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2『進み続けた時間』
1 告白と口づけ
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****side■板井
変わらない毎日を繰り返している。そう思っていたのに、いつの間にか日常は変化を遂げていた。
『あなたが好きです。俺とお付き合いしませんか?』
近くの資料室に唯野を連れ込み、その唇に口づける。
「俺のこと、好きですよね?」
別に確信があったわけじゃない。しかしちょっとそっけない態度を取ったくらいで泣かれるのは……正直、どうかと思う。
「うん……」
伏し目がちな瞳は床を見つめたまま。
──うんって……可愛い。
このまま強引に押せば、きっと彼は首を縦に振るだろう。しかし、流されてつき合うという結果になるのは避けたかった。
「板井……あのさ」
「あ、すみません。電話です」
板井の胸ポケットのスマホがブルっと震え、板井は彼の言葉を遮る。
「分かった。俺、先に行くわ」
「え?」
彼は板井の胸をそっと押しのけると、脇をすり抜けた。板井は慌てて手を伸ばしたが、その手は空を切る。
「早く出ろよ」
ドアに手をかけた唯野は、いつもの上司としての顔でこちらを振り返り、そして視線を前に戻すとそのまま出て行った。
「え……?」
板井はスマホを持ったまま、呆然と立ち尽くす。
──もしかして、チャンスを失ったのか?
嘘だろ……?
どれくらいそうしていただろうか?
いつの間にか切れたスマホが再びぶるっと震えて、板井は我に返った。
「はい……」
「よう、板井。こんなところで会うなんて珍しいな」
「副社長」
企画部から出たところで、板井は皇副社長に遭遇した。ベージュ系のさらさらの金髪がトレードマークであり、童顔で整った顔をした、わが社の副社長様だ。自分たちとは二つくらいしか年が違わない。
「副社長もこちらに用が?」
「ああ。まあ」
大した用じゃないというように、ジェスチャーをする彼を板井はぼんやりと眺めていた。確か彼は、唯野の営業部時代の後輩だ。あまり懇意にしているところは見たことがないが、総括黒岩が言うには”二人はとても仲が良かった”そうだ。
「副社長」
「ん?」
こちらを見上げる彼から視線を床に移す。
彼からならば、活路を見出す出すための情報を得られるだろうか?
「どうしたら、課長と懇意になれるんですか?」
板井の質問に皇は、ゆっくりと目を見開いた。
「懇意って……おま……」
「どうしたら、あの人の心の中に入ることが出来るんです?」
板井は静かに視線だけを彼に向ける。皇は青ざめた顔をしてこちらを見ていた。
「仲……いいんですよね?」
「ああ。確かに他の奴らよりは仲はいいとは思うよ」
青ざめた顔をしていた皇は、歯切れの悪い言い方をする。板井は、皇が唯野と仲が良いことを隠していたことがバレて青ざめているのかと思った。
「けれど、あの人の心に入ることなんてできはしないし、そんな方法は知らない」
「え?」
「嘘じゃない。あの人は他人に心を開かない」
”誰も信用してないから”と続けて。
板井は、唇を噛みしめ拳を握りしめる皇を見ていた。きっと彼は嘘を言っているわけではないのだろう。
──これじゃ、もう打つ手がない。
どうすれば……。
「板井」
「!」
なんと言おうか迷っていると、突然背後から自分を呼ぶ声がした。
「こんなところにいたのか。早く戻って来い」
「課長」
板井を呼ぶ唯野の声に皇の視線が動くのが分かった。
「板井、またな」
「副社長……」
板井の陰に居た副社長は、スッと扉の中へ姿を消す。まるで、唯野を避けるように。
──何かあるのか? この二人……。
変わらない毎日を繰り返している。そう思っていたのに、いつの間にか日常は変化を遂げていた。
『あなたが好きです。俺とお付き合いしませんか?』
近くの資料室に唯野を連れ込み、その唇に口づける。
「俺のこと、好きですよね?」
別に確信があったわけじゃない。しかしちょっとそっけない態度を取ったくらいで泣かれるのは……正直、どうかと思う。
「うん……」
伏し目がちな瞳は床を見つめたまま。
──うんって……可愛い。
このまま強引に押せば、きっと彼は首を縦に振るだろう。しかし、流されてつき合うという結果になるのは避けたかった。
「板井……あのさ」
「あ、すみません。電話です」
板井の胸ポケットのスマホがブルっと震え、板井は彼の言葉を遮る。
「分かった。俺、先に行くわ」
「え?」
彼は板井の胸をそっと押しのけると、脇をすり抜けた。板井は慌てて手を伸ばしたが、その手は空を切る。
「早く出ろよ」
ドアに手をかけた唯野は、いつもの上司としての顔でこちらを振り返り、そして視線を前に戻すとそのまま出て行った。
「え……?」
板井はスマホを持ったまま、呆然と立ち尽くす。
──もしかして、チャンスを失ったのか?
嘘だろ……?
どれくらいそうしていただろうか?
いつの間にか切れたスマホが再びぶるっと震えて、板井は我に返った。
「はい……」
「よう、板井。こんなところで会うなんて珍しいな」
「副社長」
企画部から出たところで、板井は皇副社長に遭遇した。ベージュ系のさらさらの金髪がトレードマークであり、童顔で整った顔をした、わが社の副社長様だ。自分たちとは二つくらいしか年が違わない。
「副社長もこちらに用が?」
「ああ。まあ」
大した用じゃないというように、ジェスチャーをする彼を板井はぼんやりと眺めていた。確か彼は、唯野の営業部時代の後輩だ。あまり懇意にしているところは見たことがないが、総括黒岩が言うには”二人はとても仲が良かった”そうだ。
「副社長」
「ん?」
こちらを見上げる彼から視線を床に移す。
彼からならば、活路を見出す出すための情報を得られるだろうか?
「どうしたら、課長と懇意になれるんですか?」
板井の質問に皇は、ゆっくりと目を見開いた。
「懇意って……おま……」
「どうしたら、あの人の心の中に入ることが出来るんです?」
板井は静かに視線だけを彼に向ける。皇は青ざめた顔をしてこちらを見ていた。
「仲……いいんですよね?」
「ああ。確かに他の奴らよりは仲はいいとは思うよ」
青ざめた顔をしていた皇は、歯切れの悪い言い方をする。板井は、皇が唯野と仲が良いことを隠していたことがバレて青ざめているのかと思った。
「けれど、あの人の心に入ることなんてできはしないし、そんな方法は知らない」
「え?」
「嘘じゃない。あの人は他人に心を開かない」
”誰も信用してないから”と続けて。
板井は、唇を噛みしめ拳を握りしめる皇を見ていた。きっと彼は嘘を言っているわけではないのだろう。
──これじゃ、もう打つ手がない。
どうすれば……。
「板井」
「!」
なんと言おうか迷っていると、突然背後から自分を呼ぶ声がした。
「こんなところにいたのか。早く戻って来い」
「課長」
板井を呼ぶ唯野の声に皇の視線が動くのが分かった。
「板井、またな」
「副社長……」
板井の陰に居た副社長は、スッと扉の中へ姿を消す。まるで、唯野を避けるように。
──何かあるのか? この二人……。
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