺、イタリアンが良いなぁ。久隆くんは?」
葵はパスタが食べたいなと思っているところだった。玄関を出ると和が車を停めて待っていてくれ、三人は車に乗り込む。
「んー、ホッケ」
座席に座りながら答える久隆。
「和食?渋いね。サクは?」
「寿司食べたいな」
そう言って咲夜が微笑む。
くそ可愛い!
葵と久隆は、咲夜のはにかむような笑顔に悶絶する。
「じゃあ、始める?」
と久隆。運転手である和は何が始まるんだ?という顔をした。
「いざ、尋常に勝負」
と、久隆。本日はノリノリである。
「意義なし!意義なし!」
葵もそのテンションに乗った。
「日本は民主主義です。恒例の多数決行います」
葵と久隆の目が合う。
「寿司がいい人!」
「はいはーい!」
葵と久隆はぴーんと手を挙げたつもりだった。
「痛ったッ!」
と、手を反対側手で包み悶絶する久隆。
「痛いよー」
涙目になりながら、咲夜に手をさすって貰う葵。
車内はそれほど天井が高くはない。二人とも、おもいっきり天井に指をぶつけてしまい、咲夜がクスクス笑いながら遠慮がちに手を挙げたのだった。
「なんで、オープンカーにしなかったんだよ、和」
久隆の矛先は何故か和に向いている。
「そんな贅沢したら怒るじゃないですか!」
「もー」
「そもそも、オープンカーで突然手をあげたら、通行人がびっくりするから辞めてください」
「ちぇっ。和、寿司屋ね」
「かしこまりました」
平和な日曜日の昼時であった。
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お昼を食べ終えた葵たちは、大型のミュージック店にいた。通路側には楽器や楽譜が並んでいる。
「ピアノだぁ」
葵が、ピアノが置いてあるところに近づくと、久隆が興味津々についてきた。
「葵ちゃん弾けるの?」
「弾けるよー」
途端に久隆の目がキラキラする。そういえば、何の習い事をしているかまでは、話したことなかったなと思っていると、ギターコーナーにいた和と咲夜が遅れて近づいてきた。
「なんか弾いて!」
久隆くん、ピアノ好きなのかな?
食いつきが尋常じゃないよ?
「んじゃ、これ」
「!」
久隆くん、好きだよね?ふふッ。
葵は、久隆の好きなアーティストの曲を弾きはじめると、
「SHE will be lovedだぁッ」
「歌え、和!」
喜んでいる久隆の横に立っている和にふる。
「しょうがないですねー」
和もまんざらではないらしく、歌い始めた。咲夜はわからない曲らしく、リズムだけ取っている。よく考えれば迷惑な話なのだが、そこにいる和たち三人が美形なのもあり、客寄せに持ってこいだったのか店員に怒られることもなく、ミニコンサートは終わった。いつの間にか集まったギャラリーが拍手してくれる。葵はふと、先日久隆の幼馴染みとカラオケに行って盛り上がったことを思い出す。
大里も、誘えばよかったかなあ?
そんなことを思っていると、久隆が突然飛んでもないことを言い出した。
「グランドピアノ買う」
「は?」
即時に反応したのは和。
「だって、葵ちゃん弾けるんだよ?買うでしょ」
「久隆様?」
「買う。エントランスに置く」
咲夜はポカーンとしている。葵は二人のやりとりに大笑いだ。
「生演奏聞きたい。ジャズ!ジャズ!」
「久隆様ッちょっと!そんなミカン買うんじゃないんですから」
「買わなくてどうするの!」
「歌はド下手で楽器も弾けない貴方がそんな...」
「!」
久隆は、両手をあげびっくりの仕草をする。
「なんてこと言うの!和は」
あまりの面白さに悶絶した。
仲良しだよね、この二人。
「いくらすると思ってるんですか。車一台簡単に買えちゃうんですよ?」
「お祖父ちゃんに頼むからいい」
「ちょっと!」
和が止めるのも聞かずに久隆は大崎グループの会長に電話をかけ、和がやれやれと、肩を竦めてこちらを見る。
「大変だねー」
「いいんですけどね、久隆様が何か欲しがるなんてめったにないので」
「あ、お祖父ちゃん?」
葵たちは久隆をじっと見ていた。
「グランドピアノ買って。うん、欲しいの」
何を話しているのやら、久隆は真剣に聞いている。そして、電話を切ると葵たちの方を見て、
「買ってくれるって」
とピースした。
「会長は甘いですね」
と、和。
「なんか、おねだりしたら凄い喜んでた」
「久隆くんちは面白いねッ」
久隆は、大人しい咲夜が気になるのかその手を取る。
「CD探してくる」
葵は言って、みんなから離れた。
**
「荷物増えちゃったね」
と、葵は手元を見ながら。
「お土産何にしようか?」
葵の荷物を受けとると久隆がそう言う。久隆は優しい。理想の恋人という感じだ。
「久隆、半分もつ」
久隆の隣に居た咲夜がそれを見て、彼に手を出差した。
「久隆くんっ青果店があるぅ」
仲いいなと思いながら前方に目を移すと、葵の好物が。
「何か欲しいの?」
と、久隆。
「ミカンッ」
「時期外れじゃない?」
と、咲夜。
「和、お土産メロンでいいかな?」
青果店に寄ると決めた久隆が和に、大崎邸従業員へのお土産についての相談を持ち掛ける。
「メロンですか。いいかも知れませんね」
和は、話を受けてそう返答をした。
「みんなで分けられる分くらいの量、買っといて」
「かしこまりました」
和が離れてゆくと葵は、久隆に素朴な疑問をぶつける。
「そういや久隆くんって、家族にお土産買ってるの見たことないけど?」
途端に久隆が眉を寄せた。
何か地雷踏んだのだろうか?
