10 / 28
一章:佳奈編
9・後悔の記憶
しおりを挟む────結果から言えば、彼女の説得は失敗した。
何を言っても無駄であろうと思っていた佳奈にとってそれは、予想通りの結果である。それでも、ほんの少しだけ日常に変化が訪れていた。
一志はその友人も含めてならば、佳奈は会ってくれるのだと勘違いしたようだ。
もちろん頻繁に会うことはなく、忙しい彼女の都合に合わせることとなったが。それでも二人きりで会いたくない佳奈にとっては、不幸中の幸いだと思っていた。
それが間違いだったと気づくのは、ある集まりの夜である。
友人の二人は佳奈の事情と一志の性格を理解してくれたため、いつでも一志を褒めてくれた。
褒めると調子に乗る一志であったが、彼らと遊べなくなることを考えれば我慢はできる。
佳奈は細心の注意を払い、一志を立て二人とはあまり話さなかった。
仲のいい様子が見えれば、すぐにでも二人を悪く言う事は分かり切っている。佳奈のために協力してくれる二人を悪く言われるのは、正直耐えられない。
「あ、わたしはお酒はいいわ」
佳奈は呑めないわけではなかったが、一志の前では酔いたくなかった。
何をされるか分からないからだ。
そして一志は酒に弱かったため、口にしなかった。友人男性は家族のことに花を咲かし、友人女性は職場での面白い人の話で盛り上がる。
その中で一志だけが自分自身の話をした。
いつでも自慢話ばかりする一志に、吐き気がしそうだった。
「ん?」
違和感を覚えたのは、会が終盤に差し掛かった頃。
いや、佳奈のせいでお開きとなったと言っても過言ではない。
なんだか全身が気だるいのだ。
それが一志のせいだと知るのはだいぶ後になる。
「佳奈、大丈夫?具合悪そう」
最初に気づいたのは彼女だった。
「なんだか、猛烈な眠気が……」
二人が一志の行動に注視していれば、未然に防げたことかもしれなかったが席を立っていた佳奈はもちろんのこと、始終一志の行動を監視しているわけにはいかない。それこそ怪しまれるというモノだ。
「もう、お開きにしよう」
「そうよ。佳奈、最近残業続きだったって、言ってたじゃない」
友人の二人が佳奈を気遣う中、一志はタクシーを呼んでくれた。
優しいところがあるんだなと思ったのが大間違い。
全て一志の計画だったのだ。
「ほんとに送らなくて大丈夫?」
と問う彼女に、どうして付いてきて貰わなかったのか。
眠気で判断力を失っていた佳奈には後悔しかない。
だが、断った理由としてはこれ以上迷惑はかけたくないという気持ちと、一志がついて来ないなら安心という気持ちがあったから。
まさか一志がもう一台のタクシーで、佳奈の後を追ってきているとは思ってもいなかったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
白椿の咲く日~遠い日の約束
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。
稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と庭の白椿の木に、何か関係があることに気がつき……
大人の恋物語です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる