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2章『二人で探る幸せの場所』
16:傍にいることしか出来なくても
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****♡Side・塩田
「行くぞ」
あまりに素敵な外観だったので二人ともしばらくその場に立ち尽くしていたが、ハッと我に返り塩田が皇に手を差し出す。
「立っていても仕方ないしな」
と塩田が言えば、
「あ、ああ」
と我に返った皇がその手を握る。
いつまで経ってもラブラブの恋人同士の雰囲気には程遠い二人だが、そんなことは知ったことではないと言わんばかりに塩田は歩き出した。
「なんだか、素敵なところだね」
ロータリーには噴水。ライトアップされていてとてもゴージャスである。
ロビーに足を踏み入れようとするとベルボーイに声をかけられ、予約があることを告げればフロントに案内された。
商談などで使われるのか、外国人が多い。
場違いなところへ来てしまったなと思い皇の方へ視線を向けると、彼は彼でキラキラしていた。
──そうだ。忘れていたが、皇は立派な副社長様。
場にそぐわないなどと言うことはない。
全身ブランドで固め、見目麗しい皇は立ち姿も優雅だった。
場違いは自分だけかと思いながらベルボーイの案内を断り、エレベーターへ向かう。アンティークな装飾の施されたエレベーターは全体にアンティーク調の内観ともマッチしている。
淡い黄色の光に包まれたエレベーターで上階へ向かう。
「展望レストランがあるんだね」
と皇。
「食事は上でするか?」
彼が浮かれているのに気づくと、そう提案する塩田。
「いいね」
嬉しそうに笑みを浮かべる彼の頬に指先で触れる。
「えっと……?」
戸惑う彼に、
「最近元気なかったから」
と言えば、
「ありがとう」
と可憐に微笑む。
自分が彼にしてあげられることなどたかが知れている。
きっと社長と唯野のことで気が沈んでいるに違いない。
『副社長』という肩書は、社長に向かうには弱く、唯野を守るどころか逆に守られている状況。無力さを嘆くなと言ったところで、一時の気休めにしかならない。
だから自分が皇を守る。
この手を放さない。
唯野の努力に報いるためにも。
そうでなければ、唯野が耐えてきた意味がない。
エレベーターを降りると、まずは部屋に向かう。
カードキーでドアを開け、室内に足を踏み入れれば別の時代へ足を踏み入れたような錯覚さえ起こす。
リビングを占める大きな窓の向こうには夜景が広がっていた。
塩田は、会社を出てからもうそんなに時間が経っていたんだなとぼんやり思う。
嬉しそうに夜景を眺める皇を後ろから抱きしめる。もう少し身長が欲しかったなと思いながら。だがそんなことを想うのは、彼と紛れもなく恋愛をしているからなのだ。
今までの自分なら、そんなことは取るに足りないこと。
『壊れそうな恋人を優しく包み込みたい』
なんて考えもしなかった。
「塩田、ありがとう」
彼の胸に回した手に重ねられる手。
「すこし元気出てきたよ。悲観的になるのはもう、やめにする」
皇の決意。
「だって俺には塩田の隣以外、自分の場所はないから」
”いや”と続ける。
「塩田の隣以外、俺の居場所じゃないから」
皇の言葉に塩田はふっと笑う。
すると彼が身体を反転させ、じっとこちらを見つめた。
「なんで笑うんだよ」
と不服そうな表情。
「そんなに愛してくれんの?」
じとっとこちらを見つめる皇を見つめ返し、目を細める塩田。
すると、
「そんな顔、他の人に見せたらダメ」
塩田の頬を包み込む彼の手。
自分がどんな顔をしているのか塩田には分からないが、そのまま皇に唇を奪われる。
「俺以外に、そんな優しい顔しないで。発狂しちゃう」
「可愛いヤツ」
皇の理不尽な言葉に塩田は肩を竦めた。
「さて、飯行こう。そのあと、皇を食う」
塩田は彼の手を掴むと、玄関へ向かう。
「な!」
「ん?」
名前で呼ばなかったことが気に入らなかったのだろうかと思っていると、
「もう、塩田はムードがないんだから」
と抗議を受けた。
「じゃあ、なんて言われたいんだよ」