「いいんだよ、あの人たちは。欲しいものがあれば勝手にどこにでも行くんだから」
と呆れ口調の久隆に、
「何かあったの?」
葵は心配になる。久隆はヤレヤレというように肩を竦めると、
「ある時、お祖父ちゃんがさー」
と話し出す。
「うん」
葵は相槌をうった。咲夜も興味津々という感じで聞いている。
「突然マグロ食べたいって言いはじめてさ。どこかのお店に行くのかと思ったら、親父と兄を引き連れて、知り合いの漁船に乗り込んでマグロの一本釣りについて行った。バカだろ。釣りなんかできないのに」
「え」
「さすがに、かに漁は止めたけど。迷惑になるから辞めろって」
「相変わらず、フットワーク軽いねぇ」
「クレイジー過ぎるだろ。会社ほっぽってさ」
久隆は肩を竦め、咲夜が苦笑いした。
**
「将来久隆くんたちって、一緒に働くんだよね?」
そういえばと、葵は自分の境遇について考える。
「ん?そうなるね」
面白い大崎一家。将来、久隆は社長、咲夜は大崎グループに入る、しかし自分は…。
「俺も一緒に働きたーい。ずるいよ、久隆くんとサクだけ」
「え?自分の会社どうするの?」
咲夜が思わず口を挟む。葵は一人息子だ、将来片倉を継ぐことになる。葵は二人と一緒に居たかったため、
「久隆くぅん。合体しよーよー」
と久隆にすり寄り、
「それを言うなら、合併でしょッ」
咲夜に突っ込まれ、久隆が肩を揺らし笑った。
「さて、帰りますよ」
和が買い物を済ませて戻ってくる。
「あ、みかんの缶詰めだぁ!わーい」
和はメロンの他にみかんの缶詰めを買ってくれており、みんなで荷物を手分けして持つと、なんだかわくわくし、こんな日がずっと続けばいいのにと、葵は思っていた。
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────月曜日。
「でねッ」
葵たちは久隆と咲夜の三人で、学園に登校するようになり、更に注目度が上がった。
「あーあ、教室着いちゃった」
葵は残念そうにそう言うと、久隆がハグをしてくれる。
ここはアメリカですか?
いいえ、け..ry
「来年は同じクラスになりたいなぁ」
と言うと、
「成績良かったらなれるよ」
と久隆が笑う。発表こそされはしないが、久隆は学年五番以内。咲夜は主席であった。
大里も頭いいんだなあ、久隆くんたちと同じクラスなんだもの。
葵がため息をつくと、
「テスト勉強、一緒にやろうね」
そういって、久隆と咲夜が葵を見て微笑む。
良く考えたら、俺ってハーレム?逆ハーレム?
いやいや、俺も男だけど。
この二人ってモテるんじゃ?
葵は、自分の教室に行きたくなくて二人にへばりついていたら、後ろから頭を撫でられた。
「おす。お前ら仲いいな、ほんと」
「大里、おっは」
葵は頭を押さえる。
「おはよう」
久隆は、珍しく微笑んだ。咲夜も、普通に挨拶をしたのだが。
ん?んん?
なんか、この三人って。
なんかあった?
葵には、咲夜と大里がただならぬ雰囲気を醸し出しているように見える。
「あ、予鈴」
「葵ちゃんまたね」
久隆たちが手を振ってくれた。
**
それは、お昼のこと。
「いいのかよ、俺たちといて」
いつもの待ち合わせ場所にいくと、いつもの感じとは違った。久隆が困った顔をしている。
「いいよ」
四人がけの席に、久隆と咲夜が向かいあって座っている。そして、久隆の隣には大里が。
「取り巻き..」
久隆は、自分たちのところにいる大里をとても心配しているようで、大里は、葵に気づくと「よう!」と片手をあげた。
「大里?」
「いいだろ?入れてくれても」
「いいけど」
「お前らといる方が楽しいから」
と、大里は言う。久隆は、自分たちといることで大里が仲間はずれにでもなると思っているのだろうか?それとも。葵は隣に座る咲夜に甘やかされながら、大里を観察していた。
まずはイケメンだ。
背も高いし。
意外と面倒見も良さそう。
でもなあ、なんというか壁をかんじる。
偽ってるとかじゃなくて、こう…。
「葵、どこ見てるの?鼻で食べる気?」
「へへッ」
咲夜に怒られる。
それにしても、大里って久隆くんのこと好きだよね?
久隆くんはなんとも思ってなさそうだけど。
久隆はご飯を食べ終えると、大里を背もたれにしてうとうとしはじめる。咲夜はやきもちを妬かないためか、あえて見ないようにしているように感じた。大里が久隆の体温を感じながら優しい笑みを浮かべている。
こんなことを言うのはあれだけれど、どうしてこんなにカッコいいのに、久隆は大里を見向きもしないのだろう?それどころか、塩対応な気さえする。大里が遊び人だという噂はよく聞く。来るもの拒まずだということも。なんかほっとけないなぁ。おせっかいかもしれないけれど。久隆くんがあれだけ安心して背中を預けられる人なら、悪い人じゃないんじゃないのかな?友達になれたらいいのに。あ、大親友は久隆くんだけだけど。
葵は、おせっかいだということを理解しながらも大里のことが気になっていた。
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