【異性恋愛】思い出の中の、あなた。その想い

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二章:哉太編

5・彼女への手紙

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 古風だと思われるかもしれないが、手紙にしたのは理由がある。

 機械的な文字は整っているし、読みやすい。
 そして簡単に修正が利く。
 けれども手軽なものは、所詮手軽でしかない。
 開けずに破棄してしまえば、それで終わりだ。

 だが、直筆には温かみがある。選ぶ便せんにも人柄が出るし、間違えたから簡単に直すと言う事も出来ない。
 忘れてしまった文字は調べながら、間違えたなら一から書き直すことにもなるだろう。

 その為、何を書くか思案してから書く。
 何度も読み返し、おかしな部分はないか、正しく解釈してもらえるかなどを深く考える必要も出てくる。時間も気遣いも必要となるのだ。

 会って相手の目を見て話すのが一番とは言うが、冷静になれないこともある。衝動的に暴言を吐いてしまうことも。
 手紙ならば一方的ではあるが、少なくとも冷静でいられる。相手だってわざわざ暴言を送り付けてくるとは思わないであろう。
 時代はIT社会だ。

────あの日のことは忘れない。

 書きたいことも、伝えたいことも沢山あったが、”好き”のたった二文字が書けないでいた。
 気恥ずかしいという気持ちもあるが、振られるのが分かっているのに直接的な言葉にするのが怖かったのだ。

 それに彼女の恋人は彼女にストーカーのように纏わりつき、監視している。もし、彼女より先に手紙を見つけてしまったら、中身を確認されてしまうかもしれない。
 そうなったら彼女にサークルを辞めろと迫るだろう。
 哉太は最悪の事態は避けたかった。

 そこで、彼女が言っていたことを思い出す。彼女の恋人について知る数少ない情報を。

『え? 一志?』
 話をするときは、数人が同じ卓に居ることが多い。
 そうでなくても。昼間や休日に部屋に二人きりというのは、稀だった。
 同じ卓でも、それぞれが好き勝手おしゃべりをする。
 何かの取り決めでもない限り、みんなでおしゃべりをするというのはしないものだ。

『アイツのことなんて聞いて楽しいの?』
 佳奈は周りに彼氏のことを知られたくないと言うよりは、単純に彼のことを思い出すのが嫌と見える。
『趣味が似てたと言っていたから』
『ふうん』
 佳奈は無糖コーヒーが並々と注がれた大きめのカップを両手で持ち、口元へ持っていく。嫌そうな顔をしながら。
 眠れないと言いながら、彼女は無糖コーヒーを好んだ。
 ”香りはモカが好きだけど、酸味より苦み系が好きなんだよね”と言いながら。
 サークルに居るときは一日中コーヒーを飲んでいる。一度は、”そんなに飲むと脱水症状になっても知らないからな”と注意したこともあるくらいだ。
 あの時、彼女はなんと返事をしただろうか。

────そうだ。
”哉太も好きでしょ”
と、言って悪戯っぽく笑ったんだ。

 あの時自分は、もっと彼女の笑顔を見ていたいって思ったんだ。
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