「え?」
考えていなかったのか、返しに困っている皇にちゅっと口づけると、塩田はその手を掴んだまま再び廊下へ出たのだった。
「行くぞ」
あまりに素敵な外観だったので二人ともしばらくその場に立ち尽くしていたが、ハッと我に返り塩田が皇に手を差し出す。
「立っていても仕方ないしな」
と塩田が言えば、
「あ、ああ」
と我に返った皇がその手を握る。
いつまで経ってもラブラブの恋人同士の雰囲気には程遠い二人だが、そんなことは知ったことではないと言わんばかりに塩田は歩き出した。
「なんだか、素敵なところだね」
ロータリーには噴水。ライトアップされていてとてもゴージャスである。
ロビーに足を踏み入れようとするとベルボーイに声をかけられ、予約があることを告げればフロントに案内された。
商談などで使われるのか、外国人が多い。
場違いなところへ来てしまったなと思い皇の方へ視線を向けると、彼は彼でキラキラしていた。
──そうだ。忘れていたが、皇は立派な副社長様。
場にそぐわないなどと言うことはない。
全身ブランドで固め、見目麗しい皇は立ち姿も優雅だった。
場違いは自分だけかと思いながらベルボーイの案内を断り、エレベーターへ向かう。アンティークな装飾の施されたエレベーターは全体にアンティーク調の内観ともマッチしている。
淡い黄色の光に包まれたエレベーターで上階へ向かう。
「展望レストランがあるんだね」
と皇。
「食事は上でするか?」
彼が浮かれているのに気づくと、そう提案する塩田。
「いいね」
嬉しそうに笑みを浮かべる彼の頬に指先で触れる。
「えっと……?」
戸惑う彼に、
「最近元気なかったから」
と言えば、
「ありがとう」
と可憐に微笑む。
自分が彼にしてあげられることなどたかが知れている。
きっと社長と唯野のことで気が沈んでいるに違いない。
『副社長』という肩書は、社長に向かうには弱く、唯野を守るどころか逆に守られている状況。無力さを嘆くなと言ったところで、一時の気休めにしかならない。
だから自分が皇を守る。
この手を放さない。
唯野の努力に報いるためにも。
そうでなければ、唯野が耐えてきた意味がない。
エレベーターを降りると、まずは部屋に向かう。
カードキーでドアを開け、室内に足を踏み入れれば別の時代へ足を踏み入れたような錯覚さえ起こす。
リビングを占める大きな窓の向こうには夜景が広がっていた。
塩田は、会社を出てからもうそんなに時間が経っていたんだなとぼんやり思う。
嬉しそうに夜景を眺める皇を後ろから抱きしめる。もう少し身長が欲しかったなと思いながら。だがそんなことを想うのは、彼と紛れもなく恋愛をしているからなのだ。
今までの自分なら、そんなことは取るに足りないこと。
『壊れそうな恋人を優しく包み込みたい』
なんて考えもしなかった。
「塩田、ありがとう」
彼の胸に回した手に重ねられる手。
「すこし元気出てきたよ。悲観的になるのはもう、やめにする」
皇の決意。
「だって俺には塩田の隣以外、自分の場所はないから」
”いや”と続ける。
「塩田の隣以外、俺の居場所じゃないから」
皇の言葉に塩田はふっと笑う。
すると彼が身体を反転させ、じっとこちらを見つめた。
「なんで笑うんだよ」
と不服そうな表情。
「そんなに愛してくれんの?」
じとっとこちらを見つめる皇を見つめ返し、目を細める塩田。
すると、
「そんな顔、他の人に見せたらダメ」
塩田の頬を包み込む彼の手。
自分がどんな顔をしているのか塩田には分からないが、そのまま皇に唇を奪われる。
「俺以外に、そんな優しい顔しないで。発狂しちゃう」
「可愛いヤツ」
皇の理不尽な言葉に塩田は肩を竦めた。
「さて、飯行こう。そのあと、皇を食う」
塩田は彼の手を掴むと、玄関へ向かう。
「な!」
「ん?」
名前で呼ばなかったことが気に入らなかったのだろうかと思っていると、
「もう、塩田はムードがないんだから」
と抗議を受けた。
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「え?」
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