【異性恋愛】思い出の中の、あなた。その想い

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一章:佳奈編

4・恋人の過去と今

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 今でこそこんな一志も、出逢ったばかりの頃は紳士的で知的に感じたものだ。

────こんなトチ狂ったやつだったなんて。

 佳奈は一日に何十件も届くメッセージに辟易し、しょっちゅうかけてくる電話に吐き気を感じた。
 一志は佳奈に構って欲しくて仕方ないのだ。

────お前は、ガキかっ!

 それでも会話の内容に知性を感じるならば、佳奈も我慢できただろう。
 だが彼の口から発せられるのは、佳奈への求愛と自慢話と他人の悪口だった。いつしか佳奈にとって一志は、異性として見ることが出来なくなる。

────なんだか、近所のおばさんのよう。

 それはもちろん、近所の誰かを指しているものではなくイメージだ。
 親しい者のへ、他人の悪口を言うものの心理を考える。

 佳奈には、”相手より自分のほうが優れている”ということを相手に誇示したいという心理によるものとしか考えられなかった。
 しかし他人の悪口を平気で口にするあたり、相手より劣っているとしか思えない。
 少なくとも、恋人に不快感を与えて平気な顔をしていることに知性の欠片も、思い遣りも感じなかった。

「出逢ったばかりの頃は、楽しかったのにな」

 趣味の話に花を咲かせ、笑いあったあの頃。
 それはもう、遠い記憶の中にしか存在しない。自分を性ではなく人として接してくれる一志に惹かれた。
 そしてその態度は変わらないものだと信じていた。

「そんなものは幻想」
 佳奈は両ひざを引き寄せる。
 当時の一志には恋人がいたのだ。いや、友達以上、恋人未満の相手が。

 その彼女は彼を束縛するだけで、気のない素振りをしていた。彼はその女性の気持ちを確かめるために、佳奈を利用したにすぎなかったのだ。

────恋愛対象じゃないから、単なる人として接してくれていたに過ぎない。

 だが、佳奈にとってはそれが心地よかったのである。
 男の甘い言葉には、性欲しか感じなかった、佳奈。
 こんな人もいるんだ、と惹かれたが勘違いだった。

『恋人ができたから、もう二人きりでは逢えない』
 そんな風に佳奈に告げる一志に、恋人を大切にする人なのだと思ってしまったのが間違い。

 佳奈は傍らの音楽プレイヤーに手を伸ばす。
 心を落ち着けるのは、音楽はもってこいだ。
 流れ出す”Whiskey”、しっとりとした大人の曲。

────そう、自分は大人の恋がしたかった。
 ロマンチックで、時間がゆっくりと感じられるような。

 一志にさよならを言ったのは自分。
 相手の女性のことを考えれば、彼に好意をもつ自分が傍にいるのは好ましくないだろうと考えたから。
 自分の気持ちに終止符を打つつもりで気持ちだけは伝えた。
 返事は不要として。終わったはずの恋なのに、しばらく佳奈は一志のことを引きずった。
 理想的な関係の相手として。

────綺麗な思い出で終わるはずだったのにな。

 世の中には知らなくても良いことが、きっとたくさんある。
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