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5 過ちでも、後悔せずに
4・愛しき彼女と自由
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大林が部屋から出てくと、膝に顔を突っ伏しため息をつく和宏。
彼女は魅力的だ、とても。
女性が苦手な和宏にとって、唯一一緒にいても楽な異性でもある。
心も身体も結ばれて幸せなはずなのに、この関係に未来はない。
彼女には婚約者がいて、そこにどんなに愛がなくともいづれアイツのものになってしまうのだから。
絶望的な気持ちになりながらベットから降りると真っ白なカーテンを開け放つ。大きな窓の外には綺麗な夜の海が広がっていた。
暖色の間接照明のみの部屋はシックでお洒落に映る。それを和宏は、まるで映画のワンシーンのように感じた。
これは非日常。いつか醒める夢。
だから少しくらい大胆になって彼女を喜ばせてあげるべきだと思うのに、性格上そんなことはできない。
──沙希は、こんな俺のどこが良いと言うのだろう?
できることなら彼女と添い遂げたい。
それは叶うことのない想いで、叶えることのできない未来。
彼女もそう思うからこそ、和宏を非日常に招き入れたのだと思う。
「和宏」
呼ばれてドアの方に視線を向ければ、大林がドアの隙間からこちらを覗き込んでいた。
肩が見えていることからバスタオル一枚なのだろうと推測する。確かこの部屋の隣にはジャグジーとシャワールームがあった。
「何か忘れ物?」
「ええ。和宏を」
悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女に和宏は戸惑う。
「俺を?」
大林は一緒に入ろうと言う。
「忘れないでいただきたいの、わたくしのことを」
儚げな笑顔。思い出を作りたいのだと解釈した和宏は、立ち上がるとドアに近づく。
その夜、和宏は理性を手放した。
彼女に望まれるままに。
「何処の国にも”らしさ”というものはあって、美しさもそれぞれ」
「そうだね」
翌朝、同じ布団の中で彼女と語り合う。
「そして他人に支配された日常から、個は解放され自由を得たはずですの」
もちろん、いまだに男尊女卑などから自由とは言いきれない国もあるだろう。学びたいという意思を奪われている国もある。
一部の人間が国を支配したいからと言って、国民から学びを奪うことは愚かな行為だろう。それでは国は発展しないし、そのための発想も生まれない。
愚かな人間こそが他人から命を奪い、国の発展を阻害してきたに違いない。
「少なくとも日本では、自由恋愛が認められている」
「うん」
「それなのに、どうしてわたくしには自由が許されないのかしら」
それは嘆き。そして絶望。
彼女を救えるのは自分しかいないのに、和宏は勇者にはなれないのだ。
「なら、沙希が変えたらいいよ」
「わたくしが?」
彼女の問いに和宏は頷いた。
自由恋愛が許されているこの国で、今なお家のしきたりに支配されているとするならば。自分の代で変えるしかない。誰かがやらなければ、いつまでもこのままなのだから。
「できるのかしら」
「できるよ。ううん、やらなきゃ。でないと沙希はずっと囚われたままになってしまう」
一晩中、求められるままに与え続けた和宏はほんの少しだけ、自信が持てたような気がしていた。
「和宏はわたくしの傍にいてくださる?」
「もちろんだよ」
”いつだって沙希の味方だ”と続け、口づけを交わす。
彼女をたきつけるのは彼女のためか。
それとも自分のためなのか。
だが一緒にいたいという気持ちは本物だった。
自分が何とかできなくとも当事者である大林なら、時間がかかっても変えられると思ったのかもしれない。
世の中にはどうにもならないこともある。それを知らないほどに自分は子供だった。少なくとも世間を知らなかったといえる。
日常に戻った時、二人を待ち受けていたのは絶望という名の現実だった。
「兄さん、大丈夫?」
自分は大林沙希から全てを取り上げるための駒にされたのだと知る。何故、彼女を両親が好きにさせていたのか、深く考えるべきだったのだ。
和宏は後悔の中で、自分の愚かさを嫌というほど自覚する。
自由にしてあげたかったはずなのに、鎖に繋いでしまったのだ。
彼女は魅力的だ、とても。
女性が苦手な和宏にとって、唯一一緒にいても楽な異性でもある。
心も身体も結ばれて幸せなはずなのに、この関係に未来はない。
彼女には婚約者がいて、そこにどんなに愛がなくともいづれアイツのものになってしまうのだから。
絶望的な気持ちになりながらベットから降りると真っ白なカーテンを開け放つ。大きな窓の外には綺麗な夜の海が広がっていた。
暖色の間接照明のみの部屋はシックでお洒落に映る。それを和宏は、まるで映画のワンシーンのように感じた。
これは非日常。いつか醒める夢。
だから少しくらい大胆になって彼女を喜ばせてあげるべきだと思うのに、性格上そんなことはできない。
──沙希は、こんな俺のどこが良いと言うのだろう?
