R18【同性恋愛】リーマン物語if6『private』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
4 / 47
1『変化する想いと日常』

0 プロローグ

しおりを挟む
──なんで、こんなにショックなんだ?

「板井」
 目の前で女子社員と抱擁しているのは、紛れもなく信頼していた自分の部下。
「はい?」
「会社で何してるんだ」

 先日、十七年の結婚生活に幕を降ろした。

「え? これは違うんです」
「イチャつくなとは言わないが、勤務時間外にやれよ」
「課長、誤解です!」

 昨日、別居のために有給休暇を使い、新しい住まいを探した。

「別に誤解なんてしてないだろ?」
 出勤してきたら自分の部下が、隣の部署の女の子と抱き合っているのを目撃。
 何故それがこんなにもショックなのか分からないまま、唯野はいつになく冷たい声音で板井に告げる。
「始業前には部署に来いよな」
 唯野は彼の制止も聞かず踵を返した。


 角を曲がり、唯野は膝に両手をつく。
 妻から別れを切り出され、何も感じない自分がいる。いつかはこうなると思っていたから、その日がついに来たんだなとくらいしか思えずにいた。
 愛はなかった。それでも愛する努力はしたつもりでいた。
 その努力が実らなかっただけ。せめて妻のこの先の人生が、明るいものであればよいと願う。

──ばちが当たったのかな。

 泣きたい気持ちになって、唇を噛みしめる。
 彼を好きだと思ったきっかけはなんだったろうか。
「おわッ……」
 曲がり角にいた唯野に誰かがぶつかる。唯野は膝に両手をついた姿勢で身体を捻り、相手を確認した。
「なんでこんなところで立ち止まってるんです?」
 慌てて追ってきたのだろうか、困った顔をして彼はこちらを見ている。
「いいだろ、別に」
 いつもなら絶対言わないセリフ。
 彼はため息を一つ着くと、
「さっきのは誤解です」
ときっぱり言い放つ。
「別に、俺には関係ないし」
 唯野は上半身を起こすと、彼に向き直って。

──関係ないことだ。
 俺と板井は特別な関係じゃない。
 想いを告げたこともないし。

「そうですか。分かりました」
 彼、板井はじっと唯野を見つめていたが、
「先に行きますね」
と言って唯野の脇をすり抜ける。
 彼が、唯野に対し冷たいのも初めてだった。

「っ……」

──自分が言ったくせに。

 唇を噛みしめ、手の平で顔を覆う。
 板井は入社してからずっと自分を慕ってくれていた。彼の好意が尊敬であることは知っている。いつだって自分を気遣ってくれる彼に、特別な想いを抱いたとしても不思議はないはずだ。
 それでも、自分は妻帯者だったからその想いを表に出すことはなかった。

──たった一日居なかっただけで、誰かに取られるくらいなら……。

「?!」
 ふいに後ろから抱きしめられ、唯野はびくりと肩を震わせる。
「なんで泣くんですか?」
「板井」
「そんなことされたら、期待してしまう」
 ”ずるい”と言われ、自分を抱きしめているその腕に触れた。
「総括から、課長が離婚されたと聞きました。もう、我慢しなくていいですよね?」
「我慢?」
 なんのことだというように振り返ろうとすれば、それを阻むようにさらに強く抱きしめられる。
「あなたが好きです。俺とお付き合いしませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...