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────2章【久隆と葵】
□8「苦悩の時」
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****♡Side・久隆
久隆はじっと咲夜の動向を見守っていたが、不意に額に手を充て項垂れた。
俺、咲夜に何て言った?
変態か?
そこで久隆は改めて、兄を尊敬する。彼は二年もの間、目の前に餌が転がっているというのに未だ、手を出さないと言うのだ。そんな兄の恋も今日が明暗をわけるのだろう、月曜日から三日連続で父の出張についていかねばならない。また忙しくなってしまうからだ。
『兄さん、日曜はどうするの?』
『用事ができるかもしれないから、マンションへ戻るよ』
久隆の問いにそう答えた兄。久隆が残念そうな表情をするのに気づくと抱きしめてくれた。
果たして自分ならと久隆は考える。何年も好きだった相手を兄のように、法律上の理由でフッた上に、更に想い続けるなどという芸当が出来るものだろうか、と。恐らく無理であろう。
彼は高校二年の時に、好いた相手に告白されたものの、振らねばならないという事態に陥った。思い返せば大里の姉と“偽りの恋人”を始めたのも、あの頃である。兄は、よっぽどショックだったに違いない。大里の姉は事情を知った上で”偽りの恋人”を兄に提案したというのだから、変わった人である。彼女は兄に想いを寄せていたのだから。変わっているのはそれだけではないのだが。
バレンタインにカワハギって、あげるか?
いや、百歩譲ってもあげないよな?
スルメイカとかさ。
当時、兄が嬉しそうにカワハギを焼いて食べていたのを思い出す。久隆はなんとも複雑な気持ちなった。そして視線を咲夜に移せば、涙目で困り果てている。
「咲夜」
久隆が彼の名前を呼べばビクリと肩を震わす。可哀想なことをしてしまったと思いながら、久隆が両手を差し出すと彼は、おずおずとこの手を握った。
「おいで」
と彼の身体を引き寄せ、足の間に座らせると後ろから抱き締める。
「意地悪して、ごめんね?」
愛しい彼の首筋に吸い付き、握り込んだその指先を弄ぶ。時々、金属が指にあたるのが心地良い。
「もう意地悪しないから、泣かないの。可愛いんだから、ほんと」
目に溜めていた彼の涙が久隆の指を濡らし、愛しさが増した。
「ねえ、咲夜?」
何も答えてくれない彼に不安を覚える。彼に嫌われては、この先生きていくことなど到底出来はしまい。
「好きだよ」
「俺も、久隆が好き」
小さなその声に、久隆はため息を漏らす。彼はどこまで自分を虜にするのかと。
鎖に繋ぎたくなるほどに
君を愛しいと思うのは
愚かだろうか?
閉じ込めて愛し尽くしたいと
願ってしまう自分は
狂気にさらされているのか
「言うこと聞かなかったら、嫌われちゃうかなって思うと怖いよ。でも、恥ずかしいから出来ない」
と言って唇を噛む彼の耳に久隆は口づけをする。
「出来ないことはしなくていい」
と久隆は優しく彼にそう告げた。
「でも」
「いいんだよ。俺たちは恋人でしょ?対等なんだから」
「うん」
「いい子」
”可愛いなあ”久隆は咲夜の肩口に顔を埋めると、そんなことを思っていたのだった。
久隆はじっと咲夜の動向を見守っていたが、不意に額に手を充て項垂れた。
俺、咲夜に何て言った?
変態か?
そこで久隆は改めて、兄を尊敬する。彼は二年もの間、目の前に餌が転がっているというのに未だ、手を出さないと言うのだ。そんな兄の恋も今日が明暗をわけるのだろう、月曜日から三日連続で父の出張についていかねばならない。また忙しくなってしまうからだ。
『兄さん、日曜はどうするの?』
『用事ができるかもしれないから、マンションへ戻るよ』
久隆の問いにそう答えた兄。久隆が残念そうな表情をするのに気づくと抱きしめてくれた。
果たして自分ならと久隆は考える。何年も好きだった相手を兄のように、法律上の理由でフッた上に、更に想い続けるなどという芸当が出来るものだろうか、と。恐らく無理であろう。
彼は高校二年の時に、好いた相手に告白されたものの、振らねばならないという事態に陥った。思い返せば大里の姉と“偽りの恋人”を始めたのも、あの頃である。兄は、よっぽどショックだったに違いない。大里の姉は事情を知った上で”偽りの恋人”を兄に提案したというのだから、変わった人である。彼女は兄に想いを寄せていたのだから。変わっているのはそれだけではないのだが。
バレンタインにカワハギって、あげるか?
いや、百歩譲ってもあげないよな?
スルメイカとかさ。
当時、兄が嬉しそうにカワハギを焼いて食べていたのを思い出す。久隆はなんとも複雑な気持ちなった。そして視線を咲夜に移せば、涙目で困り果てている。
「咲夜」
久隆が彼の名前を呼べばビクリと肩を震わす。可哀想なことをしてしまったと思いながら、久隆が両手を差し出すと彼は、おずおずとこの手を握った。
「おいで」
と彼の身体を引き寄せ、足の間に座らせると後ろから抱き締める。
「意地悪して、ごめんね?」
愛しい彼の首筋に吸い付き、握り込んだその指先を弄ぶ。時々、金属が指にあたるのが心地良い。
「もう意地悪しないから、泣かないの。可愛いんだから、ほんと」
目に溜めていた彼の涙が久隆の指を濡らし、愛しさが増した。
「ねえ、咲夜?」
何も答えてくれない彼に不安を覚える。彼に嫌われては、この先生きていくことなど到底出来はしまい。
「好きだよ」
「俺も、久隆が好き」
小さなその声に、久隆はため息を漏らす。彼はどこまで自分を虜にするのかと。
鎖に繋ぎたくなるほどに
君を愛しいと思うのは
愚かだろうか?
閉じ込めて愛し尽くしたいと
願ってしまう自分は
狂気にさらされているのか
「言うこと聞かなかったら、嫌われちゃうかなって思うと怖いよ。でも、恥ずかしいから出来ない」
と言って唇を噛む彼の耳に久隆は口づけをする。
「出来ないことはしなくていい」
と久隆は優しく彼にそう告げた。
「でも」
「いいんだよ。俺たちは恋人でしょ?対等なんだから」
「うん」
「いい子」
”可愛いなあ”久隆は咲夜の肩口に顔を埋めると、そんなことを思っていたのだった。
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