できることなら彼女と添い遂げたい。
それは叶うことのない想いで、叶えることのできない未来。
彼女もそう思うからこそ、和宏を非日常に招き入れたのだと思う。
「和宏」
呼ばれてドアの方に視線を向ければ、大林がドアの隙間からこちらを覗き込んでいた。
肩が見えていることからバスタオル一枚なのだろうと推測する。確かこの部屋の隣にはジャグジーとシャワールームがあった。
「何か忘れ物?」
「ええ。和宏を」
悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女に和宏は戸惑う。
「俺を?」
大林は一緒に入ろうと言う。
「忘れないでいただきたいの、わたくしのことを」
儚げな笑顔。思い出を作りたいのだと解釈した和宏は、立ち上がるとドアに近づく。
その夜、和宏は理性を手放した。
彼女に望まれるままに。
「何処の国にも”らしさ”というものはあって、美しさもそれぞれ」
「そうだね」
翌朝、同じ布団の中で彼女と語り合う。
「そして他人に支配された日常から、個は解放され自由を得たはずですの」
もちろん、いまだに男尊女卑などから自由とは言いきれない国もあるだろう。学びたいという意思を奪われている国もある。
一部の人間が国を支配したいからと言って、国民から学びを奪うことは愚かな行為だろう。それでは国は発展しないし、そのための発想も生まれない。
愚かな人間こそが他人から命を奪い、国の発展を阻害してきたに違いない。
「少なくとも日本では、自由恋愛が認められている」
「うん」
「それなのに、どうしてわたくしには自由が許されないのかしら」
それは嘆き。そして絶望。
彼女を救えるのは自分しかいないのに、和宏は勇者にはなれないのだ。
「なら、沙希が変えたらいいよ」
「わたくしが?」
彼女の問いに和宏は頷いた。
自由恋愛が許されているこの国で、今なお家のしきたりに支配されているとするならば。自分の代で変えるしかない。誰かがやらなければ、いつまでもこのままなのだから。
「できるのかしら」
「できるよ。ううん、やらなきゃ。でないと沙希はずっと囚われたままになってしまう」
一晩中、求められるままに与え続けた和宏はほんの少しだけ、自信が持てたような気がしていた。
「和宏はわたくしの傍にいてくださる?」
「もちろんだよ」
”いつだって沙希の味方だ”と続け、口づけを交わす。
彼女をたきつけるのは彼女のためか。
それとも自分のためなのか。
だが一緒にいたいという気持ちは本物だった。
自分が何とかできなくとも当事者である大林なら、時間がかかっても変えられると思ったのかもしれない。
世の中にはどうにもならないこともある。それを知らないほどに自分は子供だった。少なくとも世間を知らなかったといえる。
日常に戻った時、二人を待ち受けていたのは絶望という名の現実だった。
「兄さん、大丈夫?」
自分は大林沙希から全てを取り上げるための駒にされたのだと知る。何故、彼女を両親が好きにさせていたのか、深く考えるべきだったのだ。
和宏は後悔の中で、自分の愚かさを嫌というほど自覚する。
自由にしてあげたかったはずなのに、鎖に繋いでしまったのだ。